第106話 睨んだだけで氷を破るおっさん



《アレクSide》


 氷鬼の眷属、氷鷲を撃破した、私。


「やっぱおっさんつえーわ! あんな強敵を倒しちまうんだからよぉ!」


 おや、おや。


「何を言ってるのですか……。あんなの、全然強くないですよ」

「ふぁ!? いや強いから! だって、古竜おれを圧倒していたんだぜ?」


 おや?

 古竜を圧倒していた……?


「だから?」

「はぁ!?」


「古竜を圧倒していたからなんだというのです? そんなことが誇れるとでも?」

「そんなことだとぉおおおおおおおおおおおお!?」


 古竜(人間の姿)は素っ頓狂な声を上げる。

「あのよぉおっさん! おれ、強いの!」

「いえ、弱いです。私の弟子たちのなかで、ダントツで弱いです」


「そりゃおっさんも含めて、弟子が全員バケモノだからだろ! おれだってほんとは凄いの! ちょーつよいんだからよぉ!」


 超強い……ね。


「あまり強い言葉を言わない方が良いですよ。より、弱く見えてしまいます」

「むっきぃーーーーーーーーーー! ゆるせねえ! ぶっ飛ばしてやる!」


「できるものなら、やってみなさい。しかしまずは、その氷をなんとかしないとですね」


 この不肖の弟子は、氷鷲の攻撃を受けて、首以外氷付けになっている状態だ。


「自分が強いというのなら、その氷をまずは割ってみることです」

「ふぎ! ふんぎぃいいいいいいいい! ちっくしょぉお! かってぇ! なんなんだよこれぇ……!」


「硬くて当然です。その氷には闘気が込められてますので」

「また闘気かよ! ちくしょう……闘気で氷が強化されてるのか。だからやたらと硬いのか……ぐぬ! ぐぬぬぬぬぬぬ!」


 古竜が力を入れて氷の破壊を試みている。

 しかし、全く割れる様子がない。


 やれやれ。


「修行不足ですね」

「んぎー! ふぎー! どうなってんだよ! おれは古竜だぞ? しかもおっさんの闘気で強化されてるはずなのにっ!」


おーらを持っているだけでは、強いとは言えません。強さは磨かないと」

「つってもよぉ。これめっちゃ硬いんだって。体に力を入れても全然割れない……」


「この程度、体に力を入れなくても壊せますよ」

「は? どうやって……」


 私は視線に闘気を集める。


「喝……!」


 パキィイイイイイイイイイイイイン!


「ほげええええええ! にらんだだけで氷が割れたぁあああああああああ!?」


 氷の牢獄から古竜が脱出する。


「どうやったんだよ!?」

「覇闘気ですよ」


「ああ、殺気に闘気を込めるってあれ……?」

「ええ」


「いやそれやっぱおかしくね!? それって相手を気絶させる技じゃん!? 物理的に氷を砕くのっておかしくない!? ねえ!?」


 やれやれ。


「やる前からできないだのおかしいだのと、いけませんね」


 私は右手を彼女に向ける。

 ガキンッ!


「ふぁ!? ま、またおれの体が氷付けに!」

「氷鷲と同じほうほうで、あなたの体を拘束しました。しばらく訓練していなさい」


「ええええ!? 無理! 凍え死ぬ!」

「大丈夫ですよ」


「ああ、凍え死ぬ前に助けてくれるのか。さすがに……」

「闘気を吹き込めばすぐに生き返りますので」

「鬼! 悪魔!」


 おや、おや。


「何を言ってるのですか。私は人間ですよ」

「ただの人間がにらんだだけで氷を砕けるかぁああああああああああああああああああああああああ!」

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