第8話 あなたに褒めて貰えるならば

 職員室で、わたしは担任の三沢先生に今日あったことを伝えた。

「すみません、事故なんかに遭っちゃって」

「轢き逃げだったんだろう? 三峰は悪くない。事故の影響で普段の生活に支障はないのか?」

「少し後遺症が残ったので、体育だけ少し不安がありますね。内容によっては見学にさせてもらいたいです」

「わかった。体育担当の中西先生に伝えておく」

「お願いします。あと、制服はクリーニングに出しているので返ってくるまで指定ジャージ登校になります。今日は用意がなかったので私服で授業を受ける許可をください」

「わかった。授業は三時間目の現国から参加するように」

「はい。失礼します」

 三時間目までは生徒会室で仕事をして過ごした。

 半月後に控えた体育祭に向けて仕事はいくらでもあった。目を通した書類に判を押すのを繰り返す。

 それを繰り返していれば、二時間目が終わるチャイムが鳴った。書類を片付けて、スクールバッグを持って生徒会室を出る。

「あれ、会長今日私服?」

 教室まで歩いていると同じ三年生に声を掛けられた。

「ちょっと事故っちゃって制服クリーニングに出してるの。これは真似しちゃだめだよ」

「なんだ、また改革起こすのかと思ったのに」

 改革とは、旭の代から高等部の髪の色が自由になったことを指す。生徒会長になってから、旭は髪をピンクアッシュに染めた。そのことについて指導を行った生徒指導の教員に対し、『初等部から今に至るまで、課題も授業も怠ったこともなく、素行にも成績にも問題のないわたしが髪を染めたくらいで変わるとお思いですか』と過去の所業から証明して見せて生徒の髪色の自由を勝ち取った事案のことである。だから氷鷹学園の高等部の生徒は髪色がばらばらだ。

「しないよ、わたし氷鷹の制服気に入ってるもん」

 教室に着き、後ろの扉から入る。

「おはよう」

「あ、会長おはよう」

「今日私服?」

「そのパーカーかわいいね」

「おはよう。ありがとう、私服はちょっと事情があってね。明日からはジャージだよ。ところで今日の現国は小テストだった筈だけどみんなおさらいはしたのかな?」

 そう尋ねると旭を囲んでいた同級生がわっと散って行った。

 ふうと息を吐き、教室の最後列の真ん中の自席に座った。現代国語の資料集を出してぱらぱらと捲る。

 授業開始五分前に担任であり現国担当である三沢が教室に入ってきた。その手にはプリントが抱えられている。

「お、みんなちゃんと勉強してるな、偉いぞー」

 その日の授業は小テストだけだった。後半は先生がテストを採点し、生徒は自習になったのだ。

「三峰旭」

 順々に呼ばれて前に出る。

「満点。さすがだ」

「ありがとうございます」

 静夜さんに褒めてもらおう、と内心で思いながら小テストを受け取る。

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