第三章 旅人の正体と―――ハロウィン・タウンの、魔女娘―――!

1街:第14話 メイドさん、挨拶がわりの一撃

 酒場の入り口に立っている、ただの人間の旅人を名乗る青年、アインは。


 そのまま、内側へ踏み入る―――背負った巨大な棺桶が、バキバキと音を立てて建物を壊してしまうのも気にせずに。

 むしろ気にしているのは、無法の盗賊団であるオーガの方で。


「オ、オイオイオイ……待て待て! 強引すぎんだろテメッ酒場が壊れちまうだろが! おれらのモンになる街で、好き放題してんじゃね――」


「おまえ達の街ではない。ここはハロウィン・タウン、パンプキン・モンスター一家の街だ。だからまあ、この場で怒る資格があるのは、トゥーナだけではないか?」


「ア、アアンッ? 何ほざいてやがる、この状況が目に入んねぇのか? もうこの街は、おれら盗賊団のモン――」


 オーガが言い返そうとするも――食い気味に叫んだのは、トゥーナ。


「ッ、いいわよ! 建物なら、アタシたちの一家が魔法でまた造るからっ! だから……お願い……ただの人間に、無理は承知だけど……助けて! 隙を見て、アタシの拘束を外してくれれば、こんなヤツらっ……お願い……助けてくれたら、アンタの旅にでも何でも、付いていく……ううん、何だってする――」


「ああトゥーナ、キミもここに居たとは驚いた。でも別に、交換条件とか必要ないぞ。どうしても気が進まないなら、旅だって無理強むりじいはしないし」


「えっ。……えっ、えっ……いやあの、えっと……?」


 困惑するトゥーナに、アインは普段通りのように、平静な声で告げる。



「家族の頼みを聞くのに、交換条件も無いだろう――当然、助けるさ」


「! ……あ、ぅ……」


「厳密には、まだ家族候補だけどな。まあいいさ、サービスだ」



 あっけらかんと言ってのける、ただの人間・アインに――そろそろ無視されることも堂に入ってきたオーガが、額に青筋を浮かべつつ口を開く。


「ぐ、へへっ……クソザコ人間風情ふぜいが、エラそうにほざいてくれるけどよ……ただの人間が、どうやってコイツらを助けるって? なあオマエら、笑い話もここまでくりゃ、笑えねぇよなぁ!」


『ケッ、全くだぜ!』

『捻り潰して引きちぎって、酒のさかなにでもしてやっかぁ!?』

『……あの棺桶、どっかで……』

『おいイカれた人間のガキィ、後悔しても遅いぜェ!? ゴーブゴブゴブ!』


「おーし、野郎ども! 思い上がった馬鹿野郎に、身の程ってモンを教えてやれ!」


 盗賊団の中心であろうオーガが合図するや、別のオーガ、荒々しい雰囲気のオーク、牙を剥きだす狼男――いかにも恐ろしい顔ぶれに、にじり寄られ。


 対するアインは。


「ああ、そうだな。確かにただの人間の俺では、大したコトは出来ないし。……というワケで、だ」


 特に感情の揺らぎもなく、軽く顔を後ろにらし、語りかけるのは。


「ロゼ、頼めるか?」


「……………………」


 壊れた入り口と、巨大な棺桶、その隙間をうようにして現れたのは。


 あでやかな長い銀髪と、神が造り出したかのような美貌を持つ、メイド――全くの無表情のまま、なぜか彼女は酒瓶を一つ手に取り。


 呑気に座ってニヤけ顔をする、ゴブリンと思しきモンスターへ、歩み寄ると。


『ゴブ? なんだァ綺麗なネェちゃん、おしゃくでもしてくれんのかァ? へへ――』


「メイド・アタック」


『ゴブリュッ』


 その脳天に、酒瓶が容赦なく叩きつけられ―――ゴブリンは潰れたような奇声を発しつつ、一発ノックアウトされ、割れた酒瓶とアルコールに塗れた。

 美しきメイドによる、突然の暴力に――呆然としていた盗賊団の中から、ようやく非難の声が上がってくる。


『てっ、てっ、てっ……テメェいきなり何しやがる――!?』


「マスター・アインのことを、先ほど〝イカれた人間のガキ〟などと侮辱ぶじょくしておりましたので」


『だ、だからってそこまで容赦なくブチかませるか!? 躊躇ためらいもなけりゃ全力だっただろ、どんだけキレてんだテメッ!』


「ただの挨拶がわりですが」


『このメイド、行動原理がチンピラみてぇなんスけど!?』


 盗賊団が何かビビっている――が、行動がチンピラじみていると評判の美しきメイドの行動は、まだ続き。


 取り出したマッチに、シュッ、と火をつけると。

 倒れ伏し、酒まみれのゴブリンに―――無表情で、ぽいっ、と投げつけ。


『ぅ。……ぁ……アッチチチチチ!? アッヅァァァァなんだゴブリャァッ!?』


『ウッウワァァァァ!!? ご、ゴブザブロウーーーー!!?』


「……マスター、いまいち火の手が弱いです」


「飲料用だからな、アルコールは薄いのだろう。次からは油でも使うとイイ」


「かしこまりました、次からはそのように致します」


『オッフフッふざけんじゃねーぞサイコパスかオメーら!? 人の心が少しでもありゃ、とてもじゃねーが出来ねーぞコレ!?』


 モンスターに人の心をかれる、なかなか珍奇ちんきな状況だが――いよいよモンスター達もいきり立ち、今にも飛び掛かってくる構え。


 それでもなお、無感情な銀髪メイド・ロゼが――アインへと。


「マスター、ご命令を」


「ああ、丁寧な挨拶も終わったようだしな。……では」


 棺桶を背負ったまま、アインは美しきメイドへと、パーティーへ送り出すような声音こわねめいずる。

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