第3話 ガラスのような馬

 炎龍というのは、黄金色の大きな炎でつくられた体をしていて、幾万年の時を生きている不老の存在。

 その正体は三つ目の美しい女神と言われる。



「ねえ、ねえ、ユーガ」


 当然、なんとかしてくれるものと思ってた。

 でも、リーナは、ユーガが足や体をガクガク震わせてるのに気がついてしまった。


「俺、どうにもできない。うわあー」


 枯れた老木がこちらに倒れてきた拍子に、ユーガはリーナの手を振り解いて、猛烈な速さで逃げていった。


 リーナは枯れ木をすんでのところでよける。心臓がバクバクしてるけれど、この状況をなんとかしなければ。


「どこかに水さえあれば!」


 オオカミなんてどうでもいい。逃げたユーガはもっとどうでもいい。リーナは周辺に水がないか、必死に探す。


 炎が周りの森に引火でもしたら、山火事になる。リーナは小さな時から、祖母のルカに山火事の恐ろしさを聞かされていた。


「この村のそばで、五十年前にあったの。勇敢な誰かが守ってくれた……」


 ルカはそう言って、暖炉のそばでうたた寝をしていた。誰か、というのが誰なのか、リーナは祖母の話が曖昧で知らないのだけれど、ともかく、山火事にだけは気をつけるように、と、話を聞いた小さな頃から、心に留めて生きてきた。


「だめ。泉なんてない!」


 今歩いてきた地形を頭の中で思い描く。村に戻らなければ、泉どころか井戸さえないのだ。


 火はすでに、周辺の木々、三本を燃やし始めた。風がとても熱い。気を確かに保たなければ。


 その時、一陣の涼しい風がリーナの前に吹いた。


 ガラスのような馬だった。暗闇の中でもその輝きは不思議と見えた。その馬を乗りこなしてるのはすごく見慣れた人。

 馬は透明だけど、その動きは村一番の駿馬よりもずっと猛々しく、それでいてとても美しい。


 栗色の髪の優しいお兄さんだと思っていた。


 ガラスのような馬を巧みに操っていたジンは、怖い眼差しで炎を睨んでいる。そして、低い声で炎と「対話」し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る