第4話 私の話とレナードの話

「ふわぁ……ぁ……」

私はあくびをしてベッドから体を起こし、ベッドから降りようとすると、踏んだ。

ふにゅ

効果音にするとこんな感じだろう。私は昨日転生してきたレナードの顔面を思いっきし踏んだのだった。

「!?!?」

私は驚きで声が出なかった。本当に転生してきてるとは考えてもいなかった…

「痛い。小娘。まさか僕の顔を踏んだのかね?はァ……最悪な一日の始まりだ……」

そんなことをレナードはつぶやいた。

「ごめん!!レナード!!床で寝てるとは思ってなくて……」

「ほんとだよ。まったく……小娘の寝相が悪いから僕がこんな目にあったではないか。」

「うぅ……何も言い返せません。」

私は下を向くことしかできなかった。

「それより、現在時刻は何時かね?」

私はそう言われてベッドの上においてある時計を見た。

「8:07……スクバ※⁹行っちゃってる……」

「………」

「………」

私達は黙ることしかできなかった。私は今日も休むことが決定した瞬間だった。



 それから時は経って11:00。私はレナードに部活の話をし始めた。事のきっかけはレナードが私の話が聞きたいと言ってきたからだ。

「全然面白い話じゃないよ?それでもいいの?」

「まったく持っていいから早くはなしたまえ。」

私はそう言われて話しだした。




 ことの発端は数日前。私は嫌いな先輩、茂環先輩を怒らせてしまった。そこから私は部活にいにくくなり退部をするため顧問の先生と話をする予定だった。

 しかし、少し頭痛が始まり、熱を出して学校を休みだす。

 それが今日までの出来事。

嫌いな先輩を怒らせた事は全て自分が悪いけど、後輩によって態度を変えるアイツも悪い。自分には厳しくして、違う後輩には優しくする意味がわからない。ほんとに泣きたくなる。

 正直コンクールだってどうでもいい自分がいる。私はすべての想いをレナードに吐き出した。

「なるほど……。小娘の気持ちはわかったけど、正直やめないでいいと思う。僕的には」

私は自分の考えが否定されるとは思ってもいなかったため口が開きっぱなしになっていた。

「なんでレナードはそう思うの?」

私は思ったことを言ってしまった。

「なんでか……そんなの簡単だろ?」

そう言ってレナードは立ち上がり私に向かって言った。

「小娘にはまだうまくなれる要素があるからだ!」

私は雷を食らったかのような衝撃が自分に流れた。

「だって小娘はユーフォが好きなんだろ?それ見てみてろ。」

そう言って教科書だらけの机の上からノートをレナードは取り出した。

「こんな感じで自分の良くないことや、良かったことをノートにまとめている。それぐらい上手くなりたい人間を僕はほったらかしになんてしない!」

そういいレナードはノートを私に差し出す。

「まだ辞めるのは早いぞ桜。」

私はレナードに初めて名前を呼ばれた。

「私、まだ続けていいのかな……??」

私は不安の色がする声で私はレナードに尋ねた。

「もちろん!桜が続けたいならば続ければいい。辞めたいなら辞めればいい。でも、辞めるのは簡単だぞ。」

私は最後の一言が胸の奥に重くのしかかった。

私は忘れていた。辞めたり、諦めたりするのは簡単だけど、始めるのは難しいってことはずっと前に知ってる。私は自分の未熟さが明るみになってきた。

「私、もう少し頑張ってみる。」

「そうか。頑張れ。」

「うん。」

そう返事すると母が職場からお昼ご飯を食べに帰ってきた。

「さくらぁ〜。ただいまぁ~。起きてる〜?」

「おかえりー。起きてるよ〜」

そう言って私は階段を下りて一階の部屋に向かうのだった。



 母が午後の仕事に行き、また私たちはつたりきりになった。

「次はレナードの番だよ」 

私は二人きりの気まずさに耐えられなくなって私はレナードに声をかけた。

「僕かい?小娘。」

レナードは一瞬驚きつつも自分のことを語ってくれた。



 僕がユーフォに出会ったのは3歳のとき家にあった古い倉庫の中から発見した。話を聞くとお祖父様グランパがお祖母様グランマと結婚する前に演奏していた楽器だった。僕はユーフォのことが気になってお祖父様に毎日のように習いに行った。

 しかしそんな日常は長く続かなかった。突然お祖母様が亡くなってしまい、お祖父様はおかしくなった。僕がユーフォの音をお祖父様に聞かせようと行くとお祖父様は発狂して発作を起こしてしまうようになった。挙句の果てには記憶を失い、僕のことが誰か分からなくなってしまった。

 僕は何回もユーフォを止めようとした。でも、辞めることができなかった。それはなんでかわからないけどまだ辞めるのは早いって神さまが言ってる気がしてたまらなかった。そんな日が毎日続いた。地獄のような日々だった。

 そして気がつけば成人していて、お祖父様はもっとおかしくなって、僕は遂にお祖父様をから逃げた。

知り合いもいない新しい土地で僕は1からやり直した。

 気づけばプロまで上り詰めていた。あっとゆうまだった。お母様マムやお父様ダダからのお祝いのメッセージは届いているがお祖父様からは一向に届かない。そりゃそうか。お祖父様には僕の記憶がないから。

 お祖母様がいたらお祖父様も僕の音聞こえてたのかなぁ……

僕はあまり考えてはいけないことを考えてしまった。良くないって思ってても負の思考は止まらない。

 僕がお祖父様をだめにした。だめにしただめにしただめにした。

呼吸が速くなる。息がちゃんと吸えない。冷や汗止まらない。誰か助けて……ミカ…

僕は役に立たない頭をフル回転させながら言葉を出そうとした。でもでなかった。

 僕はその場に倒れ込んでしまった。



そこから気がつけば小娘に転生していた。

 「これが僕の半生さ。」

そう言ってレナードは自分の話を締めた。

私は 想像していた話よりも重く、そして苦しい内容でなんて声をかけていいか分からなかった。

「小娘は、僕の話を聞いて楽しかったかい?」

「………」

私はなんていえばいいかわからなかった。

話してくれてありがとう。とか、辛かったよね、頑張ったね。とか、そんな簡単な言葉じゃダメだと勝手に思った。

「そんなに重く悩まなくてもいいんだよ。僕が勝手に君に話したのだから。」

レナードが初めて見せた悲しい顔だった。

私は戸惑いつつも、口を開いた。

「レナード。私、ユーフォ下手くそだけど、レナードの生きてきた証、私に教えてくれる?」

今の私にはこれが最大の声をかける。

「!?」

レナードは驚いていた。

「まさか、そんな言葉をかけてくるとは思わなかったのだよ。いつもこの話をすると頑張ったねとか、お疲れ様とか、辛かったね。とかの言葉を多くかけられてきた。まさか、ミカ以外でそんな事言われたのは初めてだ。」

「ミカって誰?」

私は急に出てきた名前を復唱した。

「そうだったな。ミカは僕の友人兼、大切なパートナーだ。」

!?

私は驚いて声が出なかった。

「パートナーいるんだ。」

「意外か?」

「うん。」

「素直だな。」

そう言って、レナードは私の頭に手をおいて頭をなでた。

「そろそろ小娘のお母様が返ってくるだろう?」

そう言われて私は部屋の時計を見る。

時刻は16:30。そろそろ弟たちも帰ってくる。

家のこともしないといけないし、そろそろ動くか。

「じゃ、レナード、私の中の戻る?」

「そうするか。」

「了解。」

そう言って、私はレナードに手を差し伸べる。

私が差し伸べた手にレナードの手が重なる。

レナードが、私の中に入ってくる。

(レナード。入れた?)

私は心のなかで問いかける。

(入れたぞ。小娘。)

レナードの声が頭に響く。

(了解!ありがとう。)

自分は返事をする。

(そろそろ動かないと小娘の弟たちが帰ってくるぞ。)

(そうだった。)

そう思って私は階段を下りて一階に向かうのだった。


※⁹:スクールバスの略


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