第26話 偽剣神(コピー)も余裕で倒す
聖域へ向かう途中、黒いスライムに襲われた村を救った。
スライムに取り込まれていた人たちは皆無事だった。
数人窒息しかけていたが、白色闘気を流すことで、みなさん元気になってくださった。
「本当にありがとうございます。何とお礼を申し上げて良いやら……」
タヌコちゃんの村の村長さんが、私に対して頭を下げてくる。
「いえ。それより、あの黒いスライムについて聞いても良いでしょうか」
「あのスライムは【北のカメマン】が連れてきたのです」
「北の……カメマン?」
東のガロウに似た何かを感じた。
「北のカメマンは、この北部の森を仕切ってる魔物の長です」
ふむ。
東のガロウと同じような個体か。となると、魔族である可能性も考えられるな。
「北のカメマンが来て、何かするために人手がいるから、着いてこいと……。それを拒んだら、あの黒いスライムを放ってきたのです」
なるほど。カメマンとやらは北の森で何か悪巧みをしてると。
聖域もまた北の森にある。
もしかしたら、大精霊の一件にも、北のカメマンが絡んでるかもしれない。
と、そのときだった。
「みなさん、下がっていてください。敵がきます」
村の中央に、私たちは固まっている。
ぎゅおん、と空間が捻じ曲がると、そこに人間サイズの、年老いた亀が空中に立っていた。
「ふぇふぇふぇ! よくぞ気づいたなぁ、人間ぅ」
「あなたが北のカメマンですか?」
「そのとおり!」
ふむ。
どうやら敵が向こうから来てくれたようだ。
「何をしにきたのですか?」
「我が計画の邪魔をするものを排除しにきたのだよ」
「計画……。大精霊に悪さをしてるのも、あなたですね?」
「ふぇふぇ! それを答えるバカがいるとでもぉお?」
いや、十分。
闘気の揺らぎをみれば、こいつが図星を突かれたことは1発で分かった。
大精霊不調の犯人がこいつと判明した。
ならばこいつを捕らえるのが先決。
ぐっ、としゃがみ込んで、一瞬でカメマンの背後に回る。
「なに!? はや」
「おそい。紫の型。雷撃」
木刀に雷をまとわせ、そしてカメマンの頭を強打。
びくん! とカメマンが体をこわばらせる。
相手を麻痺させる剣だったのだが。
カメマンはぼん! という音とともに消えてしまう。ふむ。
逃げ足の速いやつだ。
何か特殊な魔法を使って脱出したのだと思われた。
『く、くく! やるではないか人間ぅ!』
私の頭に直接声が響いてくる。
テレパシー的なものを使っているのだろう。周囲にカメマンの気配はないし。
『わしではなく、ブラック・ウーズがお相手しよう!』
「ブラック・ウーズ?」
すると頭上からべちゃり、と黒いスライムが落下。
黒いスライムはズモモモモと音を立てながら大きくなっていく。
「なるほど、あの黒いスライム、ブラック・ウーズというのか」
「おれがやるっす! 衝気!」
ワンタくんが手のひらから闘気の弾丸を発射する。
さっきまでの黒いスライム……ブラック・ウーズなら、闘気をうけただけで弾け飛んだはず。
が。
パァン!
「な!? は、弾かれたっす!?」
ブラック・ウーズはワンタくんの攻撃を受けても平気そうだ。
しかも、さらに大きくなり、やがて一つの形をとる。
「な!? ぶ、ブラック・ウーズが先生の形に変化した!?」
なんと。本当だ。
私がそこにいる。
『ふぇふぇふぇ! ブラック・ウーズは戦った相手から情報をコピーし、その姿を模すことができるのだぁ!』
「そ、そんな! じゃあ、先生の剣を再現できるってことかよ!」
バーマンにもカメマンの声が聞こえているらしい。
偽の私がバーマンに切り掛かってきた。
「く! は、速い!」
偽の私の剣がバーマンを強襲。
バーマンが切り掛かるも、彼女の剣を、私の木刀が払う。
彼女は体制を崩す。その首の後ろに、偽の私が一撃を放った。
「がっ!」
「「バーマン兵士長!」」
バーマンはその場に倒れてしまう。
咄嗟に闘気で首の後ろをガードしていたが。
それでも、しばらくは動けないだろうことがわかった。
「そ、そんな! 最強の剣神さまのコピーが相手だなんて!」
「剣神さま、どうしよう……?」
不安げなトイプちゃんとワンタくん。
ふむ。
「安心なさい。あんなのに、全く負けるきがしませんよ」
『ぬぁにぃい! 生意気な! いいか、ブラック・ウーズは生身の人間と違って痛覚がない! 疲れも知らない! 剣の技で貴様と互角なぶん、ブラック・ウーズのほうが貴様よりスペックが上!』
ふぅ。
「なんとも間抜けですね、あなた」
『なんだとぉおお!? い、いけ偽剣神! やつを殺せぇ!』
偽の私が切り掛かってくる。
なるほど、確かに足運び、剣の持ち方、そして剣筋。
どれをとっても私にそっくりだ。
「せ、先生……! に、げて……」
偽の私が上段から一撃を放ってきた。
スカッ!
『なんだと!? き、消えた!?』
私は偽の私の背後に立っている。
が、トドメは刺さない。
まずは、倒れているバーマンの元へ行き、白色闘気を流して治療する。
「すまねえです……」
「今回は相手が悪かったです。気にすることはありませんよ」
さて。
バーマンの治療を終えて、私は偽の私の前に立つ。
「さ、きなさい」
『殺せ! ころせええい!』
切り掛かってくる偽の私。
それを私はすっ、と避けて、そして脳天めがけて、闘気で強化した一撃を放った。
ぼん! と偽の剣神の頭が吹っ飛ぶ。
『なにぃ!? ば、バカな!? どうして!? 技は互角なはずなのに!』
「バカですね。技が互角でも、ブラック・ウーズは闘気が使えないじゃないですか」
黒いスライムこと、ブラック・ウーズは闘気が弱点。
弱点となる技術を、使えるわけがないのである。
「そ、そうか! 偽ものがどれだけ強くても、闘気を使える剣神様のほうが強い!」
「すごいです剣神さま! さすがです!」
ぐぬぬ、とカメマンがうなる。
「もうおしまいですか?」
『こ、こうなったら数で勝負だぁああ! ブラック・ウーズよぉ! 分裂しろぉお!』
頭を失った偽剣神は、どろり……と一度溶ける。
そして20体の偽物を作り出した。
『ははは! どうだ! 数で勝るこちらのほうが有利!』
「なるほど、たしかに、数が多い方が強い。兵法の基本ですね」
『そうだろう!』
「ならばこちらも分身しましょう」
20体の私が突如として出現する。
『「「なにいぃいいいい!?」」』
カメマン、そして兵士たちも驚いている。
極光剣。黒の型。影分身。
闘気で作った影の人形に、白色闘気をながして、実態を伴った分身をつくりだすのだ。
「さて、これで互角ですね」
20体の私が、偽物を一蹴。
ブラック・ウーズは完全に消滅した。
『ち、ち、ちくしょおぉおお! 覚えてろぉおおおおお!』
カメマンの声が完全に消えた。どうやらテレパシーを切断し逃亡したのだろう。
とはいえ、元凶がまだ生きてる以上、まだ問題解決とはいかないか。
「す、すごいっす剣神さま!」
「分身までできちゃうなんて! すごい、かっこいいです!」
兵士たちがキラキラした目を向けてくる。
「あたしもあれ、できるようになりたい! できるかなぁ?」
「ええ、できますよ。修練を積めばね」
「ほんとぉ!? わーい!」
そんな私の様子を見て、中級精霊が一言。
【お、おじさん……さ、さすがにその、実態を伴う分身を作るのは、普通の人にはできないんじゃない? しゅ、しゅごいけども】
「いえ、闘気の剣士なら、誰だってできるようになりますよ。これくらい」
【ほ、ほんとにぃ?】
「ええ、本当に」
分身くらい、村の剣士たちも普通にできていたしね。
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