西の塔には魔女がいた
@genkaiazuko
00.プロローグ
「それじゃあ、後は頼んだよ」
そう陳腐な言葉を言った彼は微笑んだ。
辺りは火の海でとても笑えるような状況ではない。
「やっぱりこれしか方法がないのか?」
隣にいる彼は苦しそうに問いかける。かくいう私も、まだ他の方法がないかと回らない頭で考えていた。
「だってこの方が犠牲が少ないし、2人なら約束を守ってくれるだろ!」
目の前の彼がニカッと笑う。
どうして、どうしてこの状況で君はまだ笑うのか。
「だからといってお前が犠牲になる必要なんてない!」
「そうだよ!もしかしたらまだ方法が…」
「そんなのないよ」
私たちの必死の問いかけるも虚しく、彼はそれしか方法がないと言った。もはやそれは死刑宣告のようだった。
彼は本気なんだ。だから綺麗に笑っていられるの?
「……もう、これしかないんだよ」
ああ、苦しそうにしないでよ。お願いだから自分を犠牲にしようだなんて考えないでよ。
「大丈夫、またオレ達は会えるから」
そんな保証出来ないくせに、酷い男だ。
「今までちゃんと準備してきたんだから、絶対上手くいく」
歯を食いしばる。彼の必死の覚悟を私たちのわがままで潰してはいけない。
そう分かっているのに、視界はどんどん滲んでいく。
「……本当に、やるんだな」
「頼りにしてるよ」
「………」
そして私は杖を持ち、必要な言葉を並べる。呪文詠唱ではない特別な言葉、祝詞。
すると暫くして黒い何かが現れる。あの中に彼は飛び込むのだろう。
「それじゃあまたね、2人とも」
「………ッ」
「……………」
バイバイ、その言葉を最後に目の前が急に明るくなる。そして私は急いでそれを封印する。
傍から見ればあっという間だったその瞬間が、自分たちには永遠のように感じた。
この手で地獄を作ったかのような罪悪感が身に染みて痛い。
これが、『200年戦争』の終わりだった。
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