着任前の長安での長い休日

第20話 今日は上司公認で半ドンして風俗へ

 「ここまでで納得してもらえたので、次は着任前研修でも、着任後においおいで説明してもいいし、午後このまま続けても良いのだが……。」

皇帝陛下は、ここで一区切りついたので、午後どうするのかと言い始めたが、ふと気付いたように、

「卿はここに来てからまだ一度も早退して遊びに行くというのをしてないな。いずれ必要になったとき躊躇なくそれが出来るように、練習の意味も込めて今日は半ドンにしよう。」

とおっしゃった。


半ドンが必要になる時……とは?いったい?どんな場面なのか想像もつかない。


「そして朕もお忍びでついていく。外では朕と卿はただの友人だ。いいか?周りのものに悟られないようにするんだ。わかったか?」


「クリップ食わしたり、黒くて太い印鑑を鼻に詰めてにっこり笑っていらっしゃいませと言わしたり村祭り歌わしたりさせないでくださいね?」


「えっ?何それ?」


えっ?そう答えさせたくてわざと振ったんじゃないの?


「では衣を替えてくる。」


 そう言い残し、お付の者数名とトイレに向かった。ちなみに、雉撃ちやお花摘みお手洗いなど排泄することを示す隠語はたくさんあるがその一つに衣を替えてくるというのも大昔存在した。まだファスナーなどが無く紐を縛り付けて固定してた時代に機能性無視して装飾性を高めた不便な服を着るような特権階級の言葉だ。庶民は服に皺がつこうがお構いなしに捲し上げて用を足せるし、なんなら少しくらいなら汚物が付いても気にしないが、ギンギラの玉衣は完全に脱ぐのが基本である。


 トイレから出てきた皇帝陛下は、天女かと見まごうばかりの絶世の佳人に化けて出てきた。


えっ?まさかの女装趣味ですか?


陛下(女装)が身体を寄せて丙吉の腕を両手でやんわりとやさしく掴みなでなでして頬を赤らめはにかみながらもじもじ落ち着かない様子でおっしゃった。


「丙吉さま…。お慕いしております。大々大好き♥キャッ、言っちゃった♥」


……陛下が壊れた……。

佳人のうえにしぐさや声まで色っぽい。不覚にも性的に興奮してしまう。背筋のゾクゾクが止まらないのに股間は勝手にビンビンだ。勘違いするな、これは男だし、見せしめに政敵を何千人も処刑台の露にしてきた冷酷無情な独裁者その人だ。職業はともかくとしてせめて女性だったらどんなに良かったか。いや違う。なんなのだろうこの矛盾した気持ちは。もし女なら抱かれたい。でもこいつは男だ。


 冷酷なリアリストにしてマキャベリストの完全なる君主がオレにだけ激甘な件……いやオレも男だし。


麗阿レイアとか言う花魁に会ってわたくしの丙吉さまに手を出さないようしっかりお話しておきませんといけませんわ。連れて行ってくださいませ」


 なりきりモードで言葉こそ依頼の形をとっているが、これは勅命である。逆らえる種類のものではない。なんなら恋敵とタイマン張りに行く体を取るにしても、将来国家機密を扱う丙吉の身の回りをきれいにしておくという君主としての大義名分も持ち合わせている。


麗阿レイア麗阿レイアであんな娘だし。力と力に挟まれてとばっちり受ける予感しかしない。いや、麗阿レイアは仕事でお客にサービスしてるだけであって生身のオレには何の恋愛感情も持ってない。飛んだ言い掛かりだ。


正直なところ猛烈に案内したくない。それこそ隠密にでも調べさせて一人でもおつきつけてもいいからオレ巻き込まないで勝手に行けよ。


困惑してると「この姿であっても心にもないことを言ったりはしないぞ、表現は異なれどすべて朕の本心である」と耳打ちされた。


じゃあその前の大々大好きも本心なのか……。いや思い起こしてみると、その時にはそこまで深刻なものとは思っていなかったが否定する要素がたった一つも見つからない。誰か助けてくれ!


―――

「あら、今日は職場の同僚さん連れてきたのね。いらっしゃい。お風呂にする?ご飯にする?それともワタシ♥」


麗阿レイアはヤバい。どうして完全女装している陛下を職場の仲間だと見破った?!


「そうだな。飯は食ってきたばかりで腹減ってないのでちょっとしたお茶とお菓子かな」


 昼飯は宮殿のガチの宮廷料理な。


「へーいはねえ、きっくんと一緒のがいい〜!」


へーい(病已)というのは関係者のみに通じる陛下の名前である。少なくとも表向きはジュン(詢)だが、真の名は病已でオフの時の一般人としての陛下を示す。何よりも、人前で思わず陛下と言いかけてしまったときに言い直す猶予があり、それこそ言い切ってしまっても「へいじゃなくて、へいな!覚えてくれ。」とごまかせる。


「うちもパートナー同伴とか家族とか仕事の先輩後輩とか連れ立って来れる健全なお店になったのね。今となってはファミレスと変わらない。一昔前は疑似恋愛体験なんて不潔だとか散々な言われようだったのに、世の中は変わるものね。」


「その世の中の変化を作り出したのがこの子だよ。」とへーいを紹介する。血筋がよくこの若さにして政府高官で、首都都市計画の最高責任者だと。嘘じゃない。


「ふ~ん。そういうことにしておくわ。嘘じゃないしね。」

 ヤバい。麗阿レイアは能力者だ。隠し立てしてても真相はおそらく見抜かれている。


「前も言ったように、ここでのは下界にバレることはないわ。わたしは他のお客さんのお相手してくるんで、お二人でよろしゅう。」


た、助けてくれ〜!



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