第94話 事件は解決してた



 私達は沈没船を地上へと引き上げた。

 その後、私とガンコジーさんは古竜の背中の上に乗っていた。


「【空間切り】」


 私はファルシオンを古い、空間の裂け目を作る。


 ごおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 空間の裂け目の中に、沈没船が吸い込まれていった。


「とりあえず、空間の中に沈没船を収納しました。あとで持ち主を探し出し、返してあげましょう」

『ん? つーか、空間切りで船を収納するんだったら、海底でやっときゃよかったんじゃね? わざわざ海上に引き出す必要あったん?』


「空間を着るためには最高速度で剣を振る必要があります」

『あ、そっか。水のなかだと、水の抵抗で振るのがおくれちまうんだな』


「ええ、なので一度引き上げる必要があったんですよ」


 さて。

 寄り道してしまいましたが、カイ・パゴスへと向かいますか。


 と、思っていたそのときだ。


「ふむ……船が近づいてきますね」

『船ぇ……? どこにいるんだよ』


「ほら、あそこ」


 私が指さす先を、古竜が見つめる。


『あ、ほんとだ。あんな離れたところの船なんて、よく気づいたな』

闘気オーラを探知すれば、遠く離れた人の位置を把握できるようになりますよ」


『またでた……闘気オーラ万能説……』

「だから、万能ではありませんよ。闘気オーラでなんでもできるなんて、甘い考えを保っていたら、足をすくわれてします」


古竜もまた舎弟、身内となったのだ。

 調子に乗って怪我とかしてほしくない。だから、私は闘気オーラは万能ではないと注意をしておいた。


『いや今んとこ闘気オーラでどうにもならなかったことなくね……?』

「そんなことないです。それより、古竜さん。船に近づいてください」


『アン? どうしてだよ』

「なにやら船乗りさんたちが、怯えている様子なので。ひょっとしたら何か敵に遭遇してるのかもしれません」


『だから助けるって? っかー、お人よしだなぁ、おっさん』

「力を持つものの義務です。ほら、いってください」

『へいへい』


 古竜が強く羽ばたくと、一瞬で船の上まで移動した。

 さすが古竜。


「ほげえええ!」「古竜だぁ……!」「おしまいだぁあ……!」


 おや?

 船乗りさんたちが私……というか古竜さんを見て顔を真っ青にしてるぞ。


 おやおや?

 もしかして……古竜さんに怯えているのか?


「こんなに弱いのに……」

『古竜は強いんだっつーの!』


 まあ、何はともあれ、私は甲板に降り立つ。 古竜を含め、我々には敵意がないことを示しておかねば。


 彼らを無意味に怯えさせるわけにはいかない。


「ご安心ください。私はネログーマ副王、アレクサンダー・ネログーマです。この船に害を加えるつもりはありません」


 すると船長らしき、帽子をかぶった男が近づいてきた。


「ネログーマの副王……? ほんとかい?」

「はい。その証拠に、こちらを」


 私は胸元につけている、ワッペンを見せる。

 そこにはネログーマ王家の紋章が刻まれている。


「ほんものだ……ってことは、あんた……いや、あなた様はネログーマの副王さまってことか! これはとんだご無礼を!」

「いえ、こちらこそ、怯えさせてしまい申しわけありません」


 ややあって。

 我々はお互いの事情を話した。


 どうやら船長さんは、いきなり海底から船が飛び出てきて、びっくりしたそうだ。

 そして様子を見に近づいたところ、古竜が海上に出現し、恐怖し動けなくなった……ということらしかった。


「しかし副王様よ。こんなとこにいたら危ないですぜ」

「といいますと?」


「ここはバミューダ三角海域っつてよ。船がここに一度迷い込んだら、二度と陸に帰って来れないって魔境なんだぜ」


 バミューダ三角海域……?

 魔境……?


「そうだったのですね。そんな危険地帯に、来させてしまって、申し訳ない」


 私達が大騒ぎしたせいで、危ない場所に、船長達を連れてきてしまったようだ。


 しかし、ふむ。そんな危険地帯を、ほっとくわけにはいかないな。


「よろしければ、もう少し詳しい話をお聞かせ願えませんか?」

「いいけどよぉ……どうするつもりだい?」


「この海域が抱える問題を解決したく存じます」


 ぽかーん……と船長を含め、船乗り全員が口を開く。


「あ、いや……。そりゃむりだぜ副王さま。この海域には、恐るべきモンスターがいるんだ」

「恐るべきモンスター……」


 なるほど、そいつがいるせいで、ここが魔境と呼ばれるようになっているのか。


「教えてください、そのモンスター、私が退治してみましょう」


 船長は少しためらうも、こくんとうなずく。


「……古竜を従えるくらい強いあんたなら、倒せるかもな」

「はい。それで、どんなモンスターなのですか?」


 と、そこへ……。


『兄さん! 姐さん! 待ってほしいのである』


 ざばぁ! と海王さんが海面から顔をのぞかせたのだ。


「おや、どうしたのですか? 海王さん」

「「「!?」」」


 船乗りたちが驚愕の表情を浮かべる。

 おや、おや、どうしたのでしょう。


『置いてくなんて酷いのである。我も連れてって欲しいのであるっ』

「そうでしたね……って、どうしました、皆さん?」


 船乗りたちを代表して、船長さんが言う。


「あ、あの……ふ、副王さま。そ、そいつで……す」

「はい? 何がですか?」


「バミューダ三角海域に住む主。恐るべきモンスター、海王です!」


 ……。

 …………おやおや。


 なんということだ。


「あの、すみません、討伐はできません」

「え、あ、ど、どうして……?」

「海王は私の舎弟……仲間となったのです」

「なにぃいいいいいいいいいい!?」


 船長さんを含め、全員が驚いていた。

 

「し、しんじらんねえ!」

「海王っていや、とんでもない獰猛なバケモノっていうじゃねえか!」

「それを従えたっていうのか、あのおっさん!?」

「嫌でも普通にしゃべっていたし……まじでテイムしたんじゃねえの……?」


 じっ、と全員が私を見て言う。


「「「す、すげえ……」」」


 こうして、魔境とされていた海域を、私は潰すことに成功したのだった。(事後)

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