乳、そして退部へ。
元気モリ子
乳、そして退部へ。
先日何気なくこの話をしたら、
「そんな滑稽な話もっと積極的にしていくべきやろ」と親友に言われたので、
特に気も乗らないが書いてみることにした。
大学時代、一瞬だけ陶芸部にいたことがある。
なんで入ったのかも思い出せない。
恐らく陶芸がやりたかったというよりかは、
陶芸部の部室兼活動場所がとても魅力的だったからだと思う。
陶芸部は大学構内の本当に隅っこに、ポツンとあった。
たぶん学生たちでもその存在を知らないような、
「ここは果たして本当に構内なのか?」
というぐらい奥の奥にあって、何故かその隣には小さな墓地があった。
辺りは雑木に囲まれていて、急勾配の短い坂を登ると汚ったない建物が現れる。
そこが私たちの活動場所だった。
陶芸部には先輩らしい先輩はおらず、というか同学年の面々が素敵過ぎて覚えていないだけかもしれないが、そのせいもありとても自由だった。
陶芸部には確か三人のメンバーがいた。
ひとりは同じ学部の女で、酷く「オバちゃん」という存在に魅力を感じているらしく、豹柄の服を着たオバちゃんを主演にいくつも映画を撮っていた。
あと二人は他学部の男で、ひとりは年上の彼氏との情事を来る日も来る日も妖艶かつ詳細に語ってくれ、私たちを甚だしく興奮させてはニヤニヤと笑った。
もうひとりは中国からの留学生で、たぶん5つぐらい年上だったと思う。
日本語も上手で頭も切れるが、やはり大陸出身の行間に島国の私たちはよくハラハラさせられた。
彼は私に「モリ子昨日の方がかわいかったね。残念。」と会う度に言い、「そういう時は言わなくて良いんだよ」と根気強く教えてやったが最後まで直らなかった。
そんな愉快な面々に囲まれた陶芸部生活だが、
私が作品を釜で焼いたのはたった一度切りだった。
陶芸部に入部した初日、
同学部の女からとりあえず土の捏ね方を教わった私は、「あとは好きなの作ったら良いよ」という言葉を鵜呑みにし、本当に好きなものを作った。
「好きなもの」、、、「おっぱい」だな。
人間自分にないものを求めてしまうのは性のようで、控えめなそれしか持ち合わせていなかった当時の私(今も控えめであるが見栄を張る)は、大層おっぱいに心惹かれていた。
そうだ、「おっぱい」をモチーフに今欲しいものを作れば良いのだ。そうすれば一石二鳥。天才だ。
そんな容易な発想で生み出したのが、
「おっぱいリングホルダー」だった。
土で捏ねた豊満な乳に、ただ乳頭を長く鋭く成形した作品である。その乳頭部分に指輪をかければ、あら不思議、れっきとしたリングホルダーになる。
恐らく四つほどはかけられたはずである。
今思えば世界にまだ見ぬ作品だったかもしれない。
私は初めての作品にかなり興奮し、中国の彼からの「モリ子、やるね」の一言で、その興奮はなんらかの確信へと変わっていた。
そして、文字通り胸を躍らせながら私はそれを釜へ入れたのである。
四の五の言っても仕方がないので結論から述べると、
私の乳は釜の中で爆発した。
中に空洞を作っていないと爆発すると知ったのは、それから随分後のことだった。
創造力と知識が伴っていて、初めて芸術家と呼べる。
私にはその知識が備わっていなかったのだ。
私の乳が爆発した際、隣りにあった他の部員の作品にまで被害が及んだと耳にした私は、その申し訳なさから人知れず部を去った。
あれ以来土は捏ねていないし、彼らにも会っていない。
彼らは何処かで元気にやっているだろうか。
こんなご時世になった今、
案外会いたいと思い出すのは彼らだったりするのだ。
乳、そして退部へ。 元気モリ子 @moriko0201
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます