第30話 茶阿局

 昔々、遠江国にお久という者がいたそうな。


 初めは遠江国金谷村の鋳物いもの師の後妻となり、娘(於八)を生んだという。


 「こんな幸せな時間をずっと過ごしていきたい!」


 そんな風に慎ましやかながら、幸せな時間を送っていたお久だが、とある問題が発生してしまうのである。


 お久は美人であることから代官が横恋慕し、夫を闇討ちにするという事件が発生したのだ。


 「そんな‥‥‥夫が死ぬだなんて‥‥‥一体どうして‥‥‥」


 混乱していたお久だが、代官が自分に恋心を抱いて夫を殺害するに至ることを知り、代官に対して恨みの感情を抱いたのである。


 「私に恋心を募らせたから‥‥‥夫を殺害するだなんて許せない!! 絶対に!!」

 

 幸せな時間を送っていたはずなのに、自分に恋心を抱いたものがその幸せな時間を奪ったことに許せない感情も抱いたのである。


 お久は3歳になる於八を連れて、謀殺された夫の仇を討ってもらおうと、鷹狩に来ていた家康の一行の前に飛び出して直訴した。


 「お願いします家康様!! 夫を暗殺した代官を討ってください! 何卒お願いします」


 お久は頭を下げながら直談判した。


 「我らの前に飛び出すとは‥‥‥処刑されることもいとわずにわしの前に出てきたと判断した。それほどの覚悟を持っていようとは‥‥‥お前は代官によほど痛い目にあったようだな‥‥‥承知した!! その役人はわしが見つけ出し必ず処分させよう!!」


 「あ‥‥‥ありがとうございます!!」


 お久は涙しながら家康に感謝したという。



 その後、代官は家康の命を受けて処罰されたのである。


 その報せを聞いたお久は大変喜んだという。


 

 また、直談判したときお久の美しさに心ひかれた家康はお久を浜松城に召し出て奥に入れたそうな。



 最初は役目も低かったが、徐々に家康の信任を得て、側室となり茶阿局ちゃあのつぼねを名乗るようになった。


 聡明な茶阿局は家康に深く信頼されて奥向きのことも任されたという。



 さらに、能力に優れていた茶阿局は家康に寵愛され、六男忠輝と七男松千代を産んでいる。


 

 


 

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