#23.この錬金術師、めんどくさい。



「こんな辺鄙な場所に客がくるのは、久しぶりだよん。ちみ達が四天王だね? 噂には聞いてたけど、美人さんだねぇ。お目にかかれて光栄だよん」


アンティーク調のマグカップが、埃被った机の上に置かれてゆく。

彼女から案内されたのは、煙が立ち上がっていた一軒家だった。


床やベッド、とにかく乱雑に物が散らばっていて、正直狭いという感想を抱かざるをえない。

そんなことより、だ。私の視線はつい頭にいっていて……


「初めまして! 私、リンネ! あなたは?」


「リンネ……ってことは、ちみがディアっちの娘か。どぉも〜獣人族のケトスル・アミだよん」


「ディアっちって、お母さんのこと? 仲良いの?」


「錬金術師はそう多い職業じゃないから、道具の仕入れや薬の調合で城に呼ばれることが多いんだよん。なんなら、みてくかい?」


眠そうな垂れ目に、のんびりした話し方。

私らに挨拶するかのように、垂れた耳が頭の上で器用に動いている。

もう、お気づきだろう。


彼女の種族は獣人族! つまり、彼女の頭には"ケモミミ"が存在しているのだよ!!

女の子×獣耳は萌え要素抜群!!

種類は、猫かな? しっぽもちゃんとあるし……さ、触りたい……


「へえ……こんなに種類あるんだな……全部、あなたが調合を?」


「まあねん。戦闘力アップや魔力増強薬……四天王様にうってつけの品ばかりだよん」


そういわれ、改めて部屋を一瞥する。

棚には、いろんな薬がとにかくたくさん並べられていた。

赤、青、紫……様々な色の液体が、理科の実験で使いそうな容器に入っている。

大きい釜や、たくさんの本……どれも目を惹かれるなぁ。


「悪いけど、今日はやめとくわ。あたし達、頼みたいことがあってきたの」


「四天王直々にがおいらに頼み事とは。何かお困りごとかにゃ?」


「こいつを、元の状態に戻してくれる?」


早速とばかりに、マヒルが背負っていたアサカをおろしてあげる。

アサカは眠ったように目を瞑っており、びくともしない。

まるで、今まで生きていたことすら忘れてしまいそうなほど綺麗でー


「これはこれは、誰かと思えば……元のぬいぐるみ状態に戻りかけてるな……催眠術系にやられたね?」


「えっ、よくわかりますね」


「おいらの錬金術は、どーにも相性が悪いんだよねん。最近メンテにきてなかったし、色々積み重ねってやつかな」


そういうと、彼女は棚に置かれた液体を次から次に指に挟む。

特に躊躇う様子も、迷う様子もない彼女は、それを釜へと投げてゆく。

そして、舌をペロリと出しながら、


「そんじゃ、やるとしますかにゃあ〜。混ぜ混ぜ、こねこね、ドロドロ、ぐちょ〜ん」


と、あまり聞こえが悪い擬音語を並べ、かきまぜ始めた。

……なんか、絵本に出てくるような魔女みたいだなぁ。

鍋の液の色も、お世辞にもいい色とは言えないくらい毒々しくなっていくし……

あれを飲むなんて、絶対嫌だなぁ。なんて思っているのにも関わらず、アミさんはできた液体を躊躇することなく彼女の体へ流し込んでしまいー


「さて、これでいいはずだよん。一応彼女には、一ヶ月後に様子を見せるよう言っておいてくれ。じゃ、用はすんだよね? 一応案内するロボが玄関にいるから、そいつの後を追えば帰れるよん」


え?? もう終わり??

ちゃんと戻ってるかとかの確認は??

そんな私とは逆に、彼女は作業を再開しだして……


「まだ、腑に落ちないことがあるんだけど」


それと同時に、サヨが声を発する。

その表情や声から、帰るわけがないという意思さえ感じられる。

それなのに彼女ーアミさんは、やれやれというように笑って見せた。


「これでも、おいらは忙しいんだけどなぁ。まだご不明な点でも?」


「あなた、何が狙いなの?」


うわぁお、これまた直球〜。

そりゃあなぁ、用が終わったから帰りまーす、なんてできるわけないよなぁ、うんうん。


「アサカは、魔王さんを主だと話していた。だから彼女が魔法でアサカを人間にしたと思っていたの。こんな複雑な魔法、使える人はいないから……」


「不可能を可能にする、それが錬金術だからねん」


「でも彼女はそれを否定した。あなたがアサカに命を宿したのよね? その目的は何? あなたは、アサカのなんなの?」


相変わらずサヨは頭が切れるし、直球に聞きたいことを聞いてくれる。

それでもアミさんは、答えるつもりがないのかやれやれと肩をすくめるだけ。

うぅむ……じれったいな、この人……

何か、何かないんか……!! 


「私は、ぬいぐるみ。彼女を見守るために作られた、彼女のための所有物……すなわち、元主です」


聞きなれた声に、パッと振り返る。

そこにはすでに、アサカが体を起こしていた。


私物……そういや、言ってたわ!!

元々とある錬金術師の私物だったとか、その人が錬金術で私を人間にしたって!

ここでその伏線回収する!? もう忘れてたよ、わたしゃ!!


「あ、アサカ。気がついたんだな」


「ご心配をおかけして、すみませんでした。このご恩は、いつか必ずお返しいたします」


「元って、あんたどーいうことよ?! ディアボロスが主なんじゃないの!?」


「簡単なことです。彼女は、こともあろう他私を、魔王様に押し付けました。すなわち、捨てられたのですよ、私が邪魔……だから」


はぁぁ、なるほどなぁ。

言われてみれば、ぬいぐるみをいくら大切にしていたとしても、大人になると飾る程度になってしまう。

なんとも悲しきぬいぐるみのサダメ、というべきなのか……


でもなぁ、不思議に思うのはアミさんは大人になってからもずっと持っていたってとこなんだよなぁ。

それがどうして急に、魔王へ渡したのだろう。

そもそも人間にしたのだって、彼女がおこなったはずだし……


「やぁ、元気そうだねん。アサカ君」


「……見ない間に、随分と老けましたね。その様子だと、お風呂や睡眠もろくにとっていないようにみえます。あなたと言う人は……」


「そんなこと言われてもにゃあ。おいらだって忙しいんだよん? あれとか、それとか」


「永遠の命についての研究、ですか?」


ん???? 永遠の命だとぉ??

その言葉に反応したのは、私だけではない。

アサカの問いにアミさんが、へぇと不気味に笑う。

その顔はどこか知ってほしくない、と言うふうにも捉えられるようなー……


「主様が、おっしゃっていました。物を頼んでも、くる気配すらない。一切外に出ず、この家にばかり籠っていると……相変わらず、お手を煩わせることがお好きのようですね」


「……ちみはなぜ、おいらがそれを研究していると知ってて言ってるのかにゃ?」


「知りません。知りたくもありません」


アサカの言葉はいつにも増して鋭く、棘がある。

お互いの瞳に映る二人は、どこかつらそうに見えてー


「あなたと私は赤の他人……あなたが、そう言ったのです……もう二度と、顔を見せないでください」


そういうと、アサカは怒ったように部屋を出てしまう。

そんな彼女を追うように、他の3人も慌ただしく出ていって……


「……ほんと、お喋りがすぎるねぇ、ディアっちは。おいらがどんな思いでちみを任せたとも知らないで……」


深い、ため息が聞こえる。

外に出ようとする手前、彼女の声を聞いて抜けたパズルのピースがうまってゆく


アミさんは、アサカを人間にした人。

急にアサカを捨て、今では永遠の命の研究に没頭……


まさか、まさかそういうことなん??

そういうことなら、不器用すぎやしませんか??


百合を探して、数ヶ月。

フラグすらなぁぁんもなかった四人。

そんな四人に……ようやく……

やれやれ、ほんと一筋縄じゃいかないなぁ。

どうやらここからが、本当の勝負のようです!!


(つづく!!)

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