第12話 「カップルでの参加ーー」
「いえ、友人です」
メイドの言葉を宇佐ちゃんは遮る。反応はかなり早かった。宇佐ちゃんが言わなかったら俺も言っただろう。横から「友人です」と言っておく。
「ではカップル割はなしで、お一人五百円――」
「カップルです! ねえ、洸君!?」
差額二百円を払えないほど困っているのか。かなりの守銭奴か。真剣にアイコンタクトを取ろうとしている宇佐ちゃんに同意した。
「今、カップルになりました。ねえ、宇佐ちゃん」
頷いた俺に、宇佐ちゃんはぱあ、と表情を明るくした。
「ですがーー」
「ねえ宇佐ちゃん」
「ねえ洸君」
なにか言おうとするメイドを遮って、見つめ合いながら名前を呼ぶ。
面倒そうな雰囲気をすぐに察知してくれたようで、カップル割での参加が決まった。
「これからお二人には国王陛下へ謁見していただきます。その後は宰相の後に続いて退室し、クエストへ進んでください」
仕切りとカーテンで分けられた隣の部屋へフットマンに案内される。フットマンからほのかに甘い香りがした。男性からする香りとは思えないけれど、中世ヨーロッパを意識した雰囲気作りの一環なのだろうか。
数組の参加者が立っていた。タイミングはかなり良かったようで、すぐにファンファーレと共に国王陛下が現れる。
横には宰相らしい人も付き従っている。玉座に座った国王陛下。宰相は数段下に立ち、セリフを始める。
「旅人の諸君。よくぞ参られた。これより諸君には陛下を安眠へ誘う妙薬の材料を取りに向かってもらう。陛下はここ数年、不眠により体調を崩されている。そのご様子は思わしくなく、国務も手に付かないほどである。しかし材料はおとぎの森の中からしか見つからない。その森は魔法の森。簡単には材料をもらえないのだ。そこで諸君には材料探しを依頼したい。もちろん情報は集めている。この情報を頼りに探し出してきてほしいのだ。魔法の森の謎を解いた者のみが、材料を手にするだろう」
陛下が立ち上がり宣言する。
「無事、全ての材料を集めた者には、褒美を与えよう。期限は日没。さあゆけ!」
宰相は奥の扉を開く。
「ここに三つの材料の情報を記した。どうか陛下をお救いください」
メモには、眠りの茨、サンザシ、眠り姫の安息の地、とある。メモを眺めながら教室を出た。
「上から順番に行きましょうか」
俺の持つメモを横から覗き込む宇佐ちゃん。
「上質な睡眠を好む小人の家へ向かえってあるけど、どこかの出し物?」
宇佐ちゃんはパンフレットを広げた。
「睡眠に関する出し物は、自習室だね。資格取得部の“勉強効率と睡眠”っていう講演があるよ」
腕時計を見る。十時四十分を指している。ここからだと一階に降りて、職員室前を通ると一番近い。着くのは第一部の講演終了間近か。
「比較的遠いね。サンザシは……」
メモを見る。
『神聖なる庭園』
俺は首を傾げる。
「これはおそらくどこかの出し物じゃなくて場所だよね」
宇佐ちゃんも首を傾げる。
「サンザシは低木だから裏庭に生えている、とか?」
「いや、サンザシは盆栽や園芸で使われることが多いから園芸部の方があるかもしれない」
今度は二人でパンフレットを凝視する。
「園芸部の敷地は入っても大丈夫そうだね。裏山の手前だ」
「校舎内の方が近いから、とりあえず自習室に行こうか」
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