かなざくらの古屋敷(完全版)
中岡いち
プロローグ(完全版)
心がどこにあるのか、誰も、いつも、見えなかった
気持ちの行く場所も分からない
目の前にあるものは
それだけで良かった
そして
私の時が回る
☆
夕暮れの始まり。
微かに空の色が沈み始め、夜の訪れを告げる時間。
そんな時間が、私は一日の中で一番好きだった。
細かな
いくつもの
その道は、まあ、車二台ですれ違えなくもないような幅。
道端の雑草の不規則な広がり方が、不思議と嫌いではない。
排水路の鉄の網にも砂が被り、決して常に誰かが管理しているような所でもない。
もっともスカートやヒールを滅多に履くことのない私にはあまり関係ないことではある。
昼間でも人通りなどほとんどない山沿いの集落だ。しかも集落とは言っても転々と建物がある程度。
小さな街灯がそんな集落の未舗装の道路を照らしているが、そんな淡い照明など必要ないくらいに、今夜は月明かりの主張が激しい。完全な満月か。もしくはほぼ満月といった所だろうか。
まだ空は水色とオレンジ色が混ざり合う頃。それなのにすでに月明かりの存在を感じる。空の半分ほどが青く薄暗くなり始め、そこを照らすような月の灯り。
いつも無駄に大きな青い屋根の家の前を通るが、その家に暮らす人の顔を見たことはない。その家の小さな窓から灯りが漏れていた。その灯りを強く感じるほどに陽の落ちるスピードも速い。もちろん誰かは暮らしているのだろう。しかしあまり興味はない。
各家々の間には結構な距離がある。短くても歩いて五分。隣の家の騒音には縁のない人たちが暮らしているエリアと言えるだろう。街中の住宅地とは根本的に違う。何せこうして家の敷地から外に出ている私ですら人に会うことがない。三日に一度はこうして散歩していても、だ。
大きな屋根の家の向かいには、道路を挟んでなぜか孤立したような大きな木。飾り付けをすればクリスマスツリーにちょうど良さげな木だといつも思っていた。
別に急ぐ必要もない、いつもの夕暮れ。
この近辺を何度も散歩しているが、思えばアスファルトに舗装された道路をしばらく歩いていない。
歩きやすくはないはずなのに、なぜか足に優しく感じるのはなぜだろう。
不思議と歩いていて楽だ。
以前暮らしていた所では、運動不足のせいか、少し歩いただけですぐに息を切らした。
しばらく歩き、周りに建物の灯りどころか街灯すらも見なくなった頃に現れる私の家は、残念なくらいに古い。おそらく集落の中でも最も孤立した場所にある。そのエリアの一番外側にあり、一番近くの家でも歩いて二〇分以上はかかる。いや、三〇分以上か。
しかし私にとっては新しい我が家だ。
裏の竹林も含め、土地自体は広いようだが、明確な範囲は私自身正確に把握してはいない。
買ったのは春。
いい季節だった。
土地と建物込みで四五万円。
安いのも当然の古さ。いや、むしろ高いくらいかもしれない。しばらく放置されていたんだろうと思うほど、総てに於いて荒れ放題という言葉がしっくりきた。家具などは何も残されていなかったが、正直、掃除が大変だった。初日は寝る場所を確保するのがやっと。しかも寝袋だった。
それでもワクワクしたのを覚えている。
台風でも来たら簡単に飛ばされてしまいそうな屋根と壁。いや、ただの強風でもきっと危ういだろう。壁の板に雨が染み込んだらどうなるのか。
唯一立派と思えるのは屋根の
そして台所に隣接したリビングと言える広い部屋から庭へと続く
せめてお気に入りの場所だけでも
最初に持ち込んだ荷物は寝袋と身の回りの小物類、マグカップなど。家電製品のほとんどは新たに買ったのでまとめて運送業者に運んでもらったが、それでも洗濯機と冷蔵庫と電子レンジ、そのくらいで済んだ。一緒にタオルなどの必要な物も買ったが、掃除機を買い忘れたために最初の大掃除はホウキだけで大変だったのを覚えている。
あちこちの掃除から始めつつ、同時に春の内から決して小さくはない庭の雑草整備。その苦労の甲斐もあってか、夏には様々な花を咲かせてくれた。もちろんまだ種を蒔いたわけではない。名前は分からなくとも
一応敷地の前にある道路との境に竹で組まれた
三二才のうら若き
庭に隣接する門替わりの二本の木はそのままだ。木の種類も分からずにそのままにしていたが、枝幅も狭く、さして邪魔にならず、涼しくなってきたこの季節でもそれほど葉の数を変えない。
庭には虫除けにミントでも植えてみようかと考えたが、繁殖力が高そうなのでやめた。今は庭に薄めた
そして今は秋。
しだいに気温が下がりつつあるところに、一末の不安を覚える。
いや、一末どころではない。夏にエアコンの必要性を感じないほどに風通しを考えて作られた建物。メリットは床下を含めて湿度が
しかし同時に、冬の寒さに対してはどうなのか。豪雪地帯というほどではないが、ここにもそれなりに雪は降る。さらにそれなりに積もるらしい。気温も朝晩は氷点下。
二一世紀になって三二才が凍死の心配をするとは、国会で居眠りをするだけの政治家には想像も出来ないことだろう。そんなわけで、最近はアウトドア用品の冬キャンプ特集をネット通販で眺めるのが楽しい。
大きな仕事でも舞い込めばリフォームでもするのだが、現実は非情なまま。せめて憧れの
そろそろ仕事が来ないものだろうか。
この山の中に引っ越してから半年近く。
未だ相棒は仕事を持ってきてはくれていない。
自分で探せる仕事なら良かったのだが…………。
☆
「ここはやはり真剣に聞いてもらう必要があると思う」
その動きに揺らされた空気の中、漂うのはカレーの香辛料の香り。さらにそれを追いかけるように、サラダに絡めたオリーブオイルとビネガーの香りを
テーブルを挟んでいるとは言っても、反射的に体を仰け反らした
「……大体想像出来るけど…………何をよ」
「最近は月に一回くらいでしょ? 私はもう少し
身を乗り出したままの
その
それを見ながら、
「…………あなたが……自分でこんな山の中に逃げたんでしょ…………」
「でも
「……そうだけど…………」
未だに公私共にパートナーであることは事実だ。
両親共、物心がつく前の幼い頃に亡くしていた。子供の頃から強い霊感体質だった
二才年上の
それでもお互いの気持ちだけは離れることが出来ないまま、
「今日はさ」
そう声を張り上げて話題を強引に切り替えたのはもちろん
「仕事持ってきた。久しぶりに」
「へー、やったじゃん」
そう言って体を戻す
だからこそ
いつも自分の感情がどこにあるのか分からなくなることがあった。週に一度会いに来るだけの関係。その言葉通りなら事は簡単だ。しかしそれだけでは片付けられない部分が
そんな
「久しぶりに稼ぎたいねえ。この家もリフォームしたいしさ。もうすぐ冬だし。このままじゃ凍え死ぬよ」
今現在あるのはアパートから持ってきた物ばかり。総てがサイズ的にもアンバランスに見える物だけ。元々あまり荷物が少ない事は
そんな生活が続いていたせいか、笑顔を浮かべる
視線を落としながら出てくる声は先程より小さい。
「店の若い子なんだけどさ…………結構最近困ってるみたいでさ……あんまり寝てないって言うし」
「つまり、安い仕事だけどなんとか受けて欲しいと?」
そう返しながら、それがどんな仕事になるか分かっているにも関わらず、
──……見えてた…………?
そう思った
「まあ……そんなとこかな」
すると、
「今夜泊まってく?」
「だめ」
しかしその言葉が本心でないことを
「分かりやすい嘘つかないで」
「明日も仕事だし」
「夕方からでしょ?」
「…………ズルいよ」
「あれ?」
突然そう切り返した
「
「ちょっと────」
声のトーンを上げた
「店の子に手出さないでよ。ちゃんと相手いる子なんだから」
店がLGBTの客をターゲットにしているだけあって従業員ももちろん同性愛者。それなりに過去のあるスタッフばかりだった。
「だって
そう言いながら、
そしてその言葉が続いていく。
「……私の総てを見たのはあなただけ…………」
「…………見せられるのは…………
☆
水の中。
ぬるま湯と言ったほうが正しいのかもしれない。
決して暖かくはなかった。
まるで全身にまとわりつくような、そんなぬるま湯。
視界は
首には絶えず圧迫感。
しかし苦しさは無い。
意識も薄い。
その薄まる意識と、暗くなる視界が、気持ちの奥底を覚醒させていく。
☆
翌日。
二人が目を覚ました時、すでに時間は昼の一一時を回っていた。
まだ閉じられたままの薄いカーテンを通しているにも関わらず、陽が強いのが分かる。すでに太陽は高く登っているようだ。
「いつもより早起き?」
ベッドの上で上半身を起こした
その声にいつも勝てないと思いながらも、
「……大丈夫…………早い時はいつもこのくらい…………」
落ち着いている
それでも求め、同時に二人の関係は反発し合ってきた。
そして、やや落としたトーンの
「やっぱり……まだ見えるの?」
「
そう応えた
しかし
しかしまだ、そのことを
なぜか、
「ご飯は? 昨日のカレーでいい?」
唇に
「
いつもより甘えた声になっている自分を少し恥ずかしく感じながらも、その言葉は嘘ではない。料理好きの
「分かった。温めてくるね」
それは〝火の玉〟と呼ばれ、対になる〝水の玉〟と共に、とある神社では
──……リフォームかあ……そうだよねえ…………
──……久しぶりに大きな仕事欲しいな…………
「ねえ」
リビングの隣の台所から、カレーの香りと共に
「今日、店に行く前に会う?」
それを聞いた
「そうだね……大丈夫?」
言いながら
そこに再びの
「困ってるなら早いほうがいいんじゃない? 私もたまにお買い物したいし」
鍋のカレーを木ベラで掻き混ぜながら
「一緒に行けば今夜は
「どうせ店で酔い潰れて終わりでしょ? お金なんか取らないからたまには呑んでってよ」
畳の上のクッションに腰を降ろした
──……何かしてないと……寂しいよね…………
「いずれは庭に畑作ってレタスとかも育てたいね。キュウリとか」
そう言いながら、
オリジナルのドレッシングをサラダにかけながら
「庭も広いしさ。来年には畑を
「分かった。〝仕事〟見つけてくるよ。お姉さんに任せなさい」
萌江も
「頼りになるねえ。ベッドの上では子猫みたいなのに」
「猫、好きでしょ」
「うん……大好き」
そう言って
しかし、裏の仕事がある。
それは〝心霊相談〟を受けること。
もちろん事業として正式に登記されたものではない。
二年前、
少し会話をしただけで、すぐに
一人で通うようになって、少しずつ
やがて二人で会うようになり、お互いのことを話すようになると、
あまりにも特殊で、もしもそれが正しいとするなら、心霊現象と言われるものの多くが
それ以来、
そして自分の能力を恨んだ。
離れたくないのに、常に一緒にいることが出来ない。それでも
そしてスナックの常連客から相談を持ちかけられたのが最初だった。もちろん店では霊感体質であることは秘密のまま。店のママですら知らない。怖がられ、気持ち悪がられることを知っていたからだ。そして少なくとも、
誰か相談出来る人を知っていたら教えて欲しいとの常連客の話に、
そして、
しかも
一般的なイメージの除霊などという安っぽい形ではない。
それは
感動した常連客の話に乗る形で、
裏の仕事ではあったが、それはしだいに二人の
とは言っても
今回は
まだ明るい内に買い物と言っても、買い物のほとんどをネット通販で済ませる
現在の時間は一六時。
陽の短くなってくる季節。この店は夕暮れに包まれることから始まる。
さらには他の席もまだ空のまま。
「ごめんね
そう言いながらボックス席の
「だって久しぶりにあの店のクレープ食べたくてさ。ネット通販じゃ買えないからねえ」
少し硬いソファーのクッションすらも
そこに店のマスターがゆっくりとした足音と共に近付いてきた。白髪の初老の男性だ。新人でもない限り、この街で夜に働いている人間なら知らない者はいないだろう。時としてご意見番のような立場にもなる
「久しぶりだね
いつもの気さくなマスターの声に、
「元気そうだねマスター……また
それに返されるのは、少し懐かしいマスターの素っ気なさ。
「何年も前から真っ白だよ。二人ともコーヒーかい?」
それに
「うん……いつものお願い」
「はいよ。毎度」
マスターがゆっくりとカウンターに戻ると、再び
「で、こっちが
その
「…………はい……よろしくお願いします」
そう応えた
そのせいもあるのか、若くは見えるが
そして、その目を見つめる
「よろしく
決して
そして、僅かに震える声で
「あの…………もう一ヶ月くらいになるんですけど、毎日……金縛りに会うんです…………」
「ああ……アレね……」
そう即答した
「金縛りが心霊現象じゃないって話は知ってます。でも……必ず前の彼女が出てくるんです……いつもベッドの横で私を見下ろして…………」
「で、気が付いたら朝なんでしょ?」
「…………はい」
すると
その横顔を
──……この感覚、久しぶりだな…………
マスターがその二人の目の前にコーヒーカップを置くと、途端に三人の間にコーヒーの香りが広がり始めた。まるで
「相変わらずいい香りだねえ」
その
「俺は飽きたよ」
そしてマスターは
「あ……すいません」
「いいよ。これはサービス」
マスターがカウンターに戻ったのを確認したかのように、再び口を開いたのは
「少し考えて欲しいんだけど、今、
少し困惑したような目で、
「…………そうですね……やっぱり怖いと思いますけど……」
「それだよ」
「人間の想像力を侮っちゃダメだよ…………怖いから……そう思った時に怖いものを想像しちゃうの……半分眠った状態で。
それに
「じゃあ、何回かに一回…………幽体離脱っていうんですか? 上から自分を見下ろしてて…………」
「これ」
「耳から入ってくる音の情報って凄いよ。視覚が
「でも……浮遊感っていうか……浮いた感じがあって────」
「空中で体が浮いた経験ある? 宇宙飛行士でもない限り経験はないよね。水に浮くのは水の抵抗や重力を感じるだろうし…………それにどうしてみんな〝気が付いたら朝〟なんだろう。怖い経験をしたから気を失うって言うなら、金縛り以外でも怖い経験をしたら必ず気を失うことになる。でもなぜかそうはならない。絶対って言えるものではないけどさ…………目で見えるもの…………頭で想像するもの…………それはどちらも、リアルなものとは限らないってこと」
いつの間にか
その半ば
「以前に私が経験した金縛りで変わったのがあってね…………一〇才くらいの女の子が出てくるんだけど…………その子、この世には存在しない子なの」
横の
それに気付かずに
「100%私が想像した女の子。大体の人はすぐに
そう言って
「幽霊が現れるなら想像も出来るけど、あの子は私の想像上の人物…………それが実体化した…………頭だけが半分覚醒した状態で、恐怖を感じたまま、現実の光景と夢や想像力がオーバーラップしたのが金縛り…………だからいつの間にか眠りに落ちて、気が付いたら朝。それが答え」
「
戸惑いながらも、
「…………そっか……隣の県から来たんだね」
「え⁉︎ だって
それに応えたのは
「みんな、触れられたくない過去ってあるんじゃない? 年齢は関係ないよ。私たちも一緒」
そして
「大丈夫だよ…………そんなことで
「それは、まあね…………」
視線を上に向けてのその
「……分かった…………怖かったんだね…………それで前の彼女から逃げてきたのか…………そんなに暴力振われちゃ無理もないよ…………」
そして、自然と目から
「恋愛対象が異性でも同性でも、どういうわけか自分の感情を暴力でしか表現出来ない人がいるのは同じ…………今の彼女はいい人みたいだね。
すると、いつの間にか
「……はい、でも私と違って日中に働いてるから時間が合わなくて……日曜日しか会えなくて…………」
「寂しかったんだね……だから過去の不安が実体化したのかな……じゃ、
その
「は⁉︎」
「いいじゃん。忙しい時期でもないでしょ。今は
「シフトだってあるし────」
「私が代わりに入ればいいじゃん」
「…………え」
「そんなわけで私も一週間
「……どうせそうなること分かってたんでしょ」
それも
そして
「すいません…………これしかなくて…………」
「コーヒー代だけもらうよ」
「でも────」
「私は99.9%幽霊を信じていない能力者。でも、だからこそ見えるものがあるんだよ。しかも今日は大したことなんてしてないし…………マスター! これで足りる?」
千円札をヒラヒラと振る
「ウチのコーヒーはそんなに安くねえよ」
「長い付き合いなのに冷たいねえ」
「でもまあ…………不思議なことって……確かにあるけどね」
そう言って
☆
「誰の子なの?」
妻の
「……俺たちには子供がいないだろ…………養子をもらう話は前にもしたと思うが…………」
「あなたが一人で決めることなの? いきなりそんな赤ちゃん連れてくるなんて…………どうせ誰かにあなたが産ませた子供なんでしょ。ずっと浮気してたくせに…………その女に押し付けられたんじゃないの⁉︎」
玄関で靴を脱ぐことも出来ないまま、両腕でまだ一才の赤ん坊を抱き、浴びせかけられる
「違う…………事故で死んだんだ」
「だったらどっかの施設にでも入れたらいいじゃない。私たちの子じゃないんだから」
しだいに
「……この子は、俺の子でもある」
「あなたの子でも私の子じゃないのよ!」
結婚して五年。なかなか子供が出来ないまま、
──……妻との間に子供が出来ないのは、俺のせいじゃない…………
──…………悪いのは
そして事実として自分の遺伝子を受け継いだ子供がいる。
少なくとも、
女は一人で育てると言った。その時、
地元の政治家も輩出した財閥の次男。財閥のグループ会社に転がり込み、結婚して家を出ているとは言っても、世間体的に下手なことが出来ない人生でもある。ほんの遊びのつもりの浮気相手を妊娠させてしまったことは
まさかその一年後に女が自ら命を絶つとは思っていなかった。
しかも身寄りのない女だった。
最初、
女が携帯電話のメールの中身を第三者でも見られるようにしていたのは
警察に詰め寄られるまま、引き取ることを承諾するしかなかった。仮にも自分の子。妻も世間体を考えたら首を縦に振るしかないだろうと甘く考えていたのは事実。
「どこの馬の骨かも分からない女の子供を……私に育てろって言うの? しかも私に隠れて女遊びをしてたあなたの子供なんて…………育てると思う?」
「……お前には……本当にすまないと────」
「私がどんな気持ちで病院に通ってたかなんて考えたこともないんでしょ⁉︎ そうよね。あなたはその間に他の女と裸で抱き合ってたんだから‼︎」
紗英の大きな声に、戸建ての家で良かったと考えた程度。
それでも離婚の出来ない理由。それは
総ては世間体。
それだけでその世界は動いていた。
「……例え、育てたとしたら…………あなたは私に弱みを握られるのよ……この先ずっと…………それでもいいのね」
こんな時に、男が考えるのは〝逃げる〟ことだけ。
「ああ…………それでいい…………この家の養子として育ててほしい」
「分かった」
その
やがて、
「女の子? 名前は?」
「…………
「かなざくらの古屋敷」
〜 「プロローグ」(完全版)終 〜
第一部「
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