第112話 分身する猿をボコる



 氷猿を討伐し、我々は先へ進もうとした、そのときだ。


「危ない」


 ぐいっ。


「ぐえええ!」


 古竜のこび根っこをつかむ。


「何すんだおっさ……」


 がきぃん!


「んな!? な、なんだよこの氷の槍ぃ!?」


 古竜が進もうとした先に、氷の槍が突き刺さっていたのだ。

 おや?


「氷猿さん」

「なに!? 氷猿だって!?」


 槍の上に、人間サイズの猿が立っている。

 青白い毛皮のそいつは、氷猿本人だった。


「ちぃい! 避けられたか……! うきぃ!」

「ど、どうなってんだよ!? おっさんの攻撃で、こいつ死んだはずじゃあないのかよぉ!」


 ふむ……。

 なるほど。そういうことか。


「うきき! あの程度でやられるおれっちじゃねえよ!」

「そんな……不死身かよ……」

「うっきー! そうだぁ! おれっちは不死身の氷猿だぁ……!」


 青ざめた表情の古竜。

 得意げな表情の氷猿。


 おやおや。


「嘘はいけませんね、お猿さん」

「な、ど、どういうことだよ……おっさん」


 おやおや。

 古竜は気づいていないようだ。


「言葉通りです。氷猿は嘘をついています。そいつは不死身でもなんでもありません」

「は!? で、でもよぉ……さっきおっさんがこいつを、きっちり仕留めたじゃないかよぉ」


 私達が会話していると、氷猿がツッコんでくる。


「早っ!?」

「遅い」


 突っ込んできた氷猿に対して、私は半身をよじって交わす。

 そして木刀で氷猿の脳天に木刀の一撃を食らわせた。


 ばきぃん!


「ぎゃー! スプラッタ!」


 脳天を砕いたので、スプラッタ、そういいたのだろう。


「死体をよく見なさい、古竜」

「な!? 死体が……粉々に砕けてる!? これは……氷で作った分身!?」


 やっと気づいたようだ。

 脳天を砕かれたはずの死体からは、血しぶきも脳髄も出ていない。


「氷猿はどうやら、分身攻撃ができるようだな」

「で、でも……さっきも今も、完璧に猿をおっさんが倒したじゃないかよ……」


「どうやら雪の中で隠れ潜んでいるようですね。そして、氷で作った分身に戦わせているのでしょう」


 私が周りを見渡す。


「「「「よくぞ見破ったなぁ!」」」」


 雪原から無数の氷猿が顔をのぞかせる。

 視界いっぱいに猿が埋まっていた。


「ほ、ほんとだ! しかもこんなにたくさん……どうすんだよおっさん!」


 古竜が周りを見渡して震えている。

 確かにこの数で袋だたきにされたらひとたまりも無いだろう。


「「「うききき! しかもただの分身じゃあねえぞ! 一体一体にすさまじい量の闘気が込められてるんだ!」」」

「闘気で強化された氷人形ってことか……くそぉお! 終わりだ! 全員に囲まれ袋だたきになって終わりだぁ!」


 氷猿たちが拳を振り上げる。

 このままでは私達は袋だたきになって死ぬ……と思われたそのときだ。


「は……? あ、え? な、なんだこりゃぁあああああああああああ!?」


 古竜が声を張り上げる。


「こ、氷の人形が……全部、おっさんに変わってるぅうう!?」


 先ほどまでいた、氷猿が作った無数の氷人形。

 そのすべてが、私に変わっていたのだ。


「「なんだこりゃぁああああああああああああああああ!?」」


 おや、おや。

 古竜が敵と同じリアクションをとっていますね。


「どうなってんだよおっさん!?」

「簡単ですよ。闘気の主導権を奪っただけです」


「闘気の主導権!?」

「ええ。氷猿はあくまで、闘気オーラの氷で作った人形を、操っていただけ」


 確かに闘気オーラであれだけの精密な人形を(分身を)具現化してみせたのはすごい。

 が。


「それを操る能力が、実にお粗末でした」

「え、え、わ、わけわかんないんだけど……」


「ようは、氷人形を作る力は優れてても、それを操る力は全然駄目ってことです」


 なので、私が闘気オーラで人形操作の主導権をうばい、動かしたというわけだ。


闘気オーラには人形を動かす力があるんだな……」

「人形というか、物体を操作する能力ですね。闘気オーラはただ強化する、性質を変化させるだけでなく、こうして具現化、操作することもできるんです」


「マジなんでもできるんだな……」

「いえ、何でも波無理ですよ。できることだけです」


 さて、と。


「この場の人形はすべて私が支配しました」

「んじゃ……残っているあいつが……」

「ええ、本体ですね」


 氷猿がガタガタとふるえている。


「」多分凍り人形を作るのに、全部の闘気オーラを使ってしまったのでしょう」


「つーことはよぉ!」


 古竜は一転して、満面の笑みを浮かべる。


「今のあいつはよぉお! 無防備ってことだよなぁ!」


 古竜が意気揚々と氷猿に近づいていく。

 

「ひぃいい! すみません! 許して!」

「ああぁん? 許してだぁ? 許してくださいだろうがよぉお!」

「ひいぃいいいいいいい!」


 ……あとは古竜に任せても良いでしょう。

 やれやれ。


 自分が優位に立ったと思った瞬間調子に乗るんだから。

 精神的にまだまだ未熟ですね、彼女は。

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