鬼人

くろこんぶ

第1話  扉

「まさか、あなたがスパイだったなんてね。」

「……これが仕事なんでな。」

「そうね、でも少し悲しいわね。」

「……すまない。君が対象だなんて知ってたなら、こんな仕事……‼」

「仕方ないじゃない。仕事なんだもの。でも、これだけは言わせて。愛してたわよ。」

「……そう…か…」俺と彼女しかいないその部屋にはパンッと言うか乾いた音が

二発、一発目と間をおいて響いていた。

俺が起きた時、そこは俺が生きる世界じゃなかった。

いくら何でも真っ白すぎだ。ここはどこなんだろうか。

「起きたか。人間よ。」

体が自然に反射して、危険だと判断していた。人ではなく、鬼の見た目をした異形だ。

「お前は誰だ。」

「そう急くな。まずはゆっくりお茶を使用ではないか。」

「・・・・」

どういう状況?これ。俺今魔獣と思われるやつとお茶たしなんでるんだけど?

「いやはや、久しぶりに人間と話せるのう。まあゆっくりしていくがよい。ほれ、今までのおぬしの人生を振り返って、話してみてはくれんかな?」

「え、ええ。わかりました。」

それから俺はすべてを話した。自分はスパイであり、魔獣を倒す隊の一員として活動していたこと。醜野目家と呼ばれる家にスパイの任務で赴いき、場で恋をしてしまった事。その現場で殺す対象がその恋をした令嬢であったため、殺すのがつらく、最後に両想いだったことを告げられ、心中するに至ったこと。すべてを話した。

「……おぬし、我が眷属の者に手を出したのか。やってくれたのう。」

「え?」

「わしは見た目通り鬼じゃが、鬼が何と呼ばれているのかを知っておるかの?」

「いえ、まったく。」

「醜じゃよ。漢字一文字で(しこ)とよむが。その家系は醜野目じゃろう。我の力の大部分を持っている、重要な眷属だったんじゃがな。」

「⁉それは、大変申し訳ありませんでした!」

「いや、よい。じゃが、いくつか聞いてもよいかの?」

「はい、何でも!」

「君はその令嬢のことをよく覚えておるかい?」

「はい。」

忘れるわけがないだろう。美しい顔立ちに、優しい心を持った素晴らしい人間だったのだから。名は、醜野目 沙羅。

「では次に。もしもう一度やり直せるならば、そのものを全力で守ると誓うか?」

「もう一度チャンスがあるなら、絶対に同じことは犯しません。」

「そうか。最後に。それが、自分が異形の姿になってでも、かな?」

「……はい。それで彼女を守れるならば。」

「よい。素晴らしい覚悟じゃて。いやはや、まだまだ20前半の若者には見えないのう。」

「そうですか。」

「ああ、では、正式な取引と行こうかな。」

「取引、ですか?」

「ああ。取引じゃよ。」















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