第37話 ユーリちゃんまで、あと一歩
校舎に入って行ったと思ったのだが、校舎の中で靴を履き替える間に見失ってしまった。
この校舎に入ったところは確実に見たのだから、捕まえるまで後一歩。
「宇佐ちゃんは生徒会に報告に行って。校舎に入ったところは見たから、ここに人を集めればすぐだよ」
「うん! 行ってくる!」
宇佐ちゃんはパタパタと廊下を右に曲がって走って行く。
俺はどちらから捜そうか、ととりあえずどこかから出て来ないか様子を見る。
宇佐ちゃんが生徒会室に入ったところを見届けると、一つ手前の扉からサンタのように袋を担いだユーリちゃんが出て来た。
「ユーリちゃんですか!」
ようやく見つけた。間違いない。俺が校門前で出会った少女だ。
ふわふわなショートボブ。少し汚れた制服とジャージ。なんで少し煤けているのかは謎ではあるけれど、濃い青とも紫ともつかない髪色に目が惹かれる。透き通るようなタンザナイトの瞳も、不思議な魅力がある。
俺を見上げる身長は百六十センチくらいかもしれない。
先ほどまで楽しそうにウキウキとスキップでも始めそうな様子だったのに、今はキョトン顔だ。そして、うげ、と表情を歪める。
「なんで私の名前を知ってるのかな。まさか今回はけーちゃん、他校生を使ってるの?」
そろり、と一歩後ずさる。
俺は一歩近づいた。まるで懐かない猫を追いかけている気分だ。
俺にも、ユーリちゃんにも、額に汗が伝う。妙な緊張感だ。
「ユーリちゃん、なにをしたいのか知らないけど、一回、生徒会に行こう?」
ふ、とユーリちゃんは笑う。
「私は悪いことはしてないよ。みんなを楽しませたいだけなんだけど? ……約束、したから」
「約束?」
ぶん、と袋を窓の外に放り投げた。
「ユーリちゃん!?」
「ついてこられるなら話くらいは聞いてあげても良いよ。まあ、少年はクソ真面目でつまんなそうだから、こんなことできないと思うけど。じゃあね」
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