戦国時代の色んな逸話の物語を特集します

ナイトジョーカー

第1話 花巻城の夜討ち(幻の百万石)

 時は1600年、関ケ原合戦で日の本が2つの勢力に分かれていた時、岩手県の中西部に位置する花巻城を収めていたのは北信愛きたのぶちかであった。


 この北信愛きたのぶちかは収めていた民たちに親しまれたと言い伝えられている。


 また、外交手腕よも優れていて、加賀国の前田利家を訪ねて鷹を献上したり、豊臣秀吉に謁見し臣従する意思を示したりと対中央政権との外交で力を発揮したのである。


 陰謀にも優れていたと言われており、そのため津軽為信つがるためのぶ九戸政実くのへまさざねとはうまくいっていなかったという。


 さらにこの花巻城をめぐりあるいざこざがあったという。


 それは、豊臣氏の奥州仕置によってこの城や周辺を支配していたと伝わる稗貫ひえぬき氏が没落し、赴任した北信愛から城を奪還しようと励んでいたらしい。


 関ケ原合戦であわただしくなったこの時にも、稗貫氏は花巻城を奪還するため伊達政宗に援助の確約をえたらしい。


 その後、北信愛の君主である南部利直が慶長出羽合戦けいちょうでわがっせんに出陣したため、花巻の周辺が手薄になってしまったというのだ。


 その期に乗じて、花巻城を奪還しようと動いたのである。


 この時城を守っていたのは十数名だけだったという。恐らく周辺の者から襲われる心配をしていなかったため、城の守りが手薄だったのかもしれない。


 北信愛はこの日も魚を釣り上げたりしていたらしい。


 「ほほほほほ、これは大漁じゃ」


 北信愛は魚をたくさん釣り上げ喜んでいた。その時、急報を知らせに家臣がやってきた。


 「信愛様、今よろしいでしょうか!?」


 「なに事じゃ。そんな慌てふためいて」


 「実は、稗貫氏が花巻城を奪還するために伊達政宗に援助の確約を得て挙兵したようです」


 「何じゃと真か!!」


 「このことは、没落して浪人になったものが家臣に取り立ててもらいたく渡してきた情報なので恐らく間違いないかと‥‥‥」


 「分かった‥‥‥では、稗貫氏がこの城を襲ってくる前にこの周辺にいる民をこの城に召集せよ」


 「はっ‥‥‥分かりました」


 この時代、いつ戦が起こるかわからなかったので、城は避難先としても使われていたらしい。


 そして、招集しようとしている者達は、女や子供たちであった。男達は慶長出羽合戦に駆り出されていたのでいなかった。


 こうして、花巻城に女や子供が招集された。約500人ほどであった。


 花巻城は北上川きたかみがわ瀬川せがわによる段丘の北東端に築かれており、段丘の北東端に本丸を、西と南に内堀を設け、その外側に二の丸、さらに外に三の丸を配していたようだ。


 かくして、稗貫氏との戦いに備えようとしていたが、城の兵は十数人で、鉄砲は少なくしかなかったので、避難してきた女や子供たちは心配そうにつぶやいていたのである。


 「本当にだいじょうぶなのかしら‥‥‥」


 そんな時だった。北信愛が皆の前に現れた。


 「皆の者、心配ごとはあるようじゃが、この城は堅固な城じゃ。皆の力を合わせればきっと守り切れる。協力を頼む」


 すると、北信愛は頭を下げた。


 「城代様がそういうなら大丈夫なのかな‥‥‥」


 安堵するものも多少はいたという。


 だがその時、あやまって城の内情を言ってしまった者がいたという。それを聞き再び不安にさいなまれたという。


 すると、北信愛は太鼓をたたいたという。


 「皆の者、誤って聞こえたようじゃがあれは間違いじゃ。さっ、このうっぷんとした空気を変えるため宴でも開こうかのう」


 うたげと聞き、心配していた者らは、城の備えが危うければ宴などできないと思い安堵したらしい。


 その後、宴を開いたという。その翌日襲ってくるもの等の対策として糞尿を一か所に集めたという。


 また女子供ばかりだったので、弓矢などは扱えなかったので、石などを武器にすることにしたらしい。


 その夜、9月20日の夜更け、真っ暗闇の中、北上川から肌寒い風が吹いていた。そんな中、稗貫勢(数百名から千人ほど)が北上川を泳ぎ夜陰にまぎれて攻め込んできたという。


 城の中にいたものらは、驚愕しながらも、いそいで守りに備えたのである。


 しかし、一揆勢の猛攻により三の丸、二の丸は破られ、勢いに乗った一揆勢は本丸に迫ったという。


 こうして、御台所前御門を挟んで攻防が続いた。


 このときであった。北信愛が門の隅にある開け閉め可能な部分を開けと命令したという。


 そこから、糞尿が流されたという。くらった稗貫勢は、あまりの臭さに勢いがそがれたという。


 さらに、稗貫勢に向けて石を投げよと命令したようだ。しかし、門からでて戦っているものもいたので、誰が味方か見分けがつきにくかったという。


 その時、北信愛はこういったという。


 「北上川を渡ってきたのなら、泥や水滴が足元についているはずじゃ。それに先ほどの糞尿がついているのでそれで見分けがつくはずじゃ」


 「あっ!! 確かに、それなら見分けがつきやすいわ」


 すると、女や子供らが投げた石が敵に当たり、稗貫勢の者らは次々倒れたという。


 しかし、稗貫勢はあきらめずに攻撃していた。


 だが、その時、近くから雄たけびが聞こえたのである。近くに居た味方の者達が駆け付けてきたようである。


 「くそ、早く攻め込むぞ」


 稗貫勢は勢いを再び戻した。


 そこで北信愛は一計をめぐらした。


 「鉄砲にわざと弾を込めずに空砲を撃て。間断なく射撃音を響かせることで和賀勢の士気を挫くのじゃ」


 すると空砲が鳴り響き、それを聞いた稗貫勢は勢いが削がれたのと同時に迫りくるもの達のことを考えて退いたという。


 それを見ていた城内の者らは大いに喜んだという。


 そこで北信愛はこういったという。


 「皆の者、稗貫勢が退いて行くぞ。勝鬨をあげよ!!」


 こうして、花巻城の夜討ちは幕を閉じたのである。


 その後退散した稗貫勢を北信愛の息子の北信景きたのぶかげなどが追撃部隊を結成して、稗貫勢を伊達政宗の領地まで退かせたという。


 さらに、北信愛はこのことを上方にいた、徳川の者や貴族の者達に伝えたという。

 

 伊達政宗は使いの者をだして弁明したが、許されず、確約された百万石は幻の百万石になったという。


 その時の伊達政宗の光景を想像すると怒りで、百万石確約の破棄の紙を破り去っている光景が手に取るように分かると花巻城を守ったもの達は大いに笑ったという。


 また、北信愛の義理の息子の北信景は大阪の陣に豊臣方として参陣し、黄金の甲冑を着ていたことから「南部の光武者」と言われたようである。

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