第14話 出発

         第一章

         出発


 「貴方!エルはまだ7歳なのよ!それなのに魔物との戦闘なんて何を考えているのよ!」


 「う、うぅん。そうだよな。俺もそう思う。」


 「なら、なんで!」


 絶賛我が家は修羅場中だ。母に抱きしめられながら俺はその様子を眺めているのだが、父としても俺を連れていくのはやめておきたいという気持ちがあるらしく押されている。


 「母様、私が父様について行きたいと頼み込んだんですよ。だから、あまり父様を責めないであげて下さい。」


 「だってぇ…!」


 「僕は危ないことには極力近づかないようにしますし、父様の邪魔にはならないようにしますから…。

 それに後々父様に何かがあった時を考えたら僕にも経験が多少あった方が良いでしょう。

 そうなった時に初めてでは遅いと思いませんか?」


 母様が確かに…と納得しかけている。

 もうひと押しか二押しくらいかな?


 「大丈夫です!もし危ないことになったら2度と行きませんから!それに父様がいるのですよ!大丈夫です!信じてください!」


 目をウルウルさせながら母のことを見上げる。父はその様子を母の背後から見ており俺の様子にドン引きしているようだ。


 最近父とは気さくに砕けて話し合ったり少し毒を吐いたりする仲であるが母に対しては良い子のままでいる。


 だからこそ父はなんだこいつ…となっているのだろう。


 「もぅ!分かったわよ!でも、絶対に無理しちゃダメだからね?二人とも無事に帰ってくる事が条件なんだから!」


 母がそう言いながら抱き寄せ頬をスリスリしている。そんな母を抱きしめ返すと離してもらう。


 「では、これからお父様のお古の防具を見せてもらってきます!」


 そう母に告げ父と共に屋敷の奥にある倉庫へと向かう。そこにはある程度整頓されて様々な普段使わないものが置いてある。

 その手前の方に武器や防具が置いてあるのだが、父が小さい頃に使っていたという思い出の防具があった。


 「うん、これならお前にも合うだろう。正直言って使い古してるし子供用の防具だからお守りがわりのようなもんだがないよりはマシだろうさ。」


 父はお古の防具をパンパンと叩いて埃を落としながら俺に装着させていく。

 俺はなされるがままに着用していくが、関節部分や所々のきついところが柔らかくなっていてとても使いやすい。


 「これとっても使いやすいですよ!」


 身体を引き伸ばしたりして可動域を確認していく。


 「それはよかった。俺が小さい頃に使っていたものを息子であるエルが使うのは感慨深いなぁ。」


 「よし、じゃあ明日の準備はできましたし早めに寝ましょうか。」


 「おう、そうだな。明日からは頼むぞ。」


 次の日の朝、いつものように起きてランニングをした後父に手伝ってもらいながら防具をつけて準備をした。


 「じゃあ気をつけて行ってくるのよ?これお弁当だからお昼に二人で食べてね。」


 母が手渡してくれたお弁当を受け取ると父が馬を引き連れてきた。


 「よし、森の近くまではこれに乗っていくぞ。エルはまだ馬に乗れないから俺の前に乗ってくれ。」


 父に支えられながら馬の上に乗る。前世も含めて初めて馬に乗った。目線がグッと高くなり見える範囲が大幅に増える。


 「それじゃ出発だ。」


 父が馬を進めるにつれて家を離れていく。母が最後まで見送ってくれていたのでそれに向かって手を振り続けた。


 道の途中で村の人々に会う。いつもは父一人なのに俺が乗っているのを見て、おや?と思いながらも今日も頑張って下さいと皆が声をかけてくれている。

 

 「父様は、村のみんなの様子を見て頑張ろうと思っているのですね。

 僕も今の風景を見てこの村を守っていきたいと思いました…。」


 「そうだな。お前もそれが分かっているならしっかりと俺の後を継いで役目を果たせるだろう。

 だけど、それに縛られなくても良いんだからな!お前はお前の好きなように生きるといいさ。」


 「はい!」


 俺の自由を尊重してくれる家族に感謝しながら森まで父と雑談をして向かった。


 森の前まで着いた。村から少し離れたところに森はあり、道は舗装されていないが普段使っていることもあって野道のように土が露出している。

 

 小屋と馬を繋ぐところだけがポツンと立っていて、そこ以外は全て未整備だ。


 「父様、これは父様が作られた拠点なのですか?」


 「ん?ああ、これは村の男手に手伝って貰ってわざわざ作ったんだ。流石に馬を繋いで置く場所が無いのは不便だからな!」


 父は馬を馬房に繋いでこちらに向かってきた。


 「よし、それじゃあ森の中に入るか!魔物と獣の違いや森での動き方、それに魔物との戦い方を教えてやる。着いてこい!」


 「はい!」


 父の後ろに着いていきながら森の中を散策する。


 「こういった場所では足元が歩きづらい。それに注意しながらも上や左右にも気を配るんだ。

 獣だったら殺気のようなピリピリしたものを感じる。魔物だったらそこに魔力のようなものを感じるはずだ。

 少なくとも、俺はそういう風に感じている。」


 父の言う通りにしてみるが全く分からない。しかし、言われた通りに足元を気にしつつも全方位に注意を怠らないようにする。


 しかし、普段やらないことをやると思った以上に疲れるなぁ。

 


 

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