必要とされる人

天川裕司

必要とされる人

タイトル:(仮)必要とされる人



▼登場人物

●沖 颯太(おき そうた):男性。37歳。独身サラリーマン。奥手で臆病な性格。でも人に必要とされたい。

●部長:男性。60歳。颯太の会社の上司。ちょっと強面の印象で。

●会社の同僚と女子社員:みんな一般的なイメージでOKです。

●本橋明美(もとはし あけみ):女性。30歳。同じく颯太の会社の同僚。颯太が片想いしていた相手。

●手下師蹴(てげしけ)ルア:女性。30代。颯太の理想と欲望から生まれた生霊。


▼場所設定

●某会社:颯太達が働いている。一般的な商社のイメージで。

●Air of Solitude:都内にあるお洒落なカクテルバー。ルアの行きつけ。

●街中:必要ならで一般的なイメージでお願いします。


▼アイテム

●Achievements in Reality:ルアが颯太に勧める特製の栄養ドリンク。これを飲むと現実の生活への覇気がどんどん湧いてくる。景気づけの心のサプリの様なイメージ。


NAは沖 颯太でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたは、人から干渉されたくないですか?

何か指摘されたり非難されたりするのは嫌でしょうか?

まぁそれが好きと言う人は余り居ないでしょう。

人間誰しも歳をとるにつれ、自分を正当化し始めるもので、

そのため頑なな人が多くなったり、

若者より壮年・老人のほうに実は犯罪が多い…

と言うことも指摘されたりします。

今回は、そんな人との干渉を避け、

それでも人に必要とされたいと乞い願った、

或る男性にまつわる不思議なお話。



メインシナリオ〜


ト書き〈会社〉


部長「沖くん!沖くん!!」


颯太「あ、はい!な、何でしょうか??」


部長「何でしょうかじゃないよキミ!午前中に頼んどいた資料、まだ出来とらんのかね!!」


颯太「あ!すいません!今すぐ!」


俺の名前は沖 颯太(おき そうた)。

都内で働く普通の会社員。


でも俺にはとても大きな悩みがあった。

それは人間関係がひどく苦手なこと。

引っ込み思案の上に恋愛関係もままならず、

30代後半にして結婚の兆しもない。


まぁ今は晩婚の時代だとも言われているが

俺は生涯結婚できないだろう、そう思う正直もある。


今日も会社でミスをして、こっぴどく怒られた。

周りの奴らにも笑われて、またストレスが1つ溜まってしまう。

これまでもこの連続で、そろそろ俺の心と体は悲鳴をあげ始めていた。


ト書き〈カクテルバー〉


颯太「はぁ。今日はホント散々だったな。どっか飲みにでも行こっかな…」


そしていつもの飲み屋街を歩いていた時…


颯太「ん?『Air of Solitude』?新装かな?」


全く見慣れないバーがある。

綺麗と言うより落ち着く所で、

俺は何となくそこが気に入り中に入って飲む事にした。


そうしていると…


ルア「フフ、お1人ですか?もしよかったらご一緒しませんか?」


と1人の女性が声をかけてきた。

彼女の名前は手下師蹴(てげしけ)ルアさんと言い、

都内でスピリチュアルヒーラーやメンタルヒーラーの仕事をしており、

その変わった名前もペンネーム感覚でつけたと言うもの。


颯太「へ、へぇ、ヒーラーさんなんですね?初めて会いましたよ」


俺はそんな時でもあったので、何となく話し相手が欲しかった。

心から理解し合え、安心できる相談相手。

でもそんなの現実には居ないから今日も1人で飲もうとしていたのに、

彼女がこうして目の前に現れた。


本当に不思議だった。


彼女はどこか他の人と違い、俺に安心をくれた。

そう、何か彼女には独特の魅力があって、

「昔どこかで会った事のある人?」

みたいな感覚を投げかけ、そのせいで心が緩み、

身内感覚で話ができる。


そのせいか俺は今の悩みを彼女に打ち明けてしまい、

初対面なのに関わらず、その悩みを解決してほしい…

そんな正直を秘めながら彼女と話していたのだ。


彼女はそれを上手く察知してくれたのか、

本当に悩み解決の為に動いてくれた。


颯太「ははwこんな事あなたに言ったってどうしようもないのに、ホントにすみません。まぁ酒の上での愚痴だと思って、軽く聞き流して下さいね」


ルア「いいえ、私はそういうお悩みを持つ方に関心がありまして、まぁ職業柄と言うのもあるのでしょうが、そんな方の為に少しでもお力になりたいと日頃から思っております」


ルア「良いでしょう。ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。私が一肌脱いで、少しでもあなたのお悩みを解決できるようお力になりましょう」


颯太「え?」


そう言って彼女は持っていたバッグの中から栄養ドリンクを1本取り出し、

それを俺に勧めてこう言ってきた。


ルア「ぜひこちらをどうぞ、お試し下さい。これは『Achievements in Reality』と言う特製の栄養ドリンクでして、まぁ心のサプリメントみたいに思って頂いて構いません。これを飲めばきっと今のあなたのそのお悩みは解決に向かい、その心の中から生活の覇気が湧き出す事でしょう」


颯太「…は?」


ルア「フフ、まぁ信じられないのも無理はありません。今までの生活がありますからねぇ。でも信じて下さい。私は嘘は言いません。この仕事を長年していれば、今話している相手がどんな方なのか、それが何となく分かってくるものです。私はそれなりにあなたの事を理解し、今このドリンクを勧めております」


ルア「でもこれを飲んだからと言って万事上手く行く、とはなりません。あなたは自分で将来に幸せを持って来ようと努力はしますが、現実のハードルを乗り越えるのは飽くまであなたの心、その気力になります。つまりこのドリンクは、人生を成功に導く為のきっかけ。その上で、幸せな人生の土台はあなた自身で作って行ってほしいのです」


淡々と言われたから、

初め何を言われてるのかよく分からなかったが、

それでもあとから理解がついてきて、

彼女が言ってる事が何となく解った。


そしてここでもう1つ彼女の魅力に気づいた。

それは他の人に言われたって信じない事でも、

彼女に言われると信じてしまい、その気にさせられる。

俺はその場でそのドリンクを受け取り一気に飲み干した。


ト書き〈変わる〉


それから数日後。

俺は本当に変わっていた。


部長「おぉ、沖くん!今月の成績は実に素晴らしいもんだねぇ!この調子でどんどん頼むよ」


颯太「はい!有難うございます!益々精進させて頂きます!」


俺は何かと会社で褒められる事が多くなり、出世街道まっしぐら…

そんな状態になったのだ。


何と言うか仕事に対する覇気がどんどん湧いてきて、

生活にもメリハリをつける事ができ、

それまでの自分のあり方からまるで打って変わったかのように

俺は別人に成れていた。


同僚1「おい、最近、沖のヤツなんか凄くねぇ?」


同僚2「ああ。人が変わったみてぇだよな」


女子社員1「ほんと最近の沖さんって輝いてるわ」


女子社員2「沖さんみたいな人って理想の結婚相手よね」


周りの俺を見る目も変わった。


颯太「フフ、はははwほんと最近の俺ってなんか凄いよな。本当に変わる事ができたんだ。これもあのドリンクのお陰かな?…ルアさんに感謝しないと」


ト書き〈トラブル〉


でもそんな毎日を送っていた時、

それから数ヵ月後にトラブルがやってきた。


1つ目のトラブルは、俺の最近の実績に嫉妬した男が居り、

そいつが何かと俺に失敗するよう仕組んできた事。


お陰で仕事で失敗する事が多くなり、俺はまた部長に怒られ始め、

元の自分に戻りつつあったのだ。


でもその辺りは持ち前の覇気で何とか挽回できて、

信頼もそれなりに取り戻す事はできた。


でも2つ目のトラブルが、俺の人生を決めてしまった。


明美「ご、ごめんなさい。私、他に好きな人がいるから…」


密かにずっと片思いしてきた会社の同僚、

本橋明美という女子社員にフラれてしまったのだ。


颯太「はぁ…。フラれるってわかってても、やっぱり失恋はツライなぁ…」


それからだった。

俺は何度もやる気を出そうと試みたのだが、

それまでのようなエネルギーがなかなか湧いて来なくなったのだ。


大抵の事なら乗り越えられたのに、

こと恋愛となると全くそれまで免疫がなかったからか。

こんな時どうして挽回すれば良いのかよくわからず、

時間薬に任せようとしたのだがそれでもなかなか回復しない。


そして3つ目のトラブルは…


颯太「あっ!」


車のブレーキと事故の音「キィイィ!!ガシャアアアアン!」


颯太「あ…や、やってしまった…」


人身事故を起こしてしまった事。

落ち込んでいたのが原因で、運転に集中できていなかったんだろう。


俺は人をはねてしまい、そのままそこから逃げてしまった。

怖すぎたのだ。


颯太「ど、どうしよう…どうしよう…」


何度も戻ろうとしたがそれが出来ない。

戻れば俺は殺人犯として捕まってしまう!

そこまでを考え込んでしまい、俺は逃げるようにして

あのカクテルバーへ走り込んでいた。


ト書き〈カクテルバーからオチ〉


すると、前と同じ席に座って飲んでるルアさんが居た。

彼女を見つけるや否や俺はすぐ駆け寄り、

それまでの一部始終を全部話していた。


これも不思議だった。

他の人には言えない事でも彼女になら話せてしまう。

こんなこと喋ったら、自分のしてきた犯罪がバレると言うのに。


颯太「ぼ、僕はもう終わりです!…どうしたらイイのかわからなくて…いやわかってるんですけど、それができなくて…」


自分のするべき事は分かっていた。

でもそれが出来ないと彼女に伝える。

その上で…


颯太「…僕は、本当は人に必要とされたい!誰にも干渉されないままで、誰にも指摘されたり非難されたりしないままで、それでも人に必要とされたい!…矛盾してますが、でもそうなりたいんです!それが本心なんです!」


そんな事を彼女にわめき散らすように言い、

もうこのまま自分はどうなったって良い…と言う

自暴自棄な心さえ持ってしまった。


すると彼女は…


ルア「そうですか。どうしても元の生活に戻る事は出来ませんか?…それなら、分かりました。あなたのその願い、叶えて差し上げましょうか?」


颯太「…え?」


ルア「あなたは先ほどおっしゃられました。『人に必要とされたい、でも干渉はされたくない』。人から非難も指摘も受けず、干渉されないまま、でも人に必要とされる存在・その場所、それをあなたに与えてあげましょう」


颯太「そ、そんな事が…出来るんですか…」


ルア「フフ、颯太さん。あなたがここへ来たのは何のため?その理由に今から答えてあげる、そう言ってるんです」


颯太「あ…」


そう言ってルアが右手の指をパチンと鳴らした瞬間、

一旦、俺の意識は飛んでしまった。


ト書き〈空気になって皆を見下ろす颯太〉


そして次に目が覚めた時、俺はまずオフィスの皆を見下ろしていた。


颯太「フフフ、皆よく働いてんなぁ…お疲れ様でございます♪でもまぁ俺は働かなくてもこのままこうやって、ずっと暮らして行けるんだろうなぁ。なんかルアさんにそう言われた気がするよ…あのまま破滅の人生からも、逃れる事が出来たな…」


(その様子を少し離れて見ながら)


ルア「フフ、今日も空気になって、彼、皆を見下ろしてるわね。そう、彼は空気になった。誰からも注目されず指摘されず非難もされず、干渉されないまま、それでも確実に、ずっと必要とされ続けるその空気の存在。彼の居場所はもう、そこしか無かったのかもしれないわ」


ルア「私は颯太の理想と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。彼が車ではねたあの女性、全く命に別状はなく助かったわ。それさえ確認しないで空気になっちゃうなんて、ちょっと颯太も早まったかも。でもそんなキッカケがなくても、彼はこの道を選んでいた。こうなる運命だったのかな?」


ルア「颯太にとっては今のこの状態が、1番の幸せなのよね。空気のような存在…なんて言われる人も確かに居るけれど、そういう人こそ必要な人…と評価されておかしくないわよね。誰でも優しく包み込み、その上でお互いに干渉もせず、お互いがお互いを必要として生きていけるんだから。それに越した事の無い有難い存在と言えるんじゃないかしら。…ほら、今あなたのそばに、颯太が居るわよ…?w」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=QWyO3NKO9FI

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