私だけ

@smdrmf

第1話 開花

初めまして。私の名前は佐藤たまきというそうです。なんで他人行儀なのかというと自分の名前じゃない感じがするからです。でも、これを周りに言っても は?って顔をされます。多分、大抵のひとには伝わりません。

貴方にも。

けど、私は昔から自分が自分じゃない気がするんです。自分の体を操っているのは私なのに、意識が遠くにあるようなそんな感じ。真上から物事を見ているような。

こういう意味のわからないことをポンポン言ってしまうせいで友達は1人だけ。私的には1人いるなら十分だろうと思うのですが、母親は口うるさく友達を作れと言ってきます。どうしたものか。そもそも友達って作るんじゃなくて自然に集まるものなんじゃないでしょうかね。分かりませんけど。

たった1人の友達というのも味があって大変良きかな…。

などと考えながら、学校へ向かっているとと後ろから肩をつかれた。

来た。

「やほ。今日も暑いね〜」

額に浮いた汗を拭いながら、その子は自転車をゆっくり漕いでいる。私のペースに合わせてくれているのだ。なんて優しい。

「おはよう。暑いね、太陽が私たちを殺しにきてる」

「たまちゃん〜 朝から殺すとか言わないでよ〜物騒!!」

私はこの子の喋り方が好きだ。ゆるゆると力が抜ける喋り方。癒される。

この子、川嶋ゆきは私のたった1人の友人だ。親同士が仲良いこともあって、小さい頃からずっと一緒にいる。幼なじみというやつだ。ふふ。幼なじみってなんかいいよね…。あ、違う。話 脱線した。そうじゃなくて、えーと。

「ゆきちゃん。放課後暇なら海行こうよ。」

「え、いいけど。いっつも急だね〜」

「今日はね。そんな気分なの。」

「たまちゃん、今日数学と英コミュの補習って言ってなかったっけ?」


普通に忘れてた。言ってなかったけど私は頭が悪い。でも、そんなものは今の私に関係無い。

「ゆきちゃん。私たちはJKなんだよ?法に触れなければ何をしてもいい期間なの。それを活用しないで、いつ自由になれるというの?」

「たまちゃんの言うことも分かるけど、勉強だって大事だよ。それに今日は短縮授業で4時間だから、補習受けてから海行っても間に合うでしょ」

と、ごもっとも過ぎる正論を食らったので大人しく従う。

ゆきちゃんは、私よりずっと賢い。運動も出来る。友達も多く、男女共に人気だ。私とはまるで反対だ。ゆきちゃんがいればほかの友達なんか要らない。


だって、ゆきちゃんは私の光なんだから。


自転車を置いて下駄箱へ向かう。

このちょっとの道のりでも、ゆきちゃんは10人ぐらいに挨拶されてた。やっぱ凄いな。ゆきちゃん。

対して、私は俯きがちに歩きながらゆきちゃんのスカートの裾を摘んでる。この差ってなに??

補習もあるし、こんな惨めな思いするし、今日も最悪の日になるのかもしれない。

じゃあ、また後でと手を振って教室へ入り、席へ着く。もちろん、私におはようと声を掛けてくる人は居ない。人気者と一緒にいれば自然と人が寄ってくると思ってたけど、そんなのは小学校までで、高校生にもなれば変な奴とは関わらない選択をする人が大体だ。

カバンを漁ってイヤホンを取り出し音楽を聴く。音楽ってさいこー。

1曲聴き終わったくらいで先生が来た。この学校は休み時間以外スマホNGなので、急いで電源を切ってカバンに突っ込む。先生の話がスーッと通り過ぎていく頭の中で、学校が終わればゆきちゃんと海!!!とぐるぐる考えていた。


「今日はここまでー。明日補習プリント提出だから忘れんなよ。」

先生の声は疲れきった私には届かない。やっと終わった。解放された。

早くゆきちゃんと海へ行こう。下駄箱前集合ってメールしよう。

スマホを取り出して、ゆきちゃんにメールを送る。数学と英語の呪縛に耐えた私は偉いぞ。ゆきちゃんにも褒めてもらわないと。

しかし、送ったメールが既読にならない。いつもなら2分以内には返信してくるのに。もしかして、帰った、?いや、そんな訳ない。ゆきちゃんが私との約束忘れるなんてするわけない。そうだ。ゆきちゃんのクラス覗いてから下駄箱行こう。

階段を駆け上がる。体力無し子ちゃんにはちょっときついかな??ハァハァ息切れしながら、ドアの隙間からクラスをそっと覗く。


いた。ゆきちゃん!!!!


今から私と海行くんでしょー??とちょっかいをかけようとした時、


「川嶋さん!好きです。僕と付き合ってください!」

熱意のある大きくて太い声。緊迫した空気。

怖いもの見たさでさらに覗く。

坊主だ。野球部か?

でも、大丈夫!!!ゆきちゃんから好きな人がいるとか聞いたことないし、断るだろう。それに私が居るし。


あのね、たまちゃん?そんな根拠の無い期待はすぐに裏切られるのよ。


「いいよ。私、あんまりこういうの経験無いんだけど、高木くんのこと気になってたし。嬉しい…」

いつものゆきちゃんの声じゃない。くらくらする甘い声で答えるもんだから、私は驚いた。高木くんと呼ばれた男は、恥ずかしそうにゆきちゃんの腕に手を伸ばして、割れ物を扱うように抱きしめた。

ありえない。ゆきちゃんが私以外のものになるとか。そんなの私の物語の中には無い。

こんなにもゆきちゃんに対して重い感情を抱いていたことに驚く。ゆきちゃんは私の、私だけの光なのに。

こんなの見ていたくない。走って階段を降りる。途中、足がもつれて転んだ。いつもならゆきちゃんが、なにしてんの〜 危ないでしょと手を差し伸べてくれるのに。今は私の隣にいない。知らない男に抱きしめられてる。気持ち悪い。あの男も、ゆきちゃんも。

おぇ。吐きそうになりながら靴を履き替え、とぼとぼ帰る。1人で帰ったのは初めてだった。ゆきちゃんがいない。わたしだけの…


ゆきちゃんから何回も電話がかかってきていた。うるさいので着拒する。

ベッドにダイブし、あの光景を思い出す。抱きしめられているゆきちゃんはまるで知らない人だった。

気持ち悪。

気持ち悪。

気持ち悪。


今まで真っ白だったはずの私の心の中にどす黒いものが開花した。

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