どうか健やかに

世界は、私が死んでも生き続ける。

だけれども、世界が死ねば私は生きる事が出来ない。

土地は枯れ、生き物は死に、世界は消えてしまった。

だから私たちは、次の世界を探すしかなかった。

船を作り、人を選別し、より良い遺伝子を残すため、次世代の生命を造り変えた。

結果、人は人の価値をなくし、その姿を変えた。

もはやヒトでは無かった。

だけどそれでも。

「健やかに育って欲しい」

抱きかかえたそれは、私を見る。品定めをするかの様に。

「お願いだから…」

そんな目で私を見ないで。

いずれ、これから生まれた世代は、私たちを超え、淘汰するだろう。生きるために食事すら必要がないのだから。


3年後、研究室の、もう何冊目かになる実験報告書の死亡欄に新たな名前が追加された。

1256号試験体、3年1ヶ月で、死亡。

原因、脳の成長に体の成長がついていかず、消化器官が発達しなかったため。遺伝子組換え番号A5352は失敗に終わった。

結果、遺伝子組換え番号A5352に感情を伝える場合のみ、若干の寿命上昇が見られた。

遺伝子組換え番号A5353に移行する


彼女は、ペンを置いて、試験管を棚に置いた。

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