旗持ち男の異世界無頼旅〜ゴミスキルだと言われて召喚先を追放されたので、安住の地を求めて気の向くままに彷徨います〜

ウエス端

第1話 安住の地を探して

 オレの名は秦尾 立之助(ハタオ タツノスケ)。

 どこにでもいるごく普通の高校3年生だ。


 いや、ちょっと不幸かもしれない。


 といっても、両親どちらも毒親で育児放棄され、親戚や施設をあちこちたらい回しにされてきたってだけだ。


 そんなオレの夢は、独り安住できる場所を確保すること。

 高校を出たらとにかく働いてカネを貯め、あとはダラダラ過ごしてやるのだ。



 だが、オレは今、異世界にいる。


 場所は中世ヨーロッパ風の剣と魔法のファンタジー世界。


 そしてとある王国の王様から異世界召喚されたという、お決まりの展開だ。


 そしてこれもお決まり、召喚に伴う特典、つまりスキルを授かった。


 で、オレのスキルは『旗手』というものだ。


 能力としては……オレが旗を持つと光り輝いて注目を集めやすくなったり、所属する軍隊の士気を一時的に上昇させるというだけのものだ。


 当然の如く、戦場で役に立たないゴミスキルだと言われてあっさり追放された。



 でも、それで良かったと思ってる。


 なぜなら、王様を始めとして、召喚に立ち会った家臣その他の連中の態度がすこぶる悪かったからだ。


 異世界で生活している人間を自分たちの都合で呼び出しておきながら、何故かやたらと上から目線でエラソーにしていたのだ。


 魔王軍との戦いのために召喚したとか言ってたが、その割には切実さも感じられず、なんか胡散臭い。


 あんな奴らの言うことを聞いてこき使われるくらいなら、そこらの森の中で野垂れ死にしたほうがまだマシってもんだ。


 魔王軍との戦いが本当にヤバいのだとしても、他に召喚した異世界人がいるようだから、そいつらに任しときゃいい。



 そして、現在のオレだが……城を出て、安住の地を求めてあちこち彷徨っているうちにたどり着いた村の外れに居させてもらっている。


 ここは都の郊外で自然豊か……というか寂れた村で不便だけど、静かに暮らすには悪くない。


「おーいタツノスケ、ちょっくら手伝ってほしいことがあるッペよ」


「はいよ、今行く」


 村人から呼び出されて掘っ立て小屋の我が家を出る。


 外れとはいえ村に置いてもらい、近くの森で木の実や小動物を狩猟採集するのを許可してもらっているので、その代わりに雑用や力仕事を手伝う約束なのだ。


 村にとっても、若者が少ないのでお互いに助かっているというわけだ。


 まあ、若者が少ないのはこの村に限ったことじゃないらしいけど……。


 そんなこんなでそれなりにダラダラとした気ままな生活を楽しんでいた。


 養う家族でもいればそうはいかないけど、独り身だし、食料を調達できずに死んだところで自己責任だから気は楽だ。


 しかし、この平穏はある日突然破られた。



「ヒャッハー! 村があったぞ!」


「こんな辺鄙な村でも食糧くらいはあんだろ〜。根こそぎ集めて持っていくぞ!」


 野盗どもが村へ略奪にやってきたのだ。


 流浪した挙げ句にせっかく見つけた安住の地に何してくれてんだよ!


 役に立てるかはわからんが、村人たちに加勢しに行こう。


 今こそスキルの能力を使う時。


 でなきゃ、それこそなんのための能力だ。


 オレは家の中に置いてある大きな旗を手に取り、身体に括り付けて家の外に出た。


 まあ、旗と言っても、空のような青色で所々染めただけの布を、長い木の棒に取り付けただけの物だけど。


 そして野盗どもがいる方へ歩いて行く。



「ん〜!? まだ隠れていた奴がいたか……。おいテメエ、殺されたくなければ有り金と食糧全部出せ」


「イヤなこったい。お前らこそサッサとこの村から出ていけよ」


「あぁ〜ん!? 馬鹿かコイツ。自分の置かれた立場もわかんねえみてぇだな〜」


「ウケる。もういいから、そんなのとっととヤッちまえよ」


 奴らから嘲りの言葉と下品な笑い声がうるさく聞こえてくるが、構わず進んでいく。


「なんだコイツ、気味が悪い……。どっか行けよオラァ!」


 奴らの一人が手のひらの前に魔法陣を出し、大きな炎をオレに向けて放った。


 オレの全身は炎に包まれ、自分の掘っ立て小屋の向こうまで吹っ飛ばされた。


「ギャハハハ、派手に吹っ飛んでったぜー。ありゃあもう死んだな」


「ああなりたくなかったらよー、お前らもさっさと出すもん出せ!」


「ついでに若い女も全員差し出せや……おれたち最近飢えてんだよ、ウヒヒ!」


「くっ……」



「……これで全部です」


「あぁ!? 若い女が用意できてねーぞ!」


「この村には差し出せるような若い女はおらんのじゃ……これで勘弁してもらえんか」


「そうか……じゃあ、見せしめに皆殺しだな」


「そんな! カネと食糧はちゃんと差し出したでねーか!」


「うっせー! おれたちの顔を見られた以上、どの道生かしちゃおけねーんだよ!」



「よぉ〜、お前ら! まだ村に居座ってたのか、サッサと出ていけよ!」


 オレは野盗どもに近づきながら大声を出して注意を引きつけた。


 奴らの幽霊でも見たような顔はなかなか面白かったぜ。


「なっ……なんでテメエが、生きてんだよ!?」


「そりゃあ、お前らが生存フラグをバッチリ立ててくれたから。吹っ飛んだ死体を確認もせずに話を進めちゃったからな」


「何をわけわからんことを……今度こそ殺してやるよ、お前らやっちまえ!」


「はーい、お前らの負けフラグいただき〜!」


「ふざけんなよ!? そんなに早く死にてーか!」


 奴らはイキりたって全員で襲いかかってきたはいいが、その攻撃は何一つオレに当たらない。


 といっても、オレは全然動いていない。


 身体が勝手に動いて攻撃を紙一重で避けていくのだ。


「この……ジッとしとけや!」


 大柄な奴が後ろから羽交い締めにしてきたが、ヌルっと滑るかのようにオレの身体を掴むことができない。



「ハア、ハア、どうなってやがんだ!」


「それじゃあ、そろそろオレの番だな」


「へっ、テメエ一人でこの人数を相手に何ができる!」


「行くぞ!」


 掛け声とともに、オレの身体は目にも止まらぬ速さで奴らを通り抜けた。


「……脅かしやがって、何も起きないじゃねーか」


「お前らはもう終わっている」


「またフザケたことを……ぐはああ!?」


「う……ぶぼげああああ!」


 奴らは次々と断末魔を上げながら身体を爆発させていった。


 もちろんオレは狙って攻撃を加えたりしていない。


 全てはスキルの能力によるものだ。


 オレのスキルの真の能力……それは『フラグを立てる』という能力だ。


 さっきの出来事だが……オレは最初に、フラグを立てるための事前予約を1つしておいた。


 そうすることで、オレの生存フラグが立つと、自動的にそれを確定させてくれるのだ。


 そのあとは、野盗どもが自ら行った『負けフラグが立ちやすい言動』に即刻フラグを立ててやっただけのことだ。


 負けフラグが確定した以上、奴らの攻撃は絶対に当たらない。


 逆にオレが奴らを攻撃する場合は、相手を必ず敗北させる動きと技が自動で行われるのだ。


 オレの最後のセリフも、勝利を確定させるために言っただけに過ぎない。


 ちなみに発動するための縛りはただひとつ、何でもいいから『旗(フラグ)』を身に着けておくだけ。


 旗は大きい程効果も大きくなる。


 召喚主の王様の前ではこの能力を隠し、追放させるように持っていったのだ。



 さて、村人たちにはもう安全だと言って安心させよう……と思ったが彼らの表情がこわばっている。


「タ、タツノスケ……おめえ、一体何者なんだべ!?」


 うわあ。


 もう完全に、バケモノでも見るような視線だ。


 駄目だ、ここにはもう居られそうにない。


 せっかく安住の地を見つけたと思っていたんだけどなあ。


「心配しなくていい。オレはもう出ていくよ。いろいろと世話になったな」


 旗だけを背負って村の外れへ向かい、歩いて行く。


 こうしてオレは、また安住の地を探すための旅に出たのだった。

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