第4話・羽里野山の宇宙人

4-1・遠足開始~弁当が無い~バルミィ遭遇

 直ぐ目の前に地球と月が大きく浮かんでる宇宙空間で、2機の円盤が争っていた。2機とも超高速を保ちながら鋭角に曲がったり、スピード落とさず相手の真後ろへ瞬間移動をするなど、形も飛び方も常識を逸してる。こんな乗り物、どう考えても今の地球の技術じゃ造れない。他の星から来たUFOだ。

 追っている方の大型UFOのビーム砲が発射された。追われてる小型UFOは、回避に専念する。しかし、次々と発射されるビームのうちの一閃が掠って、小型UFOの一部が融解!スピードがダウンして、「このままでは追い付かれる」と判断した小型UFOは、地球の重力下に入り、雲を突き抜けたところでステルスモードを発動。地球のレーダーから反応を消して、人里離れた山間地に降りていった。




―翌朝・羽里野山の麓―


 最寄駅から徒歩で訪れた優麗高の生徒達が、麓の駐車場でクラスごとに整列して先生からの注意事項を聴いていた。

 シャトルバスで3合目まで行ってロープウェーを使えば簡単に頂上に到着するが、それでは運動にならないので徒歩で登る。片道、約2時間程度だ。少し険しい箇所が2つばかりあるけれど、全体的に整備が行き届いて歩きやすい、ハイキング初心者向けの、それほど高くはない山である。

 生徒の大半は「今さら羽里野山?」って気分だ。文架市で生まれ育った者なら、小学校時代の遠足で1度は来る。そうでなくても、手軽な観光地なので家族と来ている。


 優麗高の校舎の修理が完了するまで、クラウンドにプレハブの仮設教室が建てられた。その為、野球やソフトボールやサッカーなどの屋外スポーツを主体とする【秋の球技大会】が開催できなくなってしまい、生徒会が、代わりに【羽里野山ハイキング】を企画して、本日が2年生の決行日なのだ。


「・・・・繰り返しますが、くれぐれもケガの無いように。

 では、各グループごとに出発!」


 学年主任の挨拶&注意事項説明が終了し、生徒達は事前に決めたグループに分かれて歩き出す。紅葉・亜美・その他で構成した6人組も出発した。


「・・・・・・だりぃ~・・・」


 C組の美穂は、グループのメンバーから少し距離を空けて歩き出す。今日の楽しみと言ったら、保冷袋で持ってきたキンキンに冷えてるビールをコッソリ飲む事くらいだ。言うまでもなくアルコールの持参は認められていないのだが、自然の中で適度に身体を動かした後の冷えたビールは格別なのだ。




―羽里野山の何処か―


 小型UFOが、人目を憚るように着地している。機体の一部が破損しており、それを少女が1人で修理している。見た目は地球人と殆ど同じ。ただし、地球人では有り得ないエメラルド色の綺麗な髪の毛と、髪飾りのような2本の触覚。そしてボディーラインがハッキリと解る全身タイツみたいなスーツを身に纏っていた。頭と両耳と両手と両足には、美しい鉱石のサークレット&イヤリング&ブレスレット&アンクレット。


「ばるばる~っ!!まさか、あんな、野蛮な連中に見付かるなんてばる~!」


 地球への到着は、あくまでも‘お忍び’なので、地球のレーダーに引っ掛かるわけにはいかない。被弾してしまったので、ステルスモードで身を隠して地球へ降下をして、人里から離れた場所を選んだ結果、羽里野山に緊急着陸したのである。


「しかし、お腹が空いたばる~。

 地球てとこの食べ物は、ボクの星の食べ物より、華やかって聞いているばる。

 ・・・ん?あっちの方から、美味しそうな匂い!」


 少女は鼻をクンクンさせてから無邪気な笑みを浮かべ、フードを被って顔を隠して、食料を調達するべく出発。獣道を物音1つ立てずに歩き、重力を無視するかのように、木から木へと飛び移り、全身スーツの色を周りに同化させて身を隠し、美味しい匂いがした方角へと向かう。




―羽里野山・登山道―


 天気は良くて適度に暖かく、絶好のハイキング日和だ。とりあえず弁当の時間までに頂上の展望台へ到着さえすればOKで、途中の行動はグループ任せ。実に呑気な校外活動だ。

 景色の綺麗なとこでスマホで記念撮影したり、小休止して菓子を食べたりしながら順調に登ってたが、賑やかだった紅葉が不意に無言になって辺りを見回す。


「ぅ~ん・・・・・・何かチョット変な感じ。・・・・・・・・ぁれ、消えた?」


 紅葉は、首を傾げ、もう一度周りを見て、「異常無し」と確認をして、再び目的地に向かって歩き出す。


「危なかったばる・・・あの子、地球人の割に勘が鋭いばる。

 見つかるかと思ったばる。」


 離れた木の上で、謎の少女が冷汗たらして溜息をもらし、紅葉を眺めていた。その背中には、優麗高の生徒達から盗んだ弁当を詰めた袋を担いでる。匂いで中身を判別し、透明になって接近。一瞬でリュックの蓋を開けて狙った弁当を抜き取り、同時に同じ重さの石ころを入れて誤魔化す。そんな方法で、まんまと数日分の食糧をゲットしていた。


「さて、ちょっと味見」


 太い木の枝に腰掛けて、適当な弁当箱を開けて、ミートボールを1つ摘まんで食べる。メッチャ美味くて、ほっぺたが落ちそうになる。こんな美味い塊を食べたことが無い。続けて、カットパインを食べたら、口の中がジーンと痺れて涙を零しそうになる。なんなんだ、この味の付いた水分の塊は?

 ‘彼女の国’の食事と言えば、水分無いショートブレッドや粒状のサプリメント、水はとても貴重で、科学的に精製された物を、最低限だけ摂取する。だから、食事が美味しいなんて思ったことは、今まで一度も無かった。


「地球人の食べ物、美味しすぎるばる~~!もっと欲しいばる~~~!!」


 欲が出た謎の少女は、出来る限り多くの食料を調達する為に、次のターゲットを狙って木から木へと飛び移り、優麗高の遠足の集団を追跡する。




―数分後―


ズズズズズズズゥゥゥゥゥゥゥ~~~~~~~~~ンンッ!!!

 不意に轟音と共に地響きが起こったので、登山中の生徒達は軽くパニックになる。


「ぇっ!?ぇっ!?何事だぁ~っ!?」 「や~んっ!!」 「マジかよっ!!」

「ありえね~っ!!」 「おいおいおい~っ!!」

「もう収まったよ!!とりあえず、落ち着こっ!!」


 さっそくスマホを取り出してニュースサイトに接続。だが地震速報が配信される気配なし。いったい何だったのか?「隕石でも堕ちたんじゃね?」って言いだす者も居たが、登山道は木々に囲まれてるので、周りの様子を知りようが無い。登山道の各所に立ってた教師達の指示に従って、暫くは大人しくしてたが、特に何事も無さそうなので、登山を再開して頂上を目指す。

 付かず離れずで生徒達の弁当を狙う謎の少女だけが、状況を解ってる。木のてっぺんから空を眺めていた。


(あっちゃ~~・・・アイツ等もここに来ちゃったばるか?

 予想進路を割り出されちゃったみたいばるねっ!)


 大型UFOが着陸した場所は、少女のUFOが有る場所からは、かなり離れている。この山(羽里野山)に隠れてるって事まではバレてしまったが、小型UFOを上手く隠したつもりだから、簡単には見付からないだろう。しかし、問題は、離陸をする時。同じ山中に待機されてたら、見付かって狙い撃ちにされてしまう。


(こりゃ~、長丁場の潜伏になりそうばるね~~。

 その為にも、美味しい食料を集めておかなきゃばるっ!)


 少女は食料調達を再開。「ちっちゃくて髪がビョ~ンってなってる勘の鋭い子」には、警戒をしなければならない。先刻はマジでビビった。傍目には出鱈目にキョロキョロしてるようだが、紅葉は保護色で隠れてる少女を確実に感じて目で追ってたのである。


(でも所詮は地球人。そのうち油断するばるっ!)


 謎の少女は音もなく木から木へ飛び移り後を追う。




―羽里野山・北側―


 謎の少女を追っていた大型UFOが着陸をしていた。UFOの扉が開いて、地球人の男と同じ姿の者達がゾロゾロ出てきた。謎の少女と同じ全身スーツを纏っている。


「ヤツはどこに行った?」

「必ず探し出して、捕らえろ!」


 雲の通過時に、追っていた小型UFOを見失ったが、高性能演算機で着陸した可能性の有る場所を割り出したのだ。標的が、この辺に潜んでるのは間違いない。司令官っぽい男が少女捜索の指示を出し、命令を受けた部下の男2人が山の中を駆けていく。




―羽里野山・頂上―


 生徒達が、続々と到着して、思い思いに時間を過ごしていた。


「っぃたぁ~っ!!」


 紅葉のグループが到着した。山道を2時間ばかり歩いてきたので、他のメンバーはそれなり疲れてるけど、紅葉だけ元気一杯だ。彼女が元気じゃないのは、体育と調理実習以外の授業中と、腹が減ってる時と、眠い時くらい。

 ちょっと先に到着して退屈しきってた美穂が、紅葉と亜美の姿を確認するなり嬉しそうに寄ってきた。美穂はC組で見事なまでに浮いているので、仲良く会話するクラスメイトなどいない。『単独行動』は許されてないので、渋々と人数が足りなかったグループに混じったが、会話など弾むはずがない。


「よお」

「ぁ、ミホだっ!!神社に行こぅ神社っ!!」

「そうだな、行ってみるか」

「ちょっと休ませろよ源川~っ」

「私、疲れた~」


 到着して間髪入れずにイベント開始しようとする紅葉に対して、亜美を除いたメンバーが愚痴を垂れる。紅葉が露骨につまらなそうにしてるのを見かね、亜美が「美穂ちゃんと3人で行こう」と宥めると、紅葉は機嫌を直して、次の瞬間には神社に向かって歩き出した。亜美と美穂は「やれやれ」と苦笑して後に続く。

 まずは参拝。並んで賽銭を放って鐘を鳴らして手を合わせる。次に神社を訪れた女子の定番で御神籤を引いて、良かった悪かったと話を弾ませる。

 紅葉が御神木に寄って行って傍に立って、幹に手を添えてジッと目を閉じた。


「何やってんだ?」

「ん・・・・・・御神木に挨拶。

 こぅすると、御神木の体力を分けてもらえて、何か元気になるょ。」

「へえ~っ、私もやってみよう」


 釣られて興味持った2人も、一緒になって紅葉を真似てみる。緑の香りは心地いいけど、「木に触ったおかげで体力が回復した」感覚は無い。気分的な問題か?紅葉が御神木と会話中(?)で、時間を持て余した美穂が、暇そうに辺りを見回したら、他のクラスの連中も、神社にお参りに来ているのが見えた。


 その中に、2年A組の女帝・葛城麻由の姿もある。熊谷真奈を含めた、同じ班のメンバーを伴って、参拝をしている。他の連中がお喋りをしながら漠然と参道を歩くのに対して、麻由だけは、鳥居の前でお辞儀をして、参道の正中(真ん中)を外した場所を歩き、手水舎では手や口を清め、お賽銭箱の上にぶら下がってる鈴を鳴らして、音色で自身を清めてからお賽銭を入れて、丁寧な二礼二拍手一礼をする。

 葛城麻由が、神様に礼を尽くしている姿を見るのは少し意外。美穂は、神社の参拝のやり方なんて知らないけど、「多分アレが正解なんだろうな~」と感じながら眺めていた。

 参拝を終えた麻由は、紅葉が接触中の御神木の枝の下に入り、遠目に上をあおいでスウッと深呼吸をする。学校内では、常に眉間にシワを寄せてツンとした表情をしているが、普段の麻由とは違って澄んだ表情をしている。美穂は、またもや、麻由の意外な行動を見たような気がした。てっきり、神様なんて信じない、現実主義かと思っていた。


 やがて、全ての生徒が山頂に上がってきたので、クラスごとの召集がかかった。クラス単位で点呼してから、弁当タイムとなる。

 一旦C組に戻った美穂は、点呼が終わるなり離れて紅葉達と再び合流をした。嬉々としてリュックを開け、中身をゴソゴソ掻き回し、「あれ?」と言いたげな顔になってリュックを覗き込み、次の瞬間に目を点にして頓狂な声を張り上げた。


「なんじゃああ、こりゃああああっ!?」

「美穂ちゃん、何事?」

「どぅしたのぉ~?」

「あ・・・・いや・・・・ちょっと」


 楽しみに持ってきたビールと乾き物が、知らない間に石ころとすり替えられてる。当然ながら、「高校生が遠足にビールを持ってきた」なんて言えるわけがないので、「ビール無くなった」と白状できない。100歩譲って乾き物は我慢するとしても、ビールだけは諦められない。だが、代わりを入手する術が無い。売店へ行けば買えるけれども、まさか、同期生や先生だらけの場所で、堂々とアルコールを買う事なんて出来るわけがない。お楽しみだったビールが消え失せたショックと、それを誰にも言えないジレンマ。美穂は怒りのやりどころが無くて、ただ固く握りしめた拳を震わせるのみ。


「ええええ!?」 「嘘だろっ!?」 「ちょ、ありえねえっ!!」


 あちこちで絶叫が上がる。揃いも揃って、持ってきたはずの弁当が無い。代わりに石ころが詰められている。パニックになりつつ周りを見たら、他の生徒達も同じようだ。

 どう考えても自然現象じゃないが、そうすると「誰の仕業で、何の為こんな事を?」って疑問が湧いて来る。サッパリ事態が呑み込めなくて、呆然とするばかり。


「皆、落ち着きなさい!!」 「静かに!!落ち着いてっ!!」


 教師達が懸命に宥める声は、生徒達の声に掻き消されて届かない。食べようとしてた紅葉達だが、自分達の弁当は無事なのが何となく申し訳ないような複雑な気分になって、気まずそうに周りを見廻している。


 その様子を木の上で観察してた謎の少女は、ニッと笑いながら収穫物が詰まった袋を探って、御丁寧に保冷剤と一緒に保冷袋に入ってた缶を取り出した。軽く振ってみると、チャプチャプと液体が揺れる音がする。これはおそらく飲み物だ。水が貴重な環境で育った少女は、缶の中に詰まった液体に興味津々。きっと、さっき食べた水分がいっぱいの固形食料(カットパイン)みたく美味しいのだろう。


「ちょっと喉を潤そうばる~」


 これは確か、「ちっちゃくて髪がビョ~ンってなってる勘の鋭い子」の隣でフリーズしてる「可愛いけど狂暴そうで全体的に平らな子」のリュックから失敬したモノである。少女は保冷袋から、念入りに冷やされてる缶入りの飲み物を取り出して、物珍しそうにロゴと絵を見つめる。


「え~と、地球語で・・・ビールって読むばる?」


 どんな物だか知らないけど、肝心なのはキンキンに冷えてる事。地球の食料に一目惚れをしてしまった少女は、暫し眺めてから蓋を開け、プシュッっと飛び出た白い泡を物珍しそうに眺め、一気に半分ばかり飲み干した。


「うおえええええええ~~~~っ!?!?何こればる~~~~~っ!?!?

 苦っ!!!!めっちゃ苦っ!!!まっっずっっっ!!!!

 ・・・・てゆ~か・・・・何か変・・・・・」


 途端に、目をシロクロさせて絶叫!とんでもない苦みと炭酸の刺激が、喉と口を直撃!続いて身体が熱くなり、さらに数秒の間を置いたら頭がクラクラして平衡感覚が麻痺!頬を桜色に染めて目を回した少女は、脚を縺れさせて、弁当と一緒に木の枝から滑り落ちた!

 盗んだ弁当が散らかり、手から離れた缶ビールが転がって、残ってた中身が流れて地面に吸われてく。


「いてててててばるぅ~~~~~~~~~~~・・・・・・・・・・・あ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」×数百

「こ、こんにちはばる」

「・・・・・・・・・・・・・・・」×数百

「ほ、本日は、お日柄も良く」

「・・・・・・・・・・・・・・・」×数百

「・・・ばる~」

「・・・・・・・・・・・・・・・」×数百


 生徒達に見つかってしまった。謎の少女を見た瞬間は「何、この子?」「コスプレマニア?」「けっこうカワイイじゃん」と思ったが、傍らに転がってる大きな袋から盗まれた弁当とおやつが飛び出て散乱してるのを見て事情を察した。生徒達は「こいつが犯人だったのか」と、揃って怖い顔で取り囲む。

 少女は逃げようと思って立ち上がったが、酔っぱらって足腰に力が入らない!たちまち取り押さえられ、誰かが何処からともなく取り出した縄でグルグル巻きにされてしまうのだった。


「ふてえ奴だ!!」 「許さねえ!!」 「てゆ~か、何者!?」

「ご、ごめんなさいばる~~~~~~っ!ごめんなさいばる~~~~~っ!」


 何度も謝ったが、簡単に許してもらえそうにない。美穂が、皆を掻き分けて前に出て来て、目を三角に吊り上げ、指を鳴らし、凄まじい殺気を放ちながら、謎の少女を見下ろす。

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