第2話 なぜか、双子姉妹が、俺と付き合いたがっている
「それで、あんたはどっちがいいの?」
「理久、どっちか決めてほしいんだけど」
今、
先ほど、結婚前提の誘いを受けたのである。
周りにいる双子姉妹の存在に、理久はたじたじだった。
「でも、そんなことをすぐに言われても、すぐに答えられるわけじゃないから」
まさか、昔の話になるなんて想像すらしてない。
二人も、あの時の事を忘れたものだと思っていたからだ。
今まで、そんな素振りもなく、むしろ、敬遠されているのだと感じていたが、そうではなかったらしい。
返答に困っていた理久は断ろうとし、後ずさろうとするが、背後には優羽がいて正面には美羽がいる。
板挟み状態であり、どこにも逃れられない状況だった。
「でも、私たちの想いは変わらないから」
「だから、理久もちゃんと私たちと向き合ってよね」
正面からは強気な美羽の声。
後ろからは優羽の誘う声が聞こえ、逃れられない運命に、理久はただ戸惑う事しかできなかったのだ。
姶良家の双子の姉が、
黒髪のロングヘアに整った顔立ち。学校では成績優秀であり、周囲からの人気も高いのだ。
友人関係も幅広く、他の男性と付き合っていてもおかしくないプロポーションをしている。
そんなハイスペックな持ち主なのに理久との昔の約束を守り、結婚前提の誘いをしてきた事には驚きだ。
「私だったら、理久の為なら何でもしてあげられるよ♡ 一緒に休んだり、色々な事を教えられるから」
優羽は、これ以上は逃がさないといった感じに、理久の事を大きなぬいぐるみのように背後から抱きしめている。
先ほどから押し当っているおっぱいの圧力が凄まじかった。
この環境で平常心を保てるか不安だ。
優羽は普段は大人しい感じで、人当たりの良い印象のある美少女。
今の彼女は積極的で、理久の事しか考えられないのか、後先考えない行動が目立っていた。
「理久は私と何をしたい? なんでもいいよ。今日の夜からでも。理久の為なら、なんでもしてあげるから♡」
「いいから、そういうのは。というか、まだ付き合うとは決まったわけでは」
理久は戸惑いがちに断ろうとするが、なかなか優羽は離れてくれなかった。
優羽は理久の匂いが好きなのか、背後から抱きしめたまま、匂いを嗅いでいるようだった。
「ねえ、優羽、いつまで理久にくっ付いている気? さっさと離れたら?」
美羽は、理久を抱きしめている優羽を睨んでいた。
「別にいいじゃない。そもそも、美羽は、理久の事が好きじゃないんでしょ?」
「そ、そうよ。でも、嫌いでも、約束は約束なんだし。だから、嫌いでも理久に興味を持ってもいいでしょ!」
それはどんな思考回路なんだ?
意味不明すぎる。
意味が分からないまま、今まさに双子姉妹の口喧嘩の狭間にいるのだ。
「というか、そもそも、あんたがハッキリとしないから、こうなってるんだからね!」
美羽は、不満そうに理久の顔を睨んでいた。
茶髪のセミロングヘアであり、顔もよく、小柄で一見可愛らしい容姿をしているが、それは嘘だ。
普通に口が悪いし、強気な態度が目立つ。
ぶっきら棒で目つきが少々悪い事も相まって、そこまで友人関係の幅も広くはなかった。
クラスメイトの中には、ある程度友人はいるらしいのだが、放課後に誰かと一緒に帰宅しているところを見た事はなかった。
「なに、あんた」
「別に何も」
美羽から追及されるように言われ、理久は首を横に振っていた。
「というか、そんなにおっきい方が好きなの」
「違う」
「変態。ド変態じゃない。この痴漢」
「なんでそうなるんだよ」
「あんたって、元からムッツリでしょ」
「そんな事は……」
「なんか、視線を逸らしたんだけど。やっぱ、疚しいことがあるんでしょ」
疑い深い顔をする美羽は、理久にさらに近づいて来て、顔をまじまじと見つめてくる。
前からも後ろからも、圧力が凄すぎて、理久はただ頭を悩ませる事しか出来ていなかった。
「まあ、何を言おうと、あんたには付き合ってもらうから。変態」
「なんで、その呼び方になるんだよ」
美羽からの呼び方は変態で統一されそうになっていた。
「だって、今まさに変態行為をしてるじゃない」
「でも、これは不可抗力なんだ。自らやってるわけじゃないから」
理久は激しく抵抗するが、背後にいる優羽は離してくれなかった。
「というか、明日時間あるの?」
「明日は……」
美羽に言われ、理久は考え込む。
明日の土曜日のスケジュールとしては、朝から自室に引きこもってゲームをする事だった。
美少女らがたくさん登場するゲームをやろうと考えていた。
現実に希望を抱けないからこそ、ゲームに依存していたのだ。
今さら双子姉妹と遊んだところで、昔のように心の底から楽しめるかわからない。
「どうせ、予定もないでしょ」
「そんな事はないさ。俺だって用事くらい……」
理久は咄嗟に話そうとするが、焦った状況では上手く言語化出来ていなかった。
「理久は私と一緒に遊ぶんだよね?」
背後にいた優羽が理久の耳元で囁きながら、ようやく離れてくれた。
優羽は、理久の正面にやってくるなり、いきなりキスをしようとしていたのだ。
「は⁉ な、何してるの⁉」
優羽が、理久にキスする直前、それを見ていた美羽が引きとめた。
「でも、結婚前提なら、キスもするでしょ」
優羽は普通じゃないと言っていた。
普段は真面目で冷静な判断が出来る子なのに、やろうとしている事が突飛すぎると思う。
「そんな事ないわ。というか、さりげなく、理久と距離を詰めないで。私だって……理久とキスすらしたことないのに……」
美羽は髪を触りながら小声で話していた。
「何か言った?」
「は? 別に、なんでもないし。というか、明日は私のデートに付き合って。これは私の命令だから分かった?」
美羽は頬を紅潮させたまま、理久の前の前で宣言していたのだ。
「私のデートも付き合ってくれるよね、理久」
優羽は両手で理久の右手を掴み、お願いねと懇願してきていた。
「私との約束が最初よ」
その二人のやり取りを見た美羽が割り込んできたのだ。
「じゃあ、デートをしながら、どちらがいいか決めてもらう事にしたら?」
優羽が提案する。
なぜか、理久の意見がないまま、姉妹の間で話が進んでいく。
女の子らとデートできる事には問題はないのだが、これからも二人の板挟みになると思うと、今後が苛まれる。
「まあ、そういう事で、お願いね、理久♡」
「優羽、抜け駆けはなしだからね。それと、理久。寝坊なんてしないでよね。明日は絶対に、私のデートに付き合ってもらうんだから!」
優羽と美羽。
双方の発言を受け、目の前にいる双子姉妹の姿を見て、今までの平穏な生活が崩れそうだと、その時、理久は悟っていた。
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