「ゲゼルシャフト。」~10代から20代に書いた詩

天川裕司

「ゲゼルシャフト。」~10代から20代に書いた詩

「哀しみの中にて。―その2―」

 学界で会う者達との会話に目を止めたその人は、その事を救いようのない毒花(どくばな)の話だと、臆病と、あての外れた勇気のあとに自分に言い聞かせた。「毒花」とは、救いようのない人間の会話のことである。長い間、旱魃が続き、その学界にはもはや、それを癒す程の潤った水はなかった。又、そこの人達はそれを知っていた。固い読みものと、軟派な横やりとだけがそこの人の術となり、その人達はそのどちらか二つに一つを選ば去るを得なくなってしまった。潤いの水は後になっても出て来ず、流行がそうさせているからであった。その荒れ野を歩いた各々の足跡には、各々にしか見えない安らぎの花が咲いた。人はその花の事を孤独の花と呼び、人から離れた寂しい所へ行って、その花の咲く土に水を染み込ませた。詰り、その意味でのしがらみはきえはしないということを、人は知った。一度、誰かが、誰かの書いた思惑の書物を読んで、その批評を聞かれた時、その者は苦笑して、「まだ一度しか読んでいないので、何とも見て取れない。」と語尾を濁した事があった。その人は、その者が真実を書いていたため、その者にはその時、見極められなかったのだと、一度思っていた。

又、外のよく晴れた日に、その人の友人が一つの思惑を持ってその人の家に迷い込んで来た。人はもてなし、その人の腹を満たした。その一つの思惑とは、この世に咲かない華の事である。その人はその内の事を既に知って居り、わざと気を紛らわそうとして別の話をして聞かせた。暫く時が経って、その友人は話し始めた。ことごとく脆弱い言葉であった。しかし、人はその脆弱さを知っていたため、わざとその話に自ら真剣になった。思いやりである。程良い風がその二人の居る部屋に吹き込んで来た時、人はその話に心を向けてその人を救った。そこには知恵と忍耐が必要である事を知り、又その口から出る言葉も、他人(ヒト)の話すことの意味を枝分かれしないように我が身を省る必要があるのを思わされた。その友人が成長した事を知り、又自分自身も互いに成長した事に気付いた。その一人の話す脆弱(もろ)い言葉は、互いに、そのまわりに居る者も成長させる。その事はやがて、孤独が生む暗雲を消し去り、互いの心を富ませる事になるであろう。その友人はその人の見えない所で成長を成し、今夜のための夢を見るのに帰って行った。その思惑は末永く、その部屋を富ませる事になった。(序文)

この国の冷酷の場所に生きた人は、その者の名を呼んだ。多くの移住者達が「ゾアラ」という地に門を閉ざし、哀しみの中にあった。その中では、その者はその人を導いて行き、そのところから離れた(その人には見知らぬ)平安をもたらした。人は息づく間もない程の苦難の末に、勇気と不安とが心の中に芽生えた。歴史はこれまでと同じく苦難をくり返し、その人の努力を転倒させた。

人は又、歩いて行き、それでも離れられないそのところから別の価値を見出そうとし、自らその不安をおさめようとした。が、その時、その右手に余った悪い物が今度は左の手に転がり込んで、その功を無益なものにしようとした。しかし、人は思い止まり、神によりすがる事でそれ以上自分が悪い者を呑み込まないように努めた。しかし人には、その神の御姿が未だはっきりとは見えなかった。その、沈黙の間に又悪い物が甦り始め、その決意と信仰とを揺がせた。人は昔に書かれた本を読んで、その知識を富まそうとした。しかし、その人が不安の中にあったためそれはかえって、困難を生んだ。唯、歩く事だけが忘れられず、暫くの間人は困難の中にあった。

或る預言者が書いた物にその途中で目を止め、暫く、見入っていた。幾つかの不安を的中させたその者の言葉に、つよい感動を受け、又現世(うつしょ)の道のりが遠いのを功におさめ、その光の中には影があったのを知った。自らには一言で語れないくもった苦役の中の道を、人はひたすら歩いて行った。かつて見上げたあの者は、その時、その人の心の中に腰を下した。


「囁き。」

 「…見よ、…尋ねて見よ、…..聞いて見よ。」


「道化奈落。」

 たらぬ狸の皮算用。


「流行。」

ためにならない語録。ないほうがいい。


「寵児。」

誰にも理解されないその人の財産(たから)。そのものは天才か?


「石庭。」

 人間は自分の誕生の意味と不思議を語れないのと同様に、時間を止められない。私はそこにいた。庭にある砂礫を見て、その次に岩に目をやる。座りながら茶を飲み、菓子を食べて、この世での延長を味わう。その延長の不条理は解けず、自ら死ぬ人間もいれば、生を好む人間もいる。そこ(せきてい)に一羽の小鳥が飛び込んできた。毛つくろいをしながら、その小鳥の存在の意味をたどった。“我の許しなければ小鳥一羽、地に堕ちることはない”、その言葉が心に浮かび上がる。この世で思うようにならないことと、私の心情。人間(ひと)は成長すれば思い方がかわっていき、またまわりからの(まわりへの)対応もかわっていく。“あいまいにしておけば良いものを..”と、それができない生き方が私をつき動かす。時間は同じように過ぎてゆく。時に冷たくあり、あたたかくもある。私と神様の間にその時間の経過はあるのか。神様と人間とでは時間の尺度が違う、とよく言う。果たしてどうなのか。ふと茶をすすっていると、小鳥が別の場所へと飛んで行き塀で見えなくなった。そこにまだ一人になった私がいた。石庭を前に、時間はまた私の前を流れていった。


「サイコ.making by his mother.」

全部せまい方へとらえてしまう。…人を殺すなんてもってのほか。人を傷つけることは悪いこと。聖書の十戒を守れないなりにも、守る努力をして、悔い改め。しかしその子供の臆病がその善言よりも上まわっていた。その善言通りにするのが怖いのだ。


「無題。」

今の殺人事件に対して“人間性がない”という。でも人間である。神が創られたとされる人間だ。それを忘れてはいけない。殺すのはお互い様なのだ。殺る前に殺す、自分の命を自然に守ることが何故悪いのか。罪のあり方をもう一度、正義(見かけの強さ)に生き安いように改め見るべきだ。で、なければ、まだまだ、少年のクズ共が図に乗るのだ。早く殺すのだ。


「心の中。」

そこに小さな女の子がいた。臆病な瞳で、何が幸福で何が悪いかもわからない無知な女の子だ。その子はいつものように、やっと咲いた花に水をやって育てている。どこまで育ったかわからないその花に、汚れているかさえもわからない水をやっている。その子は世間になかなか出られない。すぐに心がかわってしまうから。心がかわってその咲きかけた花を捨ててしまうことを恐れていたからだ。その子は今もまだ、一定の喜怒哀楽に満ちながら黙っている。そことは私の心の中だ。


「出産。」

今日、7/14(月)、テストは好調だった。友達の一人に間が悪かった奴が一人いたが、どうにかなるだろう、となだめた。そして、またある友達のかわりに入ったアルバイトのシフト、一緒に入った奴が面白いことを言っていた。―――“母親は自分の子供を自分の子供だ、と主張できる。だが父親は証拠がない。―――”その違いについて(正統派に)論ぜよ、との出題(テスト)。久しぶりだ。こんなかんじの類題は。その時は私も一緒に考えた。確かに父親にはその証拠がない。人間はミスを犯す。父さんが犯さなくても、母さんが。母さんが犯してなくても、医者が。唯一確かなのは神。でもこの人間界では神の意志に沿わないことが沢山起こっている。もしかすると私は…、あり得ることである。親が違う、ということ。こんな簡単な(あえて言う)現実の先ですら、私(人間)はわからないでいる。面白いことだ。父親の仕草に、その昔私があれだけ似ていると言われていたのに。


「悲しい夜。」

歌はその時唄えば、その人の思いはきえる。すぐ次にいく歌手の気持ち、その気持ちは今の私の気持ちじゃないんだ。いつまでも私を見捨てない唄を探し求めて、歩いてきた。だけどそんなものが現実逃避だったなんて、自分に聞くまで気づきもしなかった。


「言葉。」

“キレイなバラにはとげがある、”誰かが言った言葉なのだが、私にはあの人が言った言葉なんだ。


「本意。」

 神様、この欲望はどう考えても、ためになりません。考えるという力をお与えになったのはあなたでしょう。どうすればこの欲望を失くせるのでしょうか。異性を愛するというこの欲望にもかわる愛を、壊して下さい。私は本当はそういうことがキライです。こんなこと、この世間で言えば笑われる。こんな不様な世間で生きていたくもない。欲望に埋もれてしまわなければならないのなら。それでも明日、友達と異性のことを話すんだ。神よ、今夜、そんなことを話さなくてもいいように痛みを感じさせずにあなたの国へ連れていって下さい。


「この世から死んだ夜。」

死んだあいつ。どこに行ったんだろう。姿は消えて、目の前には現れることはないけれど、あいつの存在自身は、どこかで生きている筈だ。消えたなど、今生きている人間(私)故、理解できない。ただしゃべることができず、見えないでいるだけなんだ。こんなせち辛い、汚れた世間から離れた私の友達。この世にまだいる私に教えてほしい。今、幸せかい?


「ゲゼルシャフト。」

学校で、同じような生徒と不良がいるクラスに入った。教師もだいたいが同じで、彼はその中で嫌気と、それでも目立ちたがり屋の心に悩まされ、共通の役割をしないように努めた。よくある目立ちたがり屋少年にもなりたくない、という思いもからんで、自分の居場所を探し始めた。

そして何時間か時が過ぎた後、彼の居場所はというと、なかった。まだ、探すことに努めていた。

とにかく、人とは違う生き方をしたいと、自分の生まれたことを自分で祝福したかった彼は、その長すぎる時間すらもまだ短く感じていた。人が集まるところには自分は行かなかった。

そんなことの連続から、友達は一人もできず、不良にも目をつけられた。おまけにも教師からも目をつけられ、彼の親だけが彼を愛していた。その冷たさから、その親からのやさしさを異常に感じるようになり、その反動で、自分が学校でいじめられている事実が、異常なほど彼の臆病を大きくした。毎日、毎日が地獄のようで、今までの行動すべてが裏目に出た。

その地獄から逃れるためには、その不良(悪)にうち勝つしかない、ということは十分にわかっていた。そして刃物を持ち出すようになっていた。しかし、両親の愛にすがりついてた彼に、殺したあとの善心の重さは何億トンにもなってのしかかってきた。顔を洗って出直しても、孤独に出直しても、結果は同じ。学校では同じようにいじめられる。

その不良どもは毎日、同じように教室に入ってきていじめに来る。殺したい思いは日に日に大きく膨張していった。そんな時、その光景に見かねたひとりの女の子が彼のところへ来て、なぐさめた。その女の子というのは毎週教会へ行っているクリスチャンで、言うことは“今度の日曜日、教会へ行ってみない?”ということだった。彼はその子にすがりつくような思いで、そこから逃れた。

“負けた..”というどうしようもない思いと、“こうしなきゃ殺られる。本当に悪に負けてしまう”というどうしようもない思いとにはさまれ、黙っていた。そして教会へ行き始めた。以前、何回か行ったことがある教会なので、その思い出を頼りにもう一度自分に賭けてみようと思っていた。

それから彼は苦痛のため学校を自退し、しばらく教会だけに通うことになる。学校では“最悪な奴”とか“かわいそうに”などの声だけがあった..。しばらくしてる内に、一緒に通っていたその女の子が教会に来なくなった。彼は、はじめの内は気にしなかったが、時が経つにつれ、“どうしたのか”と不安をおぼえていた。その女の子はというと、今までの平和の生活のため、グレ始めて不良になっていた。理由はなかった。平和ボケの典型だった。彼は気になり、その女の子の家に行った。最初は話すことも嫌がっていたその子だったが、だんだんとしている内に、少し和んできた。

しばらく話し込んでる内に、その原因が何の刺激もない平和ボケからだということがうすうす気づいたため、彼は何とかその子を救おうと考えた。それは好きだったとかじゃなくて、以前の思いがあったからだった。そして彼はその翌日、学校へ行った。すると以前のような雰囲気はなくなっていて、新鮮な風になっていた。彼の学年が3年で卒業も近づいていた。

“これで良かった”と思い、彼はそれから毎日、学校へ通った。そうしていると、例の不良組が彼のところへやってきた。“久しぶりだねぇ”などと言ったかと思うと、いきなり持っていたかたい表紙の本で彼の頭をなぐりつけた。彼の脳裏にはいっきにあの時の恐怖がこみあげた。“何してたのォ?”と、なぐる、蹴るしているそいつの顔を見ている内に、恐怖のあまり、恐ろしい力が彼をふるい立たせた。制服の中に手をやるとカッターがあった。相手に気づかれずに刃を出し、そいつのスキを見た。

そして、今度しゃべろうとするそいつの一瞬のスキをつき、その不良のアキレス腱を切った。その不良はけたたましく、転びまわり、叫んで“痛い!”を連呼した。まわりの数人はおびえ、ひき下がった。彼の心にはもうひとりの彼が居座っていた。転びまわっているその不良に馬乗りになり、耳や、口などを切りきざんでいった。

数人の生徒と、教師に取り押さえられた彼はそのことで学校を退学にさせられた。彼は“何も悪いことはしていない、悪いのはこのカスどもだ。他人(ひと)の痛みも考えられず、毎日毎日このオレをいじめてくれたんだから。オレにはやる理由がある。でもこいつらにやる理由なんてない。それもあそこまでに。..”と、警察に言い続けた。

そこの警察ではわずかながらに正義が残っており、少年法もあって、彼を結果的に釈放した。彼はその日から、人が変わったように逃げることを嫌った。教会へ連れていったあの時の女の子は自分で道を切り開いた、という彼の力に刺激され、彼とよく話すようになった。こうして彼はその日から何事もない一日一日を、平和に過ごすようになった。

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「ゲゼルシャフト。」~10代から20代に書いた詩 天川裕司 @tenkawayuji

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