帝国最強騎士団長だったけどパンティ集めることにします。迷惑はかけません。

氷堂

第1話 パンティが欲しい

「失礼。パンティを戴けませんか?」

 大勢の騎士が集まった王城のバルコニーで一人の騎士が跪いた。片膝を折り地に拳を付いた先で青ざめた姫が後退る。騒然とした騎士たちは開いた口が塞がらず指先一つ動かすことができない。

 沈黙に風が流れる。

 騎士が頭を上げた。艶のあるミディアムの黒髪に頬骨の張り出た輪郭。二十六の歳の割に皺は見えず顎や頬に髭はない。細くて長い眉毛は清潔感をより際立たせ、鋭い目元は猛禽類を思わせる。

 一片の迷いなく開かれた瞳は、口から飛び出た台詞にまったく似合わない。

 もう一度吹いた強い風に姫のドレスが靡き、再び純白な逆三角形が晒された。

 シルクレースのパンティ。

「姫様。どうかそのパンティを私めに――」

 こうしてティーパン帝国騎士団総団長アムリヤス=フェルドナードは王城から摘まみ出された。


 すべてを失った。

騎士総団長としての威厳も権力も、富も名声も。帝国中から向けられていた厚い信頼も。長年かけて積み上げてきたものがたったの一言で完全崩壊した。

他の騎士とは比べ物にならないほど立派な鎧。帝国随一の刀匠が一年の歳月を費やして仕上げた魔法聖剣。細身の肉体から取り上げられる様はまるでバーゲンセールのようだった。

パンツ一丁で裏門から放り出された身体を転がして仰向けになり、頬に吐き捨てられた臭い唾を拭いながら天を仰いだ。

「遂に見つけたぞ。俺の成すべきこと――」

 脳裏にはあの光景。国民たちの前に立つエルナドーラ姫を際立たせようと発動した聖風魔法、それが誘った少しばかりのアクシデント。翻ったドレスの奥に隠されていたもの。

 洗礼されたシルエット――柔らかそうな質感――離れていても感じる香りと温度――。

「パンティこそ我が宿命!! この身が追い求めていたものだ!!」

 すべてを失い、たった一つを得た男は愉快に笑い飛ばす。

 帝国一の騎士は新たな覇道を歩み始めた。


 大帝国ティーパン帝国。人口二百万人を有する大帝国は高度な経済力と史上最強と名高い騎士団を持つことで世界屈指の都として名を轟かせていた。ありとあらゆる人と物が集まるこの安寧の国で、女性たちの生活を脅かさんとする変態が生まれようとしていた。

 その変態はあろうことか、ティーパン帝国騎士団が世界最強と謳われる根本の男だった。

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