第68話 鍛治師の悩みも1発解決



 ある日、王都にて。

 私はバーマンとともに、とある場所へと向かっていた。


「先生、どこいくんだい?」


 私の隣にべったりくっついてる状態のまま、バーマンが言う。

 道ゆく人たちが私達を見ても、特に驚くことはない。


 彼女と二人きりのときは、こうして向こうからくっついてくるのだ。街の人たちもこの光景に見慣れてる感じがある。


「ガンコジーさんのところですよ」

「ああ、あの鍛治師のドワーフじいさんか。何しに?」


「ガンコジーさんがどうやら、何か悩んでいるそうでして」


 アビシニアン女王陛下は、ガンコジーさんのために、鍛冶のための建物と道具をそろえてくださった。

 ガンコジーさんはそこにこもって、武器制作をしてる。


 が。


「彼のお手伝いさんたちから、報告を受けましてね。何か行き詰まってると」

「ふーん……ま、でも大丈夫だね! 先生が悩みを聞いてやるんだからさ!」

「どうでしょう。私は剣士ですから。鍛冶のことについてはさっぱりですし」


 とはいえ、副王として、国民となったガンコジーさんの悩みは放っておけない。


「先生のそういう、責任感の強いところ……♡ 素敵だぜ……♡ すき……♡」


 今は私、絶気状態なのだが、バーマンが発情していた……。


 ややあって。

 私達はガンコジーさんの作業場へとやってきた。


 レンガ造りの立派な作業場だ。

 こんな立派なモノをすぐ用意してくださった。アビシニアン陛下は、ちゃんとガンコジーさんの価値を理解してるようである。


「ガンコジーさん、おじゃましますよ」

「おお……副王……」


 げっそりした表情のガンコジーさんが、私達を出迎えてくれた。

 闘気の色も濁っている。これはかなり精神的に参ってるようだ。


 私は彼の体に触れる。


「何か、辛いことでもあったんですね? 相談に乗りますよ」

「……ありがとうですじゃ、副王よ」


 私たちは炉の前へとやってきた。

 そこには……。


「おー! すげ、めっちゃすげー! これ、魔銀ミスリルの剣だろ!?」


 バーマンが手にしているのは、青銀の見事な片手剣。

 一目見て、相当凄い剣だというのがわかった。


 天才の作った創造物には、強い闘気オーラが込められてる。

 この魔銀ミスリルの剣には、強い闘気が感じられた。


 闘気操作の苦手なバーマンでさえも、この剣の持つすごみを、直感的に理解してるようである。


「こんなすげえ剣が作れるのによぉ、何を悩んでるんだい、ガンコジーさんよ?」

「……まあ、見ておくれ」


 そういって、ガンコジーさんが、部屋の片隅に立っていたお手伝い獣人さんに目配せさせる。


 獣人さんは魔銀のインゴットを手に取っていた。

 そこに闘気を流し込んだモノを、ガンコジーさんに手渡す。


 ガンコジーさんはインゴットを作業台の上にのせて、ハンマーでたたく。


 カン! カン! カン! カン! カン! カン! 


 ぱきぃん!


「あ、折れた」

「……これじゃよ、問題は」


「問題……?」

「10本作って1本しか、魔銀の剣を作れないのじゃ」


 ふむ……。

 成功率10%……。


「それでもすげーんじゃねーの?」

「いいや、全然凄くない。わしのしる最高の職人は、10本中9本の成功率を誇っていた。彼と比べたら……わしなんて……くっ……!」


 つまり、だ。

 ガンコジーさんは、自分の、魔銀の加工技術が劣ってることを嘆いていると。


 ふーむ……。

 解決策を考える前に、一つ聞いておきたいことがある。


「素人質問で恐縮なのですが、どうして、ガンコジーさんは闘気をお使いにならないのですか?」


 先ほど、ガンコジーさんは他人に、魔銀のインゴットに闘気を吹き込ませていた。


「自分でやればよいのでは?」

「いや……副王よ。わしは鍛治師じゃ。武人ではない。闘気を扱えぬのじゃよ」


 あ、そういえばそうだった。


「では、闘気を使えるようにしてあげますよ」

「は? そ、そんなことが……可能なのですかいの?」


「ええ。簡単ですよ。ちょっと闘気を体に流すだけです」


 まあ、人を傷つけずに、闘気を流すこの技術、とても難易度が高いようですが。

 私は呼吸をするよりもたやすくできる。


「お、お願いしますじゃ!」

「はい、では……」


 私はガンコジーさんの肩に触れて、白色闘気を流す。

 瞬間……。


 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!


「うぉお! すげ……なんつーまばゆい闘気の輝き!」


 バーマンがガンコジーさんの闘気を見て驚いてる。

 確かに、強い輝きを放っていた。


「いける……これなら……!」


 ガンコジーさんは魔銀のインゴットを手に取って、闘気を流し込む。

 だが、私は見た。


 彼の体から、少量……そう、本当にごく少量の闘気が、魔銀のインゴットの中に流れていったのだ。


「これじゃ! 自分で闘気の量を流し込める……! これなら……!」


 ガンコジーさんはハンマーをインゴットめがけて振り下ろす。


 かーーーーーーーん!


 ただの、一振り。そう、ただハンマーを一振りしただけで、そこには1本の美しい剣ができあがっていたのだ。


「これじゃぁ!」


 かーん!

 かーん!

 かーん!


 ガンコジーさんは連続して魔銀の剣を作り上げていた。


「うぉ、すげえじゃん! 10ぱーだった成功確率が、100ぱーになってら!」

「副王がわしに闘気を流してくれたおかげじゃあ!」


 おや……私のおかげ?


「いえ、作ったのはあなたじゃないですか」

「いや、いや。こうして自分で闘気を流し込めるようにならなかったら、成功率はあがらなかった!」


 なるほど……。確かに、さっきまでインゴットに闘気を流していた獣人は、お手伝いであって、鍛治師じゃない。

 だから、このインゴットにどれくらいのエネルギーを流せば良いのか、正しく理解していなかったというわけか。


「やっぱすげえや! 先生は! ほんとすげえ!」

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