第2話 ユーガと「エルフの炎」
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村の裕福な商人の一人息子、ユーガに誘われたリーナは、暗闇に包まれた森の中を二人でトボトボと歩いていた。見せたいものがある、と今日の昼間、ユーガに言われたからだ。
ユーガはリーナと同じ金髪だ。それになかなか整った顔をしている。この村の中では珍しく、馬にも乗れた。腕力だって強くて林檎を素手で割れる。リーナより二歳年上で、二年前から、ユーガの親父さんの手伝いをして、村を出ての外との交易の手伝いを行っていた。
「夜になると光る石が洞窟にあったんだ。ホタル石って言われてる」
これから見せるものが何か。抑え切れずにユーガは道中でリーナに言ってしまった。持っている松明に照らされたその顔は誇らしげだ。
ホタル石はこの村の特産品だ。山間のこの村は、ホタル石などの珍しい石を、都会(まち)に売ることで、海でとれた塩や、魚の干物などをもらってくる。
リーナの食卓にも魚の干物が並んでいる。ユーガやユーガの親父さんの「偉業」に違いない。
なのに、どうして気が乗らないのだろう?
ホタル石を二人で見る。
それは、古から、この村では「愛の告白」だと言われてきた。五百年も昔には、この村の西の方には不老長寿のエルフの郷があったという。そのエルフたちの「愛の風習」を人間が真似たらしい。
森は不気味だった。ついこの間、ラギア火山が不穏な様子だったことをリーナはなぜか思い出す。前を歩くユーガのヒラヒラした服の袖をギュッと掴んでしまった。ユーガは何か勘違いしたのか。
どこかの国の王子様を気取ったように、不敵に微笑んでいた。
背後で、グルグルと唸り声がする。このあたりに生息する灰色オオカミに違いない。
「ユーガ!」
リーナははっきり恐怖を感じて、ユーガのヒラヒラした服の袖をますます強く引っ張った。
「わかってるさ。見て驚くなよっ」
ユーガは唇の端を歪めて笑う。その右手の松明が、急に夜空を焦がす勢いで燃え始めた。
炎は黄金色にまぶしく輝く。ユーガはその炎をヒョイと持ち上げると、
「これ、持っててくれよ」
と言い、炎が尽きた松明の棒をリーナに渡す。そして、黄金色の炎を手で軽々と操り始めたのだ。
魔法だ。エルフの血をユーガは引いてるんだ。
少しだけ噂で聞いたことがあった。ユーガのお母さんは、いわゆる魔女と呼ばれる、エルフの血のごく薄く混ざった血筋だったと。
「ほれ。それー」
ユーガは炎を麩菓子のようにちぎって、灰色オオカミたちに投げつける。
けれど、見て! オオカミは確かに逃げたけれど、背後の森の枯れた一本の老木に、その炎が引火したのだ。
炎は、村の昔話に出てくる炎龍(えんりゅう)そのもののように、勢いよく燃え盛る。
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