第49話
静夜さんからの返事が返ってこなくなって、一週間が経過した。旭がどれだけメッセージを送っても既読すらつかない。
メッセージ送りすぎたかな。
やっぱり告白なんてしなければ良かったのかな。
そうしたらまだ静夜さんと一緒にいられたのかな。
そもそもゾンビになんかならなかったら。
以前木村教授に言われた強欲とエゴイズムという言葉が胸に刺さって抜けない。
「旭、大丈夫?」
「え? 何が?」
「元気ないよ」
早見に指摘される。
「大丈夫だよ」
笑う。
「泣いてるみたい」
「泣いてないよ」
「嘘だよ」
嘘じゃないよ。わたし泣いたりしてないもん。泣いたりできないもん。ゾンビだから。
「ねえ旭、静夜先輩のこと諦めなよ。壊れちゃうよ」
早見が旭の肩を掴む。旭はへらりと笑った。
「諦められたら恋なんかしてないよ」
静夜とのメッセージのやりとりは楽しかったが、最近はそれも無くなってしまって、ただ吸血して、木村研から一緒に帰っているだけ。『いい友達』という看板が無ければきっとそれも無くなっていくだろう。心做しかあれほど馨しかった静夜の血の味もしなくなっていた。
楽しさと苦しさの天秤が苦しさの方に傾ききって、もう死んでもいいから報われたいと思ってしまった。
『先輩、今日木村研に行きますか?』
返事は無かった。
木村研に向かう。シュレディンガーの静夜さん。お願い、居て。
扉を開くと、そこに先輩の姿は無かった。
センサーは壊れてしまったらしい。
避けられてる? 嫌われた?
ああ、もう仲良く一緒に出かける仲には戻れないのかな。
「木村先生、静夜さん来てませんか?」
「見てへんよ。それより、お前顔色悪いで」
「先生、わたし静夜さんのことが好きなんですけどどうしたらいいと思いますか」
「人選ミスや、他当たってくれ」
木村研を出て、スマホで早見に通話をかける。
「早見、わたし静夜さんのこと好きなんだけどどうしたらいいかわからないの」
『諦めな。それしか言えん』
「人選ミスったわ」
『それか友達のフリして永遠に先輩に恋してなよ。それが一番幸せなんじゃない』
「うー」
中庭のベンチに座って、後夜祭のことを思い出す。あのときは時間がゆっくりで幸せだったな。
「旭」
名前を呼ばれて顔を上げる。
そこには生田が立っていた。
「生田? どうしたのかな」
無理していつもの笑顔を作る。
「お前がどうしたんだよ」
「あはは」
旭は笑った。
「先輩が好きだったの。でも、嫌われちゃったみたい」
「︙︙お前にそんな顔させるようなら、いくら前会長が相手でも嫌われて正解だ」
「先輩のことそんなふうに言わないで」
「まだ好きなのか?」
「好きだよ。たぶんずっと好き」
「――俺も、俺だってあのときからずっと、」
「三峰さん!」
生田の言葉よりも何よりも、切り裂くような彼の叫び声が耳を劈いた。彼の大声なんて聞いたこともなかったので驚く。
「静夜さん……?」
中庭を走ってきて、静夜は旭の右腕を掴んだ。
「ちょっと彼女を借ります、生田くん」
「え、え」
「静夜先輩、待ってくださいよ」
生田の声に振り向きもせず、静夜は旭の腕を引っ張った。
「待てません。失礼します」
混乱する旭を引っ張って、静夜は早足で生徒会室に直行した。誰もいない生徒会室で、静夜と旭が対峙する。
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