第8話 《若頭補佐》 クロッサ・ネラー

「こんなトコにホントに敵さんいるんスかね~?」


 洞窟に入りしばらく移動したが、生物の一匹すらいる気配を感じない。


「うーん、さっきの道、右に行った方がよかったかな」


「おいG4、まだ反応なしか?」


 カロがルイカに通信する。


「その辺りはコウモリくらいしか生体反応を感じられない。もう少し奥に行けない?」


 この作戦では、情報支援のナビゲーションは山の麓から各自の小隊に様々な支援をしている。小隊の周囲の情報をいち早く読み取り、的確な指示や情報を提供する必要がある。


「まーた分かれ道っスか。どっち行くっスか?」


「うーん……今度は右に行ってみよう」


 三人は右の道を進んでいく。


「そっち、人間の生体反応あり!三名、敵よ!」


「やっとかよ」


 カロは大きな大剣を手に持ち、走って行く。


「あ、待って!単独行動は危険だよ!」


 リーサが呼び止めるも、カロは無視して行ってしまう。


「ちょっと、G3!?二人とも、急いで!すぐそこよ!」


 その先には1つのドアがあった。カロはそのドアを勢いよくぶった斬った。


「な、何者だ!」


「侵入者の噂、本当だったか!」


 中にいたのは、武器を持った男3人だった。


「雑魚に用はねぇ」


 カロは大剣を振り下ろし、1人を斬った。


「てめぇ!ぶっ殺してやる!」


「新君!行くよ!」


 遅れてきたリーサと新も戦闘態勢をとる。


「くそがぁ!」


 刀を振り下ろしてくるのを難なく避け、剣で斬った。


 新も1人をぶん殴って気絶させていた。


「ふう、急に敵とは驚いたね」


「でも、もうすぐ本拠地ってことっスよ」


 と話していると、カロは走って先に行ってしまった。


「ちょっと、G3!単独行動はやめなさいよ!」


「うるせぇ。敵が出てくることはわかった。あとは全員ぶった斬るだけだ」


「あー、もう!いつもそうやって!あ、通信切るな!位置がわからなくなるでしょうが!」


 ルイカは怒っているようだった。


「僕たちも早く行こうっス!こっから先はどんなやつが出てきてもおかしくないっスよ!」


 と二人も先を急いだ。


◇◆◇◆◇◆


「はぁ……はぁ……」


 何度か戦闘があり分かれ道も多く、結局カロを見失ってしまった。


「どこ行っちゃったんだろ……」


「しょうがない奴っスね。もう二人で行くしかないっス。これまで以上に警戒しないといけないっス」


「こっちは情報を集めてきます。二人は進んでください。何かあればまた連絡しますので」


 二人で洞窟の中を進む。ルイカは他の小隊と連絡を取って情報収集をするようだ。


「二人とも!その近くに強い魔力の反応が!敵幹部かもしれないです!」


 確かに、近くから大きな魔力の圧を感じる。


「おそらく、この先に居る……」


 ひとつのドアを発見した。そのドアを開けた先には、1人の女性がいた。


「あら……もうこんなとこまで来ちゃったのね」


 そう言った女性は刀を抜いた。


「その顔……おそらく……《危険度1》の犯罪者です。気を付けてください」


「私は《若頭補佐》クロッサ・ネラー。まあ、ここで死ぬあなたたちが知る意味はないけれど……」


 今までの相手とは比べ物にならない魔力を感じる。それと同時に後ろから多くの足音が聞こえる。


「新君、後ろの人たちお願いできる?。ここは私がやる」


 剣を引き抜き、構える。

 

「了解っス!気を付けてくださいっスよ!」

 

 新はそれを聞いて下がり、後ろの敵たちと戦闘を始めた。


「飛警団第一部隊隊長、リーサ・レインメアです」


「へぇ、第一の隊長ねぇ。なら、少しは楽しませて頂戴ね……うふふ」


 クロッサは刀で斬りかかる。


「速い……!」


 なんとか横に避けたが、さらに何度も追撃される。


「避けてばかりじゃつまんないわ!ほら、その剣で打ち合わない!?うふふ!」


 連撃を紙一重で避ける。


「はあああ!」


 ここぞとばかりに剣を振るが、刀で簡単に防がれる。


「軽い攻撃ね……そんなのじゃ勝てないわよ!」


 そう言ってクロッサは少しバックステップで距離をとる。


《風刃の舞》


 クロッサの周りに風が吹き荒れる。その風は刃のような形になり、リーサに襲い掛かる!


《炎陣:炎舞》


 足元に魔法陣が出現すると、リーサの周囲に渦状の炎が燃え盛り風の刃を防ぐ。


「ふん、少しはやるようじゃない」


 クロッサは少し笑って再び刀を構える。


(刀の腕と魔法構築の速さ、密度……かなり手強い)


 リーサも剣を構え直す。


「そちらこそ。その力、正しいことに使うべきでしたね」


「ふん、この組織にいることが私にとって正しいことなのよ。これは防げるかしら!?」


《エア・カッター》


 空気が回転し風を纏い、数枚の大きな円状の刃となりクロッサの周囲を飛び回る。


《突風の道》


 突如突風が吹き、円状の刃達がリーサへ飛んで行く。


(さっきよりも数段速い……!)

 

《炎陣:剣聖》


 魔法陣が出現し、剣が炎を帯びる。その剣で円状の刃を防いで一刀両断し、クロッサの方へ走って近づいていく。


「ちぃっ!」


 クロッサと再び打ち合いになる。剣と刀がぶつかり合う音が洞窟内を反響する。


「ここまで私と対等にやりあうとはねぇ!」


 クロッサは笑いながら打ち合う。


「いえ……もう終わりです」


 リーサは後ろに大きくバックステップする。


(なに……?……な!?いつの間に!?)


 クロッサが足元を見ると、自身の足元に魔法陣が描かれていた。

 

「私の勝ちです……」

 

《炎陣:焔の塔》


 魔法陣から勢いよく炎の柱が出現するが、クロッサは間一髪で避ける。


「ふふふふふふ!残念だったわねぇ!そんな攻撃届かないわ!!」


「いえ、言ったはずです。私の勝ちだって」


《風陣:勇風》


「あなたの技、お借りします」


 魔法陣が炎の柱の裏に出現し、そこから突風が放たれ炎の風となってクロッサに襲い掛かる!

 

「あああああああああああああ!!!」


 直撃したクロッサは刀を落としてその場に膝から倒れこむ。リーサは剣を鞘に納め、クロッサに手錠をかける。この手錠はつけると魔力の流れを抑制して使えなくさせる《魔封錠まふうじょう》と呼ばれるもので、技術開発部が開発しているらしい。


(風陣は久しぶりに使ったなぁ……炎陣が私に一番適性があるとはいえ、他の属性の魔法も練習しないと……)


「こちらG1。護送の用意をお願いします。場所は……」


「こっち終わったっスよ~!あれ、そっちも終わってるっスか?」


 護送要請が終わった時、新が走ってきた。


「うん、今終わったところだよ」


「すごい強いっスね!この人、《危険度1》だったっスよね?」


「あの、危険度って?」


「その名の通り、指名手配されてる犯罪者の危険度のレベルを表したものっス。危険度1は《数十人単位の被害者が出るレベル》って言われてるっス」


「二人とも、まだ近くに敵がいるわ。気を付けて」


「早く行こうっス!カロとも合流しないと!」


 二人は走って奥へと進んでいった。


◇◆◇◆◇◆

 

「ぐあああ!」


「ふぅ、敵も多くなってきたね」


 数回の戦闘があったが、未だにカロの姿は見つからなかった。


「かなり奥まで来たはずです。そろそろ武闘派の《若頭》が出てきてもおかしくないです。細心の注意を」


 ルイカはカロの情報を他小隊に聞き回っているようだが、一向に見つかる気配はないらしい。仕方なく、リーサと新はさらに洞窟の奥へと足を踏み入れた。


 

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