第28話 弟子にレッスンをつける



 私達は聖域へと向かう。


「もうすぐ付くっすよ!」


 ネログーマ国民であるワンタくんは聖域の場所を知ってるらしく、彼に道案内をしてもらっている。

 が。


「おにいちゃん……もうすぐもうすぐって……もう1時間もたつよ……?」


 森の中をさまよい歩き続けても、目的地に全く到着しないのだ。


「お、おかしいっすねえ……もうとっくに付いててもおかしくない頃合いなのに……」

「道間違えたんじゃねーの?」


 バーマンの指摘に対して、ワンタくんは首を横に振る。


「いや、あってるはずっす。タヌコちゃんのいた村から、聖域までは、この街道がずっと続いてるはずですし……」

「うーん……どうなってんだい……さっぱりわからないよ。困ったな……」


 私はふと、もしかしてと思って目を閉じる。

 そして……私は気づいた。


「皆さん、落ち着いて聞いてください。幻術がこの森にかけられてるようです」

「「「げ、幻術!?」」」


 この様子では皆も気づいてないようだ。

 

「ど、どういうことっすか!?」

「見ててください」


 私は街道近くにあった木の幹に対して、木刀をふる。

 スカッ。


「ぼ、木刀がすり抜けたっす!? それなのに、木も無事……!?」

「森の木々が言述できそうされてたってことですかい、先生?」


 バーマンの言葉に私はうなずく。


「ええ。おそらくカメマンの仕業でしょう。我々が聖域にこれないように、幻術で森の木々や、街道を偽装したのです」

「だからいつまでもたどり着けなかったんすね! それに気づくなんて、さすが剣神さまっす!」


 しかし、ふーむ……。

 私は聖域への道を知らない。ワンタくんたちは幻術を見破れない。

 ならば、こうするか。


「ワンタ君、トイプちゃん。一つレッスンのお時間です」

「「レッスン……?」」

「はい。君たちには闘気オーラを感知する術を覚えてもらいます」


 バーマンが手を上げる。


「先生。なんで闘気オーラの感知なんて覚えさせるんです?」

「森の木には闘気オーラが出ています。一方、幻術で作った偽物からは、闘気オーラが出ていません」

「! そ、そっか! ワンタたち、聖域に続く道を知ってるやつらが、偽の木とそうじゃないやつを見分けられるようになれば! 本来の道を進めるってことですね!」

「そういうことです」


 それに闘気オーラ感知はセンスがよければ、すぐに覚えられるようになる(バーマンみたいに苦手な子もいるが)。

 この子らは素直なので、やり方を教えればすぐ覚えられる気がした。


「では、二人とも目を閉じて」


 ワンタくんとトイプちゃんが言われたとおりにする。

 ……そしてバーマンがなぜか、頬を赤らめながら目を閉じていた。なにをやってるのでしょうか……?


「体の中にある闘気オーラを感じ取り、それを全身から衝気としてアウトプットするんです。ただし、勢いを付けず、ゆっくり……」


 二人の体から出ている闘気オーラが、少しずつ広がっていく。

 ワンタ君は、かなり闘気オーラが揺らいでる。


 一方トイプちゃんの闘気オーラは休憩を保ったままゆっくり広がっている。


「む、むずいっす……」

「そう? 全然簡単じゃん!」

「ええ……まじかよぉ」

「うん! ね、剣神さま、次はどうするのっ?」


 私は説明を続ける。


「あとは、体を包む闘気オーラをぐぐぐっ、と外に広げていく感じです」


 ワンタ君の闘気オーラの球体はぱちんっ、と消えてしまった。


「むずいーっす!」


 一方トイプちゃんの闘気オーラの球はぐぐぐぐっ! と一気に範囲が広がった。


「わ! わかるよ剣神さま! 闘気オーラを感じられる……! 木と、そうじゃないのの区別がつくよ!」

「おお、トイプすげー!」


「剣神さまの教え方が上手いからだよ! ありがとうございます、剣神さまっ!」


 ふむ。しかしこの短時間で【衝気円】を覚えてしまうとは。

 闘気オーラを繊細にコントロールすることにかけては、トイプちゃんに才能があるようだ。


「木とそうじゃないやつの見分け付いたよ! 案内できるよっ!」

「では、お願いしますね」

「はーい!」


 トイプちゃんが道案内してくれる。

 ほどなくして……。


「ここ! ここだよ! 聖域の入り口!」


 石でできた鳥居がそこにはあった。

 かなり古く、ツタが鳥居に巻き付いていた。


「この奥が聖域だよ!」

「案内ご苦労様です、トイプちゃん。では、参りましょうか」


 私達が鳥居を通り過ぎようとした、そのときだ。

 バウンッ! とワンタくんが何かにぶつかり、後ろに尻餅をついた。


「っつぅ。なんすかこれ……? 透明な壁みたいなものがあるっすよ!」


 ぺんぺん、とワンタくんが見えない壁をたたく。


「結界ですね」

「結界!? こんなの……おれの衝気でぶっ壊すっす!」


 ワンタくんが剣を振るい、そこから闘気オーラの弾丸が発射。

 衝気は結界にぶつかるも、ぐにゅぅう! と結界の壁がへこむ。


「わ! 衝気が跳ね返って……」

「ふむ」


 私は彼の前に素早く移動し、裏拳で弾き飛ばした。


「怪我ありませんか?」

「は、はいっす……」


 そんな私を見て、バーマンが何度もうなずく。


「さすが先生だぜ。私らが知覚できないスピードで動き、衝気を素手ではじくなんて、人間レベルじゃない。やっぱすごいぜ」


 別にこれはたいしたことはない。

 が、問題はこっちだ。


「結界をどうしましょうか。バーマン?」

「任せてくださいよ、先生! アタシがぶっ壊します! 烈火の太刀! 爆裂炎舞!」


 バーマンが三種の闘気オーラを織り交ぜ、大剣を軽々と振り回す。

 ドガガガガガガガガガガガガガガァアアアアアアアアアアアアアンッ……!!!!!!


 連続爆破によって、結界に穴が開いた。


「ま、ざっとこんなもん……って、ああ! 穴がふさがっちまったい!」


 バーマンの火力で結界を破ることはできたが、しかし、すぐに結界が修復されてしまったようだ。


「さて、バーマン。どうします?」

「うう~……う~……せ、先生ぃ~……」


 やれやれ。


「結界の破り型は教えたつもりですよ?」

「わ、忘れてしまいました……」

「素直でよろしい。では、教えてあげましょう」


 私は木刀を構える。


「まずは、闘気オーラを刃に薄く付与します。この際、薄ければ薄いほど、切れ味が増します」


 白色闘気が刃にまとわりつく。

 

「ただ闘気オーラで包むのではなく、少しの闘気オーラを薄く、刃全身にまとわらせます。そして……」


 私はゆっくりと、すっすっすっ、と刃を動かす。


 ぱかっ。

 どさっ!


「穴が開いたっす!?」

「す、すごい! 闘気オーラの刃って結界をきれるんだ!」


 ワンタ君達が驚いてる。


「このように斬れば、誰だって結界を簡単に切ることができます」

「「「なるほどおぉ!」」」 


 さて。

 いよいよ、聖域へ突入です。

 

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