第14話  women are wonderful effect

翌日、基礎ゼミに来た新谷はさっそく手をうつことにした。職場でも部下の対人トラブルは早めに対処する必要がある。


事実、a子は今日基礎ゼミに来ていないし、必ず早めに席についている梅小路も時間ギリギリに来ることが多くなっている。


 目立たないように、丹波口にラインで連絡を取った。


「ちょっと待ち」


 友達と話しながらスマホをいじっていた丹波口の表情が、とたんに明るくなった。



「なに、あんた」


放課後、新谷はイジメ主犯の一人を基礎ゼミの教室に呼び出していた。


名をc子という。


イジメは当然だが、いじめる方が優位に立っているから可能なのだ。


丹波口に頼んで一人で呼び出してもらったのは、一対一という状況に持ち込んで優位性を封じることにあった。


さすがにブラック企業と社会人を経験した新谷でも、女子数人を一度に相手取って優位を保つ自信はない。


女子は複数だと強気だ。でも一人なら弱い。


女とはこんなものだと言い聞かせながら、新谷は単刀直入に切り出した。


「用件は単純だよ。a子さんや梅小路さんにやってること、やめてくれる? 見てて気分のいいものじゃないんだ」


「はあ?」


自覚はあるのか、c子はとたんにキレる。


「なんであんたなんかに、そんなこと言われないといけないしい」


まあ、ここで素直にうなずくわけはない。


そう言い捨てて教室の扉に手をかけようとするc子の前に、新谷は無言で立ちふさがった。


「どけし」


「……」


「どけ!」


「……」


女性が男性に比してコミュ力が高く見えるのは、「女性だから」という理由でさまざまな面で便宜を図ってもらえるからにすぎないという研究もある。


women are wonderful effectという研究が有名だ。


なので便宜を図ってもらえない相手には弱い。無言で立ちふさがり顔色ひとつ変えない新谷のように。


まして新谷は陽キャのガンをいなしたことで、「あいつヤバいんじゃね?」という噂も基礎ゼミで広まっていた。


一対一で周りに味方はいない。


目の前の相手はヤバい噂のある奴。


男と女で、力でもかないそうにない。


この場でc子は傍若無人に振る舞える立場になく、陽キャの能力が通用しない。


この状況が、c子から怒りを奪い徐々に恐怖を与えていった。


茜色の夕日が、徐々に西の空へと落ちていく。町を囲む山々は陰となって黒々と染められ、電気もつけていない教室内は暗さを増す。


やがて、彼女は明らかにおびえた様子を見せた。


基礎ゼミ内での強気な様子、a子や梅小路の悪口でクラスで大きな顔をしていた様子は見る影もない。


新谷に何か言いたそうに口を開くが、言葉が発せられることはない。


c子は口を開きかけては閉じ、新谷の視線から逃れるようにうつむき、目も合わせなかった、

どう見ても立派な陰キャだ。


抜きゲーで小生意気なヒロインをわからせたときの快感を思い出し、新谷は昏い喜びに浸る。


c子が弱気になったのを確信してから、新谷は口を開いた。


「もちろん、話を聞いてくれるならいいことがあるよ? 丹波口さんにも今、動いてもらってるから」

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