7月5日(金)‐03

 意識が戻った。

 目の前ではミライさんが靄の中に埋もれていき、やがて見えなくなった。

 一瞬の出来事だった。

 声を出す間もないくらいの。

 手を伸ばす暇もなかった。間に合わずに前に出かけた右手が行き場を失い彷徨う。

 彼女を覆った靄は小さくなり、散って消えていった。

 否、消えたのではない。僕の周りには楽しそうに会話をする生徒で溢れていた。

 自分だけ、元の世界に戻ってきた。

(何が、起こった?)

 情報量で頭がパンクしそうだ。脳が処理しきれない。

 帰ろうとしたら、誰かに声をかけられて、急に〈境界〉に入って、ミライさんが、靄に――

「〈境界〉に入る条件」

 楽しそうな声が聞こえる。

 呆然としている僕に、その人は語りかけた。

 僕はハッとして、階段の上を見た。彼は依然とそこに立っている。

「それは」

 お前は誰だ? 何故こんなことを? ミライさんをどこにやった?

 聞きたいことが山ほどあるのに、声が出ない。

「自分の――――が、分からなくなった人だ」

 そして、消えた。

 階段の上には彼はいないし、ミライさんも、カケラもこの場にはない。

 足元に、紐が切れたお守りだけが落ちていた。

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