第29話 病室でびっくりする男です。


 え!?


 「結婚を前提にお付き合い? だ、誰と誰が!?」

 「はい...。私と佐藤さんがです」


 俺と...今田ちゃんが結婚を前提にお付き合い...だと?


 今も、俺が入院している病室のベッドの目の前にいる、この可愛らしい、いや可愛すぎる会社の後輩。今田ちゃんが?


 え? 本当にどういうこと?

 いや、俺を守るために彼女が嘘をついてくれたことについては理解ができた。いや、やっぱりできていない。


 今も普通に俺は頭が混乱している。


 そう、俺は別にいい。百歩譲って俺は何ら問題はない。今は付き合っている彼女も普通にいないし、正直、シンガポールに行かなくていいことには、心底ほっとしている自分がいる。


 いるけど...。


 「いや、俺は全然...大丈夫ではあるんだけど。逆に今田さんがまずくないか?」


 本当に。


「いえ、私は全然まずくないです!」

「え、あ、そう...」


 ま、まあ、そっちが大丈夫なのであれば、とりあえずは大丈夫なのだろうか?


 とりあえず、俺のために彼女を変なことに巻き込んでしまったのであれば、それはもうしっかりと部長に弁明しなければならないことに違いはない。


 でも、まあ、そこまで凛と断言されると、まあ、一旦は大丈夫ということにしておいてもいいのかもしれない...。いや、本当いいのか? でも...。


 「えーっと、ごめん。まず、その嘘を今知っていると言うか、本当だと今のところ認識をしているのは部長だけなのかな?」

 「はい!部長には周りには絶対に黙っていてもらえるように言っています」

 「あ、オッケー」


 オッケーだけど...。ちょっと待て、そもそもの話。俺と今田ちゃんだろ?まず、信じるのか?


 「ただ、それ部長。実際に信じた?そもそも俺なんかと今田ちゃんが付き合っているっていうのはリアリティがないというか何というか」

 「いえいえ、それはこっちのセリフです。私なんかが佐藤さんと付き合っているなんて嘘、本当に申し訳ないです。あと、リアリティの部分については、以前にマッチングした時のデートの写真を見せたら何とか納得してくれました」


 あ、ああ...あの時の。

 まさかあの時のあの出来事がこんなところで生きてくるとは...。


 「でも、本当にごめん。俺なんかのためにそんな嘘をつかせてしまって本当に申し訳ない。部長には退院したらすぐに俺から嘘だと説明しておくよ。でも真剣に助かった。ありがとう」


 そこはマジで感謝でしかない。


 「いや...それはちょっとまずいかと」

 「え? まずい?」

 「はい。実は何だかんだで、まだ出向まではそれなりに期間があると言いますか、多分、今すぐにバラしてしまうと、逆に佐藤さんが行かないといけなくなっちゃう可能性も出てくるかもしれません...」


 え、あ...それはまずいな。まずすぎる。


 「だから、恋人のふりを、私たちが恋人である証拠を、もう少し集めておいた方がいいかもしれません」


 恋人である...証拠?


 「いや、さすがにそれは今田さんに悪い。と言うか、本当にこのままにしておいていいのか? 全然、今田さんが無理する必要はないよ」


 本当に無理する必要はない。シンガポールはもちろん嫌だけど、さすがにこれ以上彼女に迷惑をかけるぐらいなら、俺も腹をくくる。


 「いえ、私は本当に無理とかはしてません。佐藤さんには色々とお世話になっていますし、ぜひ最後まで協力させてもらいたいと思っています」


 な、なら、いいのか...?

 いや、わからないけど、ただ、それで俺が助かることは確かなる事実。


 「で、そこでちょっとご相談というか、提案なんですけど...」

 「え、あ、うん」


 提案?何だろう。


 「風の噂で、佐藤さんが温泉旅行のペアチケットが当たったって聞いて、行く相手がいないって聞いちゃったんですけど...」


 風の噂...。あいつ。


 「もしよかったら、一緒に行かせてもらえませんか?」

 「え?」

 「いや、その、私たちが付き合っている証拠づくりには最適なのかなー、なんて思っちゃいまして。って、そ、そうですよね。嫌ですよね。ごめんなさい」

 「いや、別に嫌じゃない...」


 嫌じゃないけど...


 「え、じゃあ!」

 「ただ、ちょっと先約が入ってしまったと言うか...」


 と言うか、い、今田ちゃん、俺と二人で旅行ってわかってて言ってんのか?


 「先約ですか...? ち、ちなみに、それは女性だったり...」

 「いやいや、全然、男。あ、木村じゃないよ」


 絶対にあんな奴とは行かないから、そこはしっかりと否定させてもらう。


 「ふふっ、そうですか。それは仕方ないですね。残念ですが、楽しんできてください」

 「あぁ、ありがとう」


 そう。木村ではなく、一緒に行くことになりそうな男は別の奴。


 昔のの男だ。


 まさか、もうあのバカが倉科さんにまで漏らしていたとは思ってもいなかったが、さっき彼女が来てくれた時に、倉科が俺と行きたがっているという話を聞いた。


 まあ、ちょうど、あいつとの飯もおじゃんになってしまったし、一緒に他に行く相手も現実的にいない。だから俺としては全然あり。


 そうだな。実際にあいつ倉科にも後でlineでもいれて色々と調整していくか。


 「....」


 でも、今田ちゃん。先約がなくて俺がオッケーを出していたら本当に...。


 二人で旅行だった...のか?

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長年付き合っていた彼女に浮気をされて別れた29歳の俺、初めてマッチングアプリを利用してみたところ、何故か知っている女性とばかりマッチングをしてしまうのだが?(それも美女ばかり) ぶぬ @jetton

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