第104話 氷鷲、おびえる



《氷鬼の眷属Side》


 ……氷鷲は戦慄していた。

 たった今現れたおっさんから、ただならぬ気配を感じ取っていたのだ。


(どうなってる……!? あのおっさんからは、闘気オーラを一切感じない!)


 氷鬼、およびその眷属たちは、全員が闘気使いだ。

 だからこそわかる。


(生きてる人間で、闘気がゼロなんてことは……ありえない! どうなっているのだ!?)


 闘気使いでなくとも、生きてるだけで、微弱な闘気を発するものだ。

 だが、このおっさんからは……闘気がゼロ。

(なんだ……なんなのだ……!?)


「へいへい氷鷲さんよぉ! うちのおっさんにびびってのかーい? ああーん?」


 先ほどの美女(※古竜人間姿)がこちらを見てあおってきている。

 だが、そんなの全く気にならなかった。


 ……そう。

 美女の手足が元通りになっているのだ。


(いつのまに治癒を!? 魔法……!? いや、まさか白色闘気!? ば、バカな!? やつが闘気を使ったそぶりすら見せなかったぞ!?)


 だが人体の四肢を復活させるなんてはなれわざは、治癒術では不可能。

 ならば白色闘気での治癒が最も可能性が高い。


 いったい誰が?

 ……おっさん以外にいない。


(わからん……! 何が起きてるのかわからない……が! こいつは……まともに戦ってはいけない相手だ!)


 バッ……! と氷鷲は翼を広げ、遙か上空へと飛ぶ。


「はーっはっは! 尻尾巻いて逃げやがったぜぇ! 負け犬がよぉ!」


 ……今はあんなの(※古竜)どうでもいい。

 今は、あのおっさんをどうにかしなければ。

(ここでやつを仕留めねば! われが……氷鬼様に殺される! どのみち殺されるのだ……! やってやる!)


 ばっ……! と氷鷲が翼を広げる。


「くらえ! アイス・ダーツ!」


 氷の羽を眼下のおっさんめがけて放つ。

 無数の羽が上空から、高速で放たれる。


 ズダダダダダダダダダッ……!


「やったか……!?」

「おや、おや。どこを狙っているんですか?」


「なにぃいいいいいいい!?」


 ……地面には無数の羽が突き刺さっている。

 だが、あのおっさんには一本たりとも、羽が刺さっていないのだ。


「ば、バカな……!? あの数の羽をどうやって裁いた!?」

「裁いた? 何を言ってるのですか。私は何もしてないですよ?」


 おっさんが済ました顔で言う。


「ふざけるな! 死ねぇえええええええ!」


 今度は先ほどよりも大量の羽を放つ。

 この技は使えば使うほど、羽を消費してしまう。


 だがここで確実に倒すには、出し惜しみしなんてしてられない。


 ズダダダダダダダダッ……!


 放たれた羽。

 だが、その羽はすべて、おっさんを避けていた。


「どぉおなってるんだよぉおおお!?」


 おっさんは宣言通り、その場から一本も動いていない。

 闘気を使ってるそぶりも見せない。


 腰の剣も、抜いてる様子もない。


「どうやって避けてるんだよ!?」

「避けてませんよ。あなたが……外してるのです?」


「なんだと!?」

「私は、あなたの羽をすべて見切っております。今の攻撃の1本1本……すべてね。だからこそわかります。あなたが狙いを、自分から外してるってね」


 ……そんなばかな。

 この数の羽を、すべて?


 しかも上空から狙っているのに……!?


「あなた、私に怯えていますね。おびえが攻撃に繋がって、狙いが正確じゃなくなってます」

 

 氷鷲は図星をつかれ、冷や汗をかく。

 こちらの狙い、そして攻撃、そのすべてを……おっさんは見透かしていたというのか。


「ははは! どうだ! おっさんはすげえだろ!」

「……古竜。あなた、攻撃当たってますよ」


 古竜とよばれた女の脳天、そして体中には、羽が突き刺さっていた。

 古竜は体が凍りづけにされ、頭だけが自由になっている状態である。


 そう、普通なら手元が狂っても、こうして攻撃が当たるはずなのだ。

 ……攻撃を見切った、あのおっさんが異常なのだ。



 

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