第81話 古竜を美女にする



 古竜が仲間になった。

 

「では、従魔契約を結びましょう」

『はぁ……従魔ですか』


 古竜が地に伏せ、私に視線を合わせながら言う。


「ええ。暴れられても困りますので」


 知性があっても魔物は魔物。いつ人に牙をむくかわからない。

 それゆえ、従魔契約を結び、人々の安全の保証する必要があるのだ。


 ミスリル・ドラゴンのリルちゃんのときと同様に。


『暴れないですよ……恐ろしいバケモノが近くに居るのに……』

「おや、あなたの他にもバケモノがいるんですか? 退治しないと」


『あんた以外いないでしょ!?』


 私は人間なのだが、古竜からすれば、バケモノってことか……。


「人間の副王様を、古竜がバケモノ呼びしてるのって、冷静に考えてとんでもねーことっすよね」

「すごいです、さすが副王様っ!」


 ……しかし改めてだが、私は人間カウントされないのだな。古竜をびびらせているということは、獣人である彼らもまた、怯えさせてしまってると言うこと。


「どうしたの、副王様?」

「トイプちゃん。私が君たちを、怖がらせてないですか?」


 トイプちゃんはきょとんとしたあと、ケタケタと笑う。


「副王様のジョーク、面白いですねっ!」

「じょ、ジョーク……?」

「だぁって、副王様はあたしたちの守り神ですよ? 怖がるわけないじゃないですかー! ねー!」


 そうそう、と兵士たちがうなずく。

 彼らの闘気オーラの色から、嘘を言っていないことがわかった。


 本当に素直で良い子たちだ。獣人たちは。だからこそ……私はこの国が好きだし、この国の人たちを守ろうって思う。


『兵士どももあんたほどじゃないけど、バケモノだから。怖がってないんじゃ……?』

「なにか?」


『うぎぃい! なんでもないんで闘気オーラをおさめてくだせぇええええええええええええ!』


 おっと、怒りが闘気オーラに出てしまったようだ。

 いけない、いけない。


「では……これから従魔契約を結びましょう。エルザ」


 エルザが古竜の体の周りに、魔法陣を描く。

 風の魔法を使うことで、巨大魔法陣を圧倒いう間に書き上げた。


「じゃ、あとはキスをして魔力を流すだけね」


 そうだった。契約にはキスが必要だったのだ。

 私は古竜に近づいて、ぴたり、と触れる。


 ……ふむ。


「エルザ。このままでは古竜の体が爆発してしまいます」

『「はぁ!?」』


 古竜も、そしてエルザもまた驚いていた。


「ど、どういうことっすか……?」


 ワンタ君が首をかしげる。


「どうやらこの古竜、魔力のキャパが少ないみたいですよ」

「そ、そんなことわかるの……? アル……?」


「ええ。闘気オーラを目に集中させることで、体内に流れる【力】を見ることができます」


 闘気オーラで目を強化することで、体内の闘気オーラ、そして魔力量。それらを見ることができる。


闘気オーラってまじなんでもできるんすね! すげえっす!」


 私はエルザたちに説明する。


「体内に入れる魔力の量を調べたところ、ミスリル・ドラゴンのリルちゃんよりも少ないことが判明しました。このままでは古竜の体が耐えきれず破裂するかと」

『こわ!!!!!!!!!!!』


 エルザが鑑定スキルを使う。そして、なるほどとうなずく。


「アルの言う通りね……。しかし、鑑定スキルがないとわからないようなことまで、わかっちゃうのね」

闘気オーラがあればなんでもできるっすから!」「闘気オーラがあればね!」


 んふー! とワンタくんたちが得意げに胸を張る。

 おや、おや。


「駄目ですよ、慢心は。闘気オーラだって万能じゃないんですから」

『いや、今おれが見てる限り、闘気オーラでできないことなくないか……? 死者蘇生するし、回復するし……』


 とツッコむ古竜。

 そんなことはない。

 と、思う。


「じゃあ、どうするのアル? 殺すのこいつ?」

「そんなことはしませんよ。古竜は我らの仲間になったのですから」


 しかし、ふむ。どうしよう。

 いや、待てよ。体が破裂してしまうのは、体が弱いから。ならば……。


「よし、キスをしましょう」

『うぇえ……死にたくないんですけど……』


「大丈夫」

『死なないにしてくれるんですか……?』


「死んでも闘気オーラで生き返らせますので」

『やっぱバケモノだよこいつぅう!』


 私は古竜の唇に(デカいな……)、口づけをする。

 そして、一気に闘気オーラを流し込む。

 勇者達を強化させたのと同じだ。

 闘気オーラを中に直接流すことで、体を強化させる。


 そうすれば、魔力がたくさん入っても、体が破裂しない。


 結果……。

 かっ……! と古竜の体が輝く。


 みるみるうちに、古竜の体が縮んでいく。

 やがて、そこには裸身の、長居灰色の髪をした美女が立っていた。


 角と尻尾が生えている。


「人になったっす!?」

「これは、火竜人ね。おそらく進化したのでしょう」


 エルザが説明してくれる。そういえば、魔力をたくさん流すと、魔物は存在進化するのだったな。

 リルちゃんのときもそうだった。


「古竜を進化させるだけの魔力量もちって……あんた……やっぱ人間じゃねえよ……」


 古竜……否、古竜ちゃんはそうつぶやくのだった。

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