メカヘッドな僕

太郎冠者

黒鬼

2×××年。


2020年代から始まった戦争は次第にその戦火を広げ、世界の経済を大きく混乱させる。


経済のバランスが崩れ、持つものと持たざるものの有形無形の格差は広がり続け、世界各国の力関係も同じく崩れて、行く着くところまで行ってしまったそんな世界。



極東にある島、通称日本列島。


爺ちゃんの爺ちゃんのそのまた爺ちゃんが子どもだった位の昔は日本と言うアジア圏でも有数の国だったらしいのだが、政府が瓦解して久しい。


元々は技術で食べていた先進国だったのだが、アジア圏一帯が三度目の世界大戦に巻き込まれその余波で焦土と化した。


そこまでやって漸く大戦は終結を迎えた。

何せバチバチやり合っていた張本人達の国が消えたのだからこれ以上やりようがない。


その煽りを喰らって物理的に吹き飛んだ国々はたまったもんじゃあないけどね。


中央大陸は軒並み更地にされ、西大陸は大勢の移民を抱えこみ内戦が勃発して瓦解した。


……らしい。



僕も詳しくは知らない。当事者でもないしね。


僕はスラム産まれのスラム育ち。生粋の下級民である僕は産まれてこの方、学校と言うものに行ったことがない。


この話も死んだ父さんから聞いた話だ。


そんな父さんも3年くらい前に殺されたから、この話が本当かどうかも確かめる術はない。


死んだらそれまで。どんな形でも良いからしぶとく生き抜いてこそ意味があると思う。


僕も父さんが殺された時に顔と頭に大怪我を負ったが何とか今もしぶとく生き抜いている。



―――そう。僕達人間は相当しぶとい。

多分、自分達が思っていた以上にしぶといのだと僕は思う。


大戦が終わり荒廃した大地に寄り集まり、その傷付いた身体を機械の腕や足でツギハギし、いくつもの組織に別れ、相も変わらず戦ったり騙したり分かりあったり裏切ったりしながら僕達は生きている。


―――そんなサイバーでパンクな世界。

そんな世界の片隅で、僕は生きている。




ギラギラと輝くネオン街。


築年数なんて何世紀経ったかすら分からない廃墟同然のこの街を隠す様に、今夜もこの街を人工の光が覆い尽くす。


色とりどりの光の下では幾つものギャング達が幅を利かせ、酔っ払いとヤク中達が管を巻く。


抜け目ない商売女達が男達の財布を狙い、そんな女達を下卑た目で見る男達。


オフィス街の方じゃあ企業連合カンパニーの社員達が朝も夜もなく働き続けている。



昔は良かった何て安い酒を片手に長寿化手術メトセライズした大人達は言うけれど、産まれた時から僕の知る世界はこうなのだ。


そんな事を言われてもイメージすら湧かない。


法律何て聞いたこともないし、人権と言う概念もよく分からない。


あぁ、でも税金は知っているな。

企業連合カンパニーやギルドの連中がやってるカツアゲだ。


背広を着て真面目な顔と小難しい理論で金を巻き上げるのが企業連合カンパニーの社員達やギルドの職員で、銃とナイフを持って手を突き出すのがギャング。


両者の違いはこの街の底辺の僕には実感が湧かないものだ。



今日の飯と夜を過ごせる寝床。


今この時を生きれるならば世はこともなし。

僕にとっちゃあ世界は案外単純なのだ。



何せ僕を構成するもの何て片手で数えられる。


生まれて15年間、1度も病気になったりお腹を壊したことがない頑丈な身体。


瓦礫の山から拾った僕の手には少し大きいナイフと、骨董品と揶揄される炸薬式の回転拳銃。

本当はもっといいやつが欲しいんだけど、僕程度が漁れる遺跡じゃあろくな物が見付からないから仕方がない。


知らないうちに僕のトレードマークになった父さんの形見、1本角が生えた軍用の黒い多機能戦闘補助フルフェイスヘルメット。



―――それが僕の全て。



極東スカベンジャーギルドのD級ハンター。

『黒鬼』。


これはそんな何も持たない僕が彼女と出会う物語だ。

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