1街:第10話 モンスターの盗賊団!

 ハロウィン・タウンは、本来なら陽が出ている時間でも―――夜のように暗い。

 街の主たるパンプキン・モンスターの力が及んでいる証拠でもある。


 タウンから少し離れているリリィの家までは、常夜とこよとばりは降りていない、が。


 とにかく、昼の時間帯でも薄暗いハロウィン・タウンには、常にカボチャのランタンがともっているのだが――今、街には明かりとは違う、火の手が上がっていた。


 その蛮行を成しているのは、まさにモンスター。

 ただし、支配者たるパンプキン・モンスターではない――全く別の種族たち!


『ヒャッハッハァ! 壊せ、暴れろ、奪い尽くせ!

 それがモンスターの特権だ――なあ、そうだろォ!?』

『『『ウオォーーーーーンッ!』』』


 オーガ、オーク、狼男ウルフマン――元より気性のあらい種族の中でも、取り分け粗雑そざつな身なりと、乱雑らんざつに過ぎる行動原理。


 まさにそれは、モンスターの盗賊団―――!


 今まさに乱暴に放り投げられた住民の一人が、地に突っ伏してうめき声を上げる。


「う、ううっ……な、なんだってんだよ……おかしいだろ、街にはパンプキン一族の結界が張られてて、誰かが招かない限り、侵入なんて出来ないはずなのに……なんで……」


『アアン? へへ、何言ってんだ、答えは今、自分で言ったじゃねぇか……なあ、オイ?』


 人間の背丈せたけほどもありそうな棍棒を担いだオーガが、声をかけたのは――街では自称・オシャレおじさんと有名な、コートを着た男。


「!? ま、まさか、アンタが……オイ、なんでこんなコト……」


「へ、へへっ……アイツらが、あのカボチャのモンスター共がいけねぇんだ……おれさまのオシャレを認めねぇからっ……お、おまえらだって、日ごろから文句言ってただろ。毎日カボチャばっかで飽きるとか、たまにゃ別のファッションもしてみてぇとか……だからおれは、皆のために行動しただけだ! おれは、おれは悪くねぇっ!」


「なっ。た、確かにおれたちだって、文句言うことはあるけど……でもアンタの趣味は本当、他人に迷惑かけちゃうヤツだから、認められねぇのは自業自得っつか……」


「う、うるせえ、うるせえっ! へへっ、ねえダンナ方ッ……」


〝皆のために行動した〟と口で、自称・オシャレおじさんは両手でゴマすりしつつ、オーガへと語りかける。


「だ、ダンナ方を、この街へ引き入れたんスから……約束通り、おれにも取り分、いただけるんスよね? そんでこの街での、おれの権力も保証してくれるって……」


『アン? ……ああ、そうだったなァ~……』


「へ、へへっ! お願いしやす……そしておれは思う存分、このコートを全開に――へ?」


 自称・オシャレおじさんが、言い切るより先に―――オーガの棍棒が振り上げられ、その体を大きく吹っ飛ばす。


「ぷ―――プギャッ!? な、な……何で……!?」


『ギャッハハ! 弱っちい人間なんかとの約束を……

 強いモンスターが、守るわきゃねぇだろうがァ!!』


「な、がっ……だ、だましたのかっ……おれを騙したのかぁ!?」


『ヒヒヒ。……そしてぶっ飛ばした時、コートの下からキッタネェもんがモロに見えちまった……言動といい、おまえも立派にモンスターだよ。オーガにトラウマ植え付けたんだからよ。心の底から気持ち悪いよ』


『少しはかえりみて欲しいよな、自分の言動と身なりを……』

『全裸コートは、ねぇわ……モンスターで、しかも盗賊団といえど、さすがにドン引きだわ……』


「ちっちくしょうっ……ちっくしょおおお! おれはなんてことをぉぉぉ!」


『いまいち反省を感じねぇんだよな、あの叫びに……』

『〝とりあえず言っとけ〟みてーな姿勢を感じるわ、ホントどうしようもねーな』


 自称・オシャレおじさんの身も心もフルボッコにしつつ、しかしそれは自業自得なので仕方ないとして。


 今まさに〝戦利品〟を担いでいる大柄なオークへと、オーガが尋ねる。


『オッ……おう、そいつが〝例のガキ〟か?』


『ん~』


『ったく、相変わらずのっぺりしてんなぁ、オーク族は。あんまり雑に扱うんじゃねぇぞ、そいつぁ……高く売れるって話なんだからよ、ヘヘヘ』


『ん~……』


『ちゃんと分かってんのかね。まあイイや……んじゃ、酒場のボス達と合流すっか。オーイ、おまえらも暴れて満足したら、適当に切り上げろよ~』


『『『うーーーーーっす!!!』』』


 返事を聞いて、去っていくオーガと――大柄なオークに担がれている存在。


 一人の〝少女〟を、物陰から隠れて見つめていた住民は、焦燥しょうそうと共に。


「ンマァ、ンマァ~ッ……大変だわ……パンプキンさん達に、伝えなくちゃ!

 を……助けてって!」


 身を隠しながらも、そう呟いたのだった。

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