退化したのだからゲームをする

古希

第1話








 今日、目が覚めたら女になっていた……。








   *** ** ***



 俺は生まれてから奴隷のような生活をしていた。母親はいるが父親という者は内にはおらず、自分が生まれる前に死んでしまい、姉弟は長女と次女がおり4人で暮らしている。

 最初に行った奴隷というのはそのままの意味だ。母親に少し反抗すれば家を追い出され、姉達には掃除や洗濯、食器洗いしまいには当時、小学生3年生だった時の俺に小学5、6年生の宿題をやらせ間違っていたら頭や体を叩かれていた。

 だが俺には根性と少しのポジティブというより切り替えが早かったので家を追い出されたら、夜の真っ暗中、月や星を見ながら街を歩きまわった。通報され警察に補導されることもしばしばあった。たまにだが追い出されても誰にも見つからず2㎞離れた公園に行き朝まで過ごすこともあった。


 そんなことも経験して根性とポジティブ?切り替えの早さは誰にも負けない自信はあったが、今の状況はさすがの俺でも呑み込めなかった。

 フラフラしながら立ってみるとベッドや机がいつもより大きく見える。今の伸長を確かめようとカラーボックスの二段目に入れてる、メジャーと机にあるシャーペンを持ち壁まで行き、背中をつけ頭のてっぺんの位置で線を引きメジャーで測ると133.9㎝しかない。ついでに体重も測ることにしてみたら32.5㎏しかなかった。

 前の伸長は165.3㎝と微妙だが165㎝はあった。そして体重は48㎏で痩せ型な方だった。


「どういうことだ……。体重のこと放置しても良いが身長が30㎝も削られたっていう事がショックすぎる……」


 そのまま床に蹲り5分が経つと、お腹から「グウゥ……」と、音を立てて空腹を訴え始めた。


「よし、落ち込んでも始まらないし先に会社に連絡連絡!」


 性転換病というのは西暦2032年に流行りだし、26年間経過した今は性転換病の薬の研究も廃止されている理由は発病者が少なく、DNAの遺伝子レベルで組み替えられているからでもある。治す事が不可能だからだ。


「性転換病になったと思われるで療養させていただきたいのですが構いませんでしょうか?」


 3回ほど間違い電話と勘違いされて電話を切られてしまった。4回目でやっと信じてもらい2週間ほど休みを貰えた。

 引継ぎはもう一人の同期にメールで簡単に教えておく。


「次は保健所に連絡っと」


 ……


「おはようございます。今日はどうされましたか?」

「性転換病でお電話させていただきました」

「それでは医務薬務課、医務係に連絡――」


 言われたところに連絡し、明後日あたりに手続きしてもらった病院で検査する事が決まった。

 特にやることがないので掃除洗濯をした後ご飯にすることにした。

 前までなら掃除機も楽にできていたが30㎝も削られ上手く出来ず、洗濯や料理は椅子を使いながらしたがいつもより時間がかかった。


「いただきます」


 いつもながら安定した味、それに硬さやはり朝はうどんに限る。

 麺は冷凍の物で簡単にでき、つゆも市販の2倍濃縮を使っているから切ったりするのはネギぐらいだ。


「ごちそうさまでした」


 苦戦しながらも洗い物をさっさと済ませることにする。

 

「仕事から帰ってからしようと思っていたけど休みだし……アレするか!」


 部屋の隅に置いてある段ボールからコンタクトとイヤホンを出す。一昨日には届いていたが時間が作れず、仕事を行っている間に段ボールの中で、データを入れていた。時間も性転換というハプニングで作れたのは嬉しいが性転換してしまい、テンションは0に戻っただけだった。


「イスケピズムにゲームデータは入れてるから、さっそく設定していこうか」


 イスケピズムとはVRMMORPGの思考して体を動かすので少し難しいが上手い人はスマホをしながらゲームをする人もいる。


「設定も終わったし早速始めよ」


 ゲームが起動しキャラ作成が始まったと思ったが……急にトイレに行きたくなった。


「そういえば朝から行ってない……」


 キャラ作成の説明が始まって1分、我慢の限界が来た。

 トイレまで走ろうとしたが、コンタクトとイヤホンの事を思い出し、急いで取ってトイレまで行った。限界の状態で走ってしまい、廊下の途中で立ち止まると天井を見上げた。


 パンツが濡れ、ズボンが濡れた。濡れていたのだ……。

 出そうな感覚が消え、出ていく感覚が無くなっても数十分間かそれ以上の間、顔に水が流れた……。



   *** ** ***



 服は洗濯して着替えて―男物のパンツとフード付きのパーカー―掃除をまたする。してる間も少し泣いた。

 棒があったときは我慢するのも苦じゃなかったが、ツルツルに無くなってから我慢が利かないのが辛い……。この歳になってお漏らしって、お漏らしって………………お漏らしって、流石に無いよな……。


「切り替え切り替え!今回の事は教訓としてもう我慢しない!それで行こう!」


 高い声を張り上げながら空元気を出した。

 コンタクトとイヤホンをしてキャラ作成の説明を読み直す事にした。


「えーっと何々――」


 種族は人間しかなくリアルボディーとボディークリエイトの二つあり、リアルボディーは自分の身体をスキャンして使う作成方法で身バレしても問題ないという方や作成自体が面倒という方が使い、髪の色や髪型だけは変える事ができるらしい。、

 ボディークリエイトは、身長や体格をスキャンして基礎を作り、5㎝までなら身長や身体―女性なら胸部―・顔のパーツの大きさや長さなどが変えられ、筋肉の付き方や髪の色や髪型を変える事が出来る。


「注意?」


 髪を自分で切ったり、許可を出して切ってもらったりしても伸びることはない。


「一応、課金で髪型を直す事は出来るのか」


 課金って言ってもそこまで高くなく、千円で綺麗に直るならありなのか?変な髪型よりかは良いか。 

 それよりキャラ作成だが、知り合いに俺が奇病にかかった事などは話していないというか、今日かかったから誰も話せていないというのが正しい。それなら、リアルボディーを選択しても問題ない。決定を押してスキャンが開始するのでベットに横になり待つことにする。

 待ってる間、同意書みたいなのが出てきた。


――令和35年 4月3日木曜日 10時28分35秒

   SNS、掲示板、個人のサイトなどにゲーム内の情報を漏らさないこと。

   ゲーム内の人間関係で……――


 秒単位で時刻が同意書に入っていて「細かっ!」と驚いてしまったが、人間関係やゲーム内のスクショ、情報をSNSに載せたら停止させますみたいな事がが5、6個あり、ちゃんと読み‶同意する″を押すとゲームスタートの画面に戻った。

 いつの間にスキャンが終了していたのやら……。


「じゃあさっそく始めますか!!」




 ――――ゲームスタート!!――――




視界の全てを白く染め上げると、数秒後にゲームタイトルと共に白色がフェイドアウトして町並みが見えてきた。


「ここまでグラフィックが綺麗だと現実と間違えそうだな……」


 このゲーム『Ruleルール ofオブ Mindマインド』は、対人戦闘、魔物との戦闘、戦争や支配、冒険や探索がメインでおまけとして生産などがある。‶誰も解けてない未知の世界で自由に生きろ″と口コミで言われていた。

 そして、ベータテストのときには、大人達が子供達をキルしすぎて退会者が続出したらしい。それで修正され、15歳以下は自分から攻撃しない限り保護機能が働き攻撃だけ入らないようになったと公式サイトに書いてある。だが戻ってくる人数は少ないようだ。


 俺が周りを見渡しても子供は見当たらない。

 いや、それでいいんだった。今日は平日なのにいたら完全にサボりに見え……。

 周りの視線がやたらとこちらを見てくるのに気づき、俺がさっきまで考えていた事が俺にも当て嵌まるのではないかとふと思ってしまった。

 俺は奇病だ。そう、奇病で仕事を休んでいるだけだ。


「ス、ステータスでも見てみるかな」


 動揺を隠すように操作確認をし始める。


 ステータスってどう出すんだ……?

 基本的に思考するだけで良いはずだけど……。


 ステータスを出ろと念じていると、目の前に半透明の板が出てきた。そこには色々な情報が載っていた。




 キャラクター名 なし Lv1

 HP20 MP10 力1 魔力50 防御1 魔防30

        素早さ20 知力40 器用10 抵抗5

 レベルポイント:0


 所持金 1000ギット

 装備品

  頭:なし

  胴:(背)色褪せた外套

    (上)ただの黒シャツ

    (下)ただのショートパンツ

  腰:ベルトポーチ  

  腕:ボロボロの皮手袋

  足:ボロボロのブーツ


 武器:漆黒の小太刀 


 右手:なし

 左手:なし


 アクセサリー:なし

       :なし

       :なし

       :なし

       :なし


 スキル:なし

 スキルポイント:0


 称号:転換の少女

   :魔女の資質




 HP、MPが悲しくなるくらい低いけど、力と防御が絶望すぎない?


「木の枝で殴られても死ぬ装甲だな……」


 魔力、魔防、知力は結構高いな。初期のステータスでこれは当たりなんじゃ!?

 まぁ……うん、これ絶対外れだろ!?

 力が1とか武器使っても有効打が与えられない。それに防御も1、他のステータスに持っていかれ過ぎではないかな。


「スキルで何とかしていきたいけど魔法か武器……」


 武器のスキル次第でどうにかなるだろ、というかなってください!

 じゃあ次は称号を見てみよ。



『転換の少女』

 ◆性別を転換し身体を若返らした少女。性別、若さ、美貌を手に入れるために罰を受けることになった。


 取得条件:性転換

 効果:力、防御を支払う量を増やしていくと、魔力消費を抑える。


『魔女の資質』 

 ◆興奮すると魔力が漏れ出て瞳を深紅に染め、髪から魔力の光が漏れ出る。


 取得条件:未知への探究心

 効果:魔力+30、魔防+20、知力+20増やし、使い魔の攻撃を5%増やす。



 称号の効果で力と防御の全てをもっていかれてるのかよ……。

 でも魔法を使うなら良い効果なんだろうな。もう一つも魔法関連、それに取得条件も意味が分からない。

 現実であった事をゲームの世界に取り込んでるのか?


 いや、それとも記憶を見られて――。


「いや考えても仕方ないな」


 称号の内容だと、興奮で髪からなにか出るらしいしフードでも被っておくか。


「まずはこの町を隅々まで観光でもしてみよ」


 オープン開始から2日たってるのに最初の町?都市?国?だけあってプレイヤーの人数が異常に多い。

 ベータテスター達が他の国や街に移動して効率よく狩りでもしてるのかと思えば、案外そんなことはなく、カップルなのか男女二人組で行動しているのが目立つ。見える範囲でも14、5人じゅうしごにんぐらいいる。


 これは俺へのあてつけか?

 でもまぁ、俺ってもう男じゃないしなぁ……。

 これからは、女の子の身嗜みを覚えて、男を好きになって男と付き合って男と結婚して男と子供を産んで育てて…………。



 ――気持ち悪い――



 苦虫を噛み潰したよう顔をしながら町を歩き見渡す。

 音楽が流れ住人かプレイヤーの判別できないが踊りを楽しんでる集団を見つめる。

 それにしてもあそこの通りだけテンションが違うな……。

 カップルが多いこことあまりそうかわりないが、ここを抜けた先では少しピリピリとした緊張感がある。

 プレイヤーはアイコンや名前が見えないのは住人も一緒だが、住人にはAIを搭載しているので、もしプレイヤーと間違ってキルしてしまったらどうなるんだろ?

 そんなことを脳裏によぎったがそれは一瞬のことだった。


「そういえば称号に注目し過ぎて忘れてたわ」


 キャラクター名 なし Lv1

 HP20 MP10 力1 魔力50 防御1 魔防30

       素早さ20 知力40 器用10 抵抗5

 所持金 1000ギット


    ↓


 レイ Lv1

 HP20 MP10 力1 魔力50 防御1 魔防30

       素早さ20 知力40 器用10 抵抗5

 所持金 1000ギット


「これでオッケーっと!」


 名前入れたときに思ったけど装備の詳細見てなかったし見てみよっかな。


 『色褪せた外套』 ★0

 ◆元は綺麗な黒だったが経年劣化の中古品をタダで貰った。

 装備条件:なし

 効果:防御+0

 耐久:100


 『ただの黒シャツ』 ★0

 ◆防御力もないただの黒いシャツ。

 装備条件:なし

 効果:防御+0

 耐久:100


 『ただのショートパンツ』 ★0

 ◆防御力もないただの地味なショートパンツ。

 装備条件:なし

 効果:防御+0

 耐久:100


 『ベルトポーチ(低)』 ★1

 ◆ポーチなどにポーション等をインベントリー経由ではなく簡易的に出し入れできる。

 装備条件:なし


 『ボロボロの皮手袋』 ★0

 ◆少し破れ穴が開いていたり焦げている中古品をタダで貰った。

 装備条件:なし

 効果:防御+0

 耐久:50


 『ボロボロのブーツ』 ★0

 ◆経年劣化や色落ちの中古品をタダで貰った。

 装備条件:なし

 効果:防御+0

 耐久:50





 『漆黒の小太刀』 ★2

 ◆柄から刀身まですべてが黒色で、特に刀身は吸い込まれそうな漆黒に染まっている。

 装備条件:力1 器用5 知力30

 効果:攻撃力+15

 耐久:100




 やはりしょぼい。

 初期装備だから強いのが来る方がおかしいけど、中古品ってなんだよ。普通、ボロボロで金を取る方がおかしいだろ。

 中古でボロなら1ギット?でも売れねーよ……。だからタダなんだろうけど。


「貧弱装備過ぎて笑えてくるな」


 完全に苦笑いだが、路地に入ってみると木箱が置いてあったり、壁に手配書っぽい紙が貼られている。


「木箱や樽、壺は砕くというのがドラ〇エでは普通だが――」


 一瞬、さっきの貧弱ステの内容が頭によぎった。


「俺では無理だな!」


 あれはドラ〇エの事だったし中でも覗いてみますかねっと。

 中はゴミしか入っていなかったが、よく見るとその中の隅の方で草っぽい物が淡く光っていた。

 触れてみると、光りと共に消えてログに『謎の草』と流れた。

 え……。

 謎の草って、薬草でも……。

 箱の中はゴミだったのに口に入れるのは流石に躊躇われた。


「まぁ、何かしらに使えたり――」


 『謎の草』★1

 ◆そこらに生えている雑草。


「これって、俺のボロ装備と同等かそれ以下の価値しかねー!!」


 文句ばっか言ったけど、それでもこんな簡単にアイテムゲット出来るならもっといろいろ探してみるのもいいかもしれないな。

 それからは光ってなかったが樽の上にある瓶も取れるできることが分かり、手当たり次第に採取しまくった。

 『馬糞』『木の実』『レンガの破片x4』『石x2』『雑草x3』『鳥の死骸』『水瓶』『空き瓶x2』『木片』などを手に入れていった。


 インベントリーを確認していたら、胸から紅い液がついた刀身が生えていた。


「えっ?」


 痛みはなかったが刀身を認識していくと、設定で痛覚を100%―現実と同等の痛み―にしていたので声すら出せずに、倒れてしまった。

 痛みに耐えてHPを見ると0だった。

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