第30話 剣聖、大精霊を救う



 聖域にて、巨大化した大精霊と相対してる。


 大精霊はカメマンのせいで無理矢理巨大化させられていた。

 その闘気オーラは激しくゆらぎ、そして真っ黒に染まっていた。


 苦しんでいるのが、一目見ただけでわかる。

 だから……私は笑った。


「大丈夫。すぐ、片を付けて、楽にしてあげますよ」

「な、なにをこしゃくな! ゆけぇい! 殺せぇええい!」


 カメマンが命じると、巨人(大精霊)が私めがけて拳を振り下ろす。

 だが攻撃は私の真横を通り過ぎる。


「な、何をやってる! ちゃんと狙えぇ……!」


 再び巨人が拳を放ってきた。

 だが、拳はやはり私を避けていく。


「く、くそおぉ! 連打だぁ!」


 ドドドドドドドドッ……!

 私はその場から一歩も動かない。

 攻撃が一切、当たらない。


「どうなってるのだぁああああああああああ!?」


 剣士でもないカメマンからは、何をしてるのかわからないだろう。

 一方、バーマンはわかっているようだ。


「久しぶりに見るけど、すごいぜ、先生の【衝気円】」

「それって……闘気オーラを広げて、敵の居場所を感知する技じゃないんすか?」


「そうだ。が、それ以外の使い方もできる。見てな」


 私の周りには闘気オーラの球が全方向に展開されている。

 球面に敵の拳が入った瞬間、私は反応し、剣で受け流しパリィする。


「先生衝気円は極めると、あんな感じで敵の攻撃を感知→素早く反撃、みたいにできるんだよ」


 敵の位置をつかむ技術を応用し、敵の攻撃の位置を把握。

 そこめがけて、全力でガードなり受け流しパリィなりする。


「これぞ、極光剣、防御の型【衝気円・制空】。どんな攻撃も、先生には当たらない!」

「衝気円・制空! す、すげええ!」


 私は敵の攻撃をすべて受け流す。

 

「くそぉおおお! だ、だが相手は所詮人間! 連続して攻撃していれば必ず疲れが出てくるはず……!」

「まあそうですね。ただ……」


 ぼっ……!


「腕、もうないみたいですよ」

「なにぃい!? 巨人の腕が消えてるだとぉお!?」


 両腕と片足を失った巨人が、その場に膝をつく。


「ブラックウーズは摘出させてもらいましたよ。巨人の攻撃を、ただ受け流しパリィしてるだけだと思ったのですか?」

「あ、あ、あえりえん! あの巨体から来る連続攻撃をさばくだけでなく、ブラックウーズだけを見極め、摘出するなんて! 神業としか思えん!」


「こんなの、剣の修行を積んだものなら、誰でもできますよ」

「できてたまるかぁぁああああああああ!」

「それは、単に修行が足りてないだけでは?」

「こけにしよって! ちくしょう! こうなったら……次の攻撃だ!」


 巨人の口に水がたまっていく。

 ばち、ばち……と口の周りに稲妻が発生。


「放て! 水神雷豪砲ぉ!」


 巨人の口から水流が放たれる。

 しかも、かなりの早さだ。

 私は勘で受け流すのではなく、回避を選択する。


 ビゴオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 放たれた水のレーザーは大地を裂き、森の木々をなぎ払う。

 レーザーが通った後から爆発を起こした。


「す、すげええ威力っす! こんなのあたったら、いくら剣神さまでも死んじゃうっす!」

「いや、大丈夫さワンタ。先生は……強い」


 私は剣を構える。

 

「来なさい」

「もう一度うてぇえええええええええええええい!」


 またも、巨人が口から水を放ってきた。

 だが私の目には敵の攻撃が見えている。


 今度は避けない。


全反射フルカウンター


 私の張った衝気円の中に、敵の攻撃が入ってきた瞬間……。

 私は剣を振るった。


 パリィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


「んな!? こ、攻撃をはじ……」


 はじき返した、とでもいいたかったのだろう。

 だが敵のブレスは二倍の速さで反射される。


 それは巨人の喉仏を貫き、その置くに居たカメマンの土手っ腹に大穴を開けた。


「うげぇああああああああ! 痛いいぃいいいい! いたいいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 今の一撃を見た兵士達が、唖然とした表情を浮かべる。


「な、なんすか今の……?」

「あれは【衝気円・全反射フルカウンター】だ」


「衝気円・全反射フルカウンター!? なんすかそれ!?」

「衝気円の内部に入った技を、相手に向かってはじき返す技だよ。しかも、速度、威力を二倍にしてね!」


「はぁ!? す、すげええ! なんすかそれ! 無敵じゃないっすか!」


 無敵というわけではないのだが。


「先生の強さは攻撃力だけにあらず、その圧倒的な防御力にもあるんだ。後ろに守るべきものがいる時の先生は……倍強い!」


 自分の身を守るだけなら、受け流しパリィ全反射フルカウンターも使わない。

 回避して倒せばいいだけなので。


 今は後ろにバーマンたちがいる。

 彼らを守るために、衝気円を使ってるのだ。


「う……ぐ……」


 巨人(大精霊)が苦しんでいる。

 カメマンがダメージを受けたことで、やつの支配が溶けかけているのだろう。


「い……たい……くる……しぃ……たす……け……て……」


 大精霊の苦しそうな声。

 私は微笑んで言う。


「大丈夫。痛くないですよ」


 敵の動きが鈍くなっている、今が好機。

 私は腰を落とし構えを取る。


「極光剣。【青黄の型】」


 刃にまず黄色の闘気オーラ……月の闘気。

 そして水の闘気オーラ……青色闘気がまとわりつく。


「【邪祓いの慈雨】」


 私がサッ、と木刀を振る。

 ザアアッ……! と闘気を纏った水しぶきが、まるで雨のごとく巨人の全身に降り注ぐ。

 

 水しぶきを受けた巨人の体から、黒い煙が発生する。

 みるみるうちに巨人の体がしぼんでいく。


 やがて巨人は人間サイズにまで縮み、上空から落下。

 そのときにはすでに、落下地点に私が移動し終えた後。


 落ちてきたその人を、私は優しく抱き留める。


「大丈夫ですか?」

『は、はい……♡』


 大精霊さんは……女性だった。

 水でできた美しい裸身に、長い髪をしてる。

 なぜだか頬を染めていた。


「げほっ……ごほっ……ば、ばかなぁ……どうなってる? 全身に巣くっていたブラックウーズが、一瞬ですべて取り払われただとぉお……げほげほ! 脳の神経にも根を張っていたのだ! 無理矢理剥がすと激痛で死ぬはずなのにぃ!」


 私は瀕死のカメマンに言う。


「邪祓いの慈雨は、闘気オーラで作った水に、退魔の闘気オーラを乗せて放つ奥義です。相手に痛みを一切感じさせず、邪だけを払います」


「そ、そんな神業が……存在する……だと……?」

「神業? いいえ、これは単なる剣技ですよ」


 私は大精霊さんをその場におろし、そして、カメマンのそばまでやってくる。


「ま、待ってくれ! わ、わしは【あの御か】」

「散りなさい」


 ばしゅっ! と私は木刀を振る。

 闘気を込めた一撃は、カメマンの体を一撃で粉々にした。


 ふぅ……。


「す、す、すげええ! 剣神さますごいっすよおお!」

「剣神さまかっこいー!」


 若い二人から褒められて、少し照れくささを覚える。

 一方、大精霊さんの元に、中級精霊ちゃんが抱きつく。


「大精霊様ぁ! なおってよかったよぉ!」

「貴方にはご迷惑をおかけしましたね。ごめんなさい……」

「ううん! 良いの! 大精霊さまが元気になったからぁ!」


 精霊二人が私の前までやってきて、深々と頭を下げてきた。


「ありがとう、強き、人間の剣士さま」

「おじさん、大精霊様なおしてくれて、ありがとぉ!」


 私は剣を納めながら、笑う。

 良かった。みんなが笑顔になってくれて。

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