僕のナンパ⑤【④の②】

崔 梨遙(再)

1話完結:2000字

 山内さんを参加させたという冗談はさておき、次の休日、いよいよ本格的に駅前に繰り出した。大阪や京都と比べると……人通りが少ない! ターゲットが少な過ぎるのだ。これは効率が悪い。


 とはいえ、行動しないとナンパに来た意味が無い。天野さんをナンパ慣れさせるために、かわいいお姉ちゃん2人組を見つける度に突入させた。だが、全く戦果が無いまま時間だけ過ぎた。


「天野さん、このままやとあきませんわ」

「どうするの?」

「テ〇〇ラに行きましょう! 国道沿いに1件だけあるんです」


 僕達は天野さんの車でテ〇〇ラに行った。この頃、テ〇〇ラは絶滅寸前だった。だが、電話の向こうには暇をしている女性達がいるのだ! 数は少なくなったけれど。


 テ〇〇ラは、女性が電話をかけてくるので、その電話を取るだけだ。ライバル達と電話の取り合いになるのだが、廃れているので男性客も少ない。スグに電話が繋がった。僕は電話を取るのが苦手だったのに。


「こっちは、20代の男2人やけど、そっちは? え! 22歳のフリーター? 今何してんの? ああ、暇なんや。俺等も暇やねん。え、会いたい? ええよ」

「天野さん、出動や!」


「2対2。さて、どうなることやら?」


 と思って待ち合わせ場所に行ったら、小柄でかわいい明里22歳と、トド(アシカ?)みたいな眼鏡の節子22歳。が駆け寄って来た。勿論、僕も天野さんも明里がいい。ファミレスに行って、一晩かけてのアピールタイム。結果、4人で連絡先を交換した。朝、解散する時に、僕は、まず2人に“お疲れ様メール”を送ったが、返信は来なかった。


 ところが、夜になると明里からのラブラブメールが大量に届くようになった。次の金曜、2人で会うことになった。


「金曜は朝まで一緒にいられるんですか?」

「うん、朝まででもええよ」



 そして金曜日、夕食の後、僕達はホテルに入った。



 それから、またメールが返って来なくなって、アシカから僕に電話がかかってきた。


「どうしたん?」

「明里ちゃん、ウチに居候してたけど、喧嘩して、絶交して、出て行ったから」

「何があったん?」

「いろいろあり過ぎて、もう何も話したくない」

「それで明里ちゃんから連絡が来なくなったんか?」

「あんたは大丈夫? 嫁と子供がいるんでしょ?」

「おらんよ、おらんから独身寮に住んでるねん」

「じゃあ、あの娘(こ)の勘違いだったんだ。あの娘、スーパーで家族連れのあんたを見かけて、“絶対に離婚させてやる!”って燃えてたから」

「うーん、人違いやな」

「まあ、被害が無かったらいいよ、多分、あの娘はあんたからも離れると思う」

「そうなんや、ご忠告ありがとう。天野さんとはどうなってるの?」

「ああ、幾ら誘ってもOKしてくれないから諦める」

「ほな、僕達4人はこれでバラバラやな。ほな、お互いに元気で頑張ろうや」

「うん……じゃあね」



 最初のテ〇〇ラで美味しい思いが出来なかった天野さんの目の色が変わった。僕達は、再びテ〇〇ラへ行った。今度は、天野さんに電話を取らせてみた。


「うん、うん、うん、今から行くわ!」


「どこに行くんですか?」

「山を越えないとダメ」

「どのくらいの時間がかかるんですか?」

「片道1時間から1時間半」

「それは……行くの? それで残念な女性やったらどないするんですか?」

「ここは賭けや!」

「ほな、いってらっしゃい」

「なんで? 崔さんも行こうよ」

「相手は1人でしょ?」

「往復3時間、1人は怖いからついてきてや」

「まあ……しゃあないか」



 着いた。閉店していパチ〇コ店の前が待ち合わせ場所。車が1台停まっている。車の横で手を振るのは……アザラシみたいな女の娘(こ)だった。崩れ落ちる僕達。


「今日はウチに泊まっていったら?」


 朝まで寝かせてもらえることになった。


 同じ部屋に、布団が三つ川の字に並べられた。僕は奥の壁際を占領した。そして、アザラシ、天野さんの順に並んで寝た。


 すると、アザラシが動いた。天野さんの布団に滑り込んだ。布団の中でモガモガと暴れている2人。天野さんは結ばれるのか? アザラシと結ばれるのか? 僕は興味津々で眺めていた。掛け布団が宙を舞った。アザラシが上に乗ろうとしている。天野さんは膝を抱き込むようにして防御、だが、天野さんはとうとうキスされていた。長時間キスされていた。僕は笑いを堪えるのに必死だった。


 やがて、アザラシの寝技から脱出して立ち上がった天野さんは、


「すぐに帰ろう!」


と言って、スタスタと玄関へ。僕もついていく。


「僕、てっきり天野さんがアザラシと結ばれるもんやと思って見てましたわ」

「ディープキスされた。口の中をすすぎたい」


 天野さんは自販機の水で、口回りと口を洗った。



 早朝、帰って来た天野さんは精も根も尽き果てたようだった。


「今日は1日中寝るわ」

「ナンパは諦めるんですか?」

「絶対に諦めない!」



 天野さんの魂の炎は、まだ消えていなかった。







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