鬼花

あ行

1商売

「毎度あり。」

 チャリ……

「んー……!だあっーー!

 もう直ぐ在庫がなくなるなぁ。」

 背伸びして、溜め息をつく。烟草の置き台に目をやる。長い糸のような睫(まつげ)が下を向く。読みかけの小説を手に取って読んだ。

「……い!…………おい!!」

「んあ?」

 見上げると背の高い毛むくじゃらの「何か」が、拳を勘定台に乗せて立っていた。もう陽が傾いているからか、いつもより迫力がある。

「いつものひとつ。」

「あいよ。」

「いつもの」を何百種類もある烟草から探していると横から音が聞こえてきた。

「お前さんよお、そんな前からぼけぇーっとしてたか?」

「はっはっは、他人から心配されるほどか。俺は大丈夫だ。」

 鬼の目が笑ってない。少し驚いてしまった。一息吸う。

「心配してる訳ねえよ、ただいつもと違うからな。前は――なんと言うか、詰め込んでる感じがしてたんだよ。」

「ほぅ。そんな風に見られてたとは。」

 毛むくじゃらに烟草を手渡す。

「もう立ち話は終わりだ。烟草、あんがとさん。」

「こちらこそ。」

 ひらひらと蝶のように馴染んだ手を振る。

 ――今日はもう店仕舞いだ。

 季節ものや季節離れの草木花が咲いている玄関の門に行き、伸びをする。

「あ゙ーーーー!!……ん?」

 郵便受けに一通の届けがあった。しかし、鬼は呆れたように溜め息をつきその場から立ち去った。届けが無かったように。

「行き、伸びをする。

「あ゙ーーーー!!……ん?」

 郵便受けに一通の届けがあった。しかし、鬼は呆れたように溜め息をつきその場から立ち去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る