第2話 ……そんなゲーム知らないんだけど?
言われるままに付いて来たけど。
結構歩いたな。……俺さ、辛いってちゃんと口に出して言ったよね?
確かに訓練場があるなら、その近くに医務室を置くのは分かるが、中庭から離れ過ぎだろ。これも体調が万全ならそんなことも感じないのかもしれないけど。
何より辛かったのが……この女、チラチラとこちらを見るだけで何も話そうとしない。
知らない女との無言の時間なんて、気まずいにも程があるだろ。もうちょっと気を使ってくれれば、この倦怠感も苦にならないかもしれないのに。と、心の中で彼女を非難している間に着いたようだ。
彼女が扉をノックするが、返事はなかったが扉は開いていたようで「失礼します」とそのまま中に入って行く。彼女の後ろについて医務室に入るなり薬草っぽい匂いが歓迎してくれた。鼻を刺く突然の異臭に、うっと俺は顔を顰める。
「そこの椅子に掛けてちょうだい」
顰めっ面のまま言われた通りに椅子に座る。薬草臭いが、やっと一息つける。
よし。俺は当分この席から立たないぞ。と、心の中で誓いを立てていると、彼女は瓶が並んだ棚から一本を手に取り渡してきた。
「ポーションよ。低級だけど今の貴方には十分な筈よ」
……ポーション。何かテンションが上がってくる。自然と口元が緩んだ自覚がある。瓶をジッと注視していると、彼女もまた俺から視線を外さない。この女やたらと俺の顔を見てくるな。
ところでコレ飲むの? 毒々しい緑色の液体が中に入っている。この部屋に入った時の薬草っぽい、青臭い匂いから中の味も既に察しがついている。まぁ仮に患部にかけるタイプだとしても今回は外傷がないので、そっちも察してはいたんだが……勇気が必要だ。
「ポーションは外傷があるなら、患部に少しかけてから飲んだ方が効果があるわ。でも今回はケガなんてしてないでしょ。そのままグイッといけばいいわ」
ご丁寧に説明してくれているが、コイツ口元がニヤけてやがる。
やっぱりこのポーション絶対苦いやつだろ!?
大体さっきまでのポーカーフェイス何処行ったよ。しかもグイッといけばっておい。急に距離感が近くなってないか?
その距離感。もっと早く発揮してくれよ。
具体的には医務室に向かう途中に。
閑話休題
実は気になる事がある。ポーションって病気には効きそうにないんだが。多少は楽になるのかもしれないが、それだけの為にこれだけ歩かされたのなら割に合わないぞ。
「俺はさっき持病で原因不明だって言った筈なんだが、なんでポーション飲ませようとしてるんだ? それも低級が病に効くとも思えないんだが」
分からない事はさっさと聞いてしまうべきだ。苦そうなのを飲まされない為に!!
そもそも俺の知りたい事を教えてくれるって言って連れて来られた訳だしな。
とは言え、知りたい事=必要な事だ。
自分の名前を含めこの女が本当に、俺の知りたい事を教えてくれる。もしくは知っているとも限らないが……。
「そうね。まずは確認したいんだけど。貴方、転生者よね?」
は? 何を言ってるんだ?
いや俺が転生者なのは間違いないんだろう。だが何故コイツがそれを知っているんだ?
この女は確認と言っているんだから、まだ確信はないのか? なら隠すべきか? だが俺の知らない事を教えて貰うなら正直に話した方がいいのか?
俺が混乱しているのは顔に出ているかもしれないが、まだ転生者という言葉に混惑しているという事で押し切れるか。
……どう答えるのが正解なんだ?
俺の葛藤を余所に彼女は続きを口にした。
「正直に言うと貴方が転生者なのは確信しているの。だって本来のルシオンってそんなキャラじゃないもの」
そうか。コイツは俺の知らないルシオン君の事を知ってるのか。
それなら初めから隠すなんて無理だったか。迷っていたのがバカバカしくなってきた。ここからは聞かれた事には正直に答えるとしよう。
「そ・れ・で、転生者なのよね?」
「あぁ。たぶん転生者で間違いないと思う」
「なんで曖昧なのよ」
「俺には、このルシオン君になる前の記憶がないんだ。自分の名前なんかは思い出せない。と言っても、転生前の世界の常識なんかの記憶はある」
「は? 本気で言ってるの?」
「あぁ本気で言ってる。まるでついさっき起きたばかりみたいに、目覚めた瞬間があの場面だった。周りの連中が俺を責めていて、俺が何をして責められていたのかも分からず、悪者にされていた。もっとも実際に悪い事をしたから責められていたみたいだが、俺にそんな事をした覚えはない。そもそもさっきの取り巻き連中の顔も名前も知らないからな」
俺のセリフの内容に同情したのか、なんだか視線に可哀想って感情が乗ってる気がするな。不意にその視線が俺の持つ瓶に向いた。
「それはそれとして、まだ身体辛いんでしょ? そのポーション飲んじゃいなさいよ。楽になるから」
この暫定クソ不味ポーションを、彼女はどうあっても飲ませたいらしいな、
楽になるってのは、意識が飛ぶから次に目が覚めた時には元気になってるわよ。とかそういう意味でいってるのか?
「なんだってそんなに飲まそうとするんだ? 絶対に不味いだろコレ」
「ふふっ。よっぽど飲みたくないのね。いいわ順を追って説明してあげる。まずステータスって言ってちょうだい」
警戒心たっぷりな俺に、苦笑いを浮かべた彼女はこれから説明に入ってくれるらしい。
「ステータス?」
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ルシオン・アークザレス
レベル 3
HP:5/23
MP:12/12
攻撃:G-
耐久:G-
敏捷:F-
魔力:G-
精神:G-
運 :F-
固有スキル:言霊1
スキル:剣術1 標準語4
SP 5
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おいおい、ステータス出ちゃったよ。
さっきは自分に関しての記憶が、全くないと聞こえたかもしれないが、完全にない訳じゃない。ラノベやゲームを嗜んでいた記憶は多少なりとも残ってる。だからこそステータスやポーションって単語に反応しちゃうんだよね。
俺自身についての記憶は無い。が、それについての理由は薄っすらとだが予想がついていた。
未練が無いのだ。――以前の自分に。
だから自分の事が分からなくても不安を感じなかったのだろう。きっと辛いことがあったんだ。だから、是非ともこれから会う方々には優しく接して戴きたい。
……無理かな。無理だろうな。
この身体で目覚めて、初っ端からあんなのだった時点で察せてしまう。
「おぉ。ステータスあるんだな。でも……弱くね?」
「でしょうね。最初はみんなそんなものよ。ところでステータスを知ってるみたいな口振りだけど。記憶が無いんじゃなかったの?」
疑がってそうだな。
もう別に隠すつもりもない。
正直に打ち明けよう。
「あぁ。自分自身の事は覚えてないがラノベやゲームで遊んでた記憶はあるんだ」
「そうなのね。じゃあ貴方もプレイしてたんじゃない? 此処は『ディヴァイン・クエスト』っていうゲームの世界よ」
「は?」
待ってくれ。此処がゲームの世界?
それならルシオン君は、ゲームの中のキャラクターって事か?
普通こういうのは、やり込んだゲームとかに転生するんじゃないのか?
そもそも俺は『ディヴァイン・クエスト』なんてゲームはまったく記憶にない。
……そんなゲーム知らないんだけど?
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