第10話

北井先生は良い先生だけど、正直ちょっとズレてる。いや北井先生だけじゃないな。なんで俺を停学にしないんだ。してくれないんだ。

土曜日の部活。今日は走りに来たんじゃない。

こんなんで走れっかよ。

俺は大会の辞退の書類を書きに来た。辞退自体、ダジャレかよ。まあとにかく先生には伝えてある。

もういい。俺の陸上人生がここで終わったとしても。もうどうでも…


「良太くんっ」


階段の途中で振り返ると、森谷がいた。


「…何?」

「ごめん」


森谷はゼッケンをつけて、汗をぼたぼたと垂らしていた。


「僕は、君が羨ましかった。僕は、君が妬ましかった。

だから、僕は、あんなことを」


頬にはガーゼが貼られている。


「君が走らなくなってしまって。僕は、清々するかと思ったんだ。

でも、違った」


息をするのさえ惜しいように俺に想いを伝えてる。


「これは僕の、自分勝手な願いなんだ、けど」


真っ直ぐにこちらを見て。


「もう一度走ってくれ」


俺ってマジで笑っちまうぐらいに単純。


先生、俺やっぱ走る。

三階の職員室をゴールに走っていく。


「は」


三階に一歩目がついた瞬間、俺は突き飛ばされた。

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