可能性∞の宝石魔法で異世界スローライフ

色石ひかる

第1部

プロローグ

第1話 少し先の未来

「このままスパイクベアーを放置すれば被害が出ると思うから、この場で倒すね。星剣せいけんルビー、矢車やぐるまサファイア」

 家の近くにある森の中で、食材探しをしていたら魔物に出会った。


 私のみが使える宝石魔法を唱えると、手元に宝石魔図鑑ほうせきまずかんが出現した。宝石魔図鑑からルビーとサファイアの基本ルースが飛び出して、私の周囲で回転している。


 6角柱の上下が尖っている形状の基本ルースから、6条の光がらせん状にまとっている細身な赤色の剣と、青色の丸い盾が私の手元に収まった。剣と盾は中学生くらいにみえる私には違和感しかないけれど、異世界なら不思議ではなかった。


「スパイクベアーはこの森にいる強い魔物ですが、いまのアイ様なら問題ないですが油断は禁物です」

 横にいるプレシャスが声をかけてくる。体は白色に黒色の斑がある猫みたいな雰囲気で、7色にかがやく瞳の色が特徴なプレシャスは私以上に強かった。


「無理はしないから、危ないときは助けてね」

 プレシャスに声をかけながらスパイクベアーに視線を固定させると、スパイクベアーは私を敵と認識したのか、私のほうへ向かって襲いかかってくる。

 私もスパイクベアーに向かって駆け出すと、肩まで伸びた青白くて幻想的な髪が揺れながら後を追いかけてくる。


 私よりも巨大なスパイクベアーの爪が襲ってくるけれど、盾で簡単に受け流す。隙間のできたスパイクベアーの胸元へ私の剣で何度か斬りかかった。

 勝負はすぐに決まった。スパイクベアーの体が消えると、赤色でイチゴくらいの大きさの魔石のみがその場に残った。


 私はデリートとクリアを心の中で念じて、基本ルースのほかに剣と盾を消した。

「アイ様、お見事です。最初に魔物と対峙したときにくらべて、想像できないほどに成長しています」


 プレシャスがうれしそうに尻尾を振りながら声をかけてくる。私はプレシャスを抱きかかえて、きれいな毛並みでモフモフとフワフワを堪能すると、プレシャスの暖かさが私の手に伝わってきた。


「宝石魔法は私と相性がよいみたい」

 イロハ様と本物のアイ様に感謝しながらプレシャスへ答えた。


「アイ様のみが使える宝石魔法は、一般魔法と神聖魔法の両方に似ている魔法が可能で、さらに異なる魔法も作ることができます。このままアイ様が成長すれば、世界最強も夢ではありません」


「最強には興味がないから、日々を楽しく過ごせればそれで満足よ。イロハお姉様の世界を満喫しながら、プレシャスと宝石を語りあえれば、それ以上の祝福はない」

 異世界に来てから少し時間が経つけれど、いまはプレシャスたちと一緒に楽しく過ごす時間がうれしかった。


「アイ様は欲がないのですね。そのようなアイ様だからこそ、一緒に過ごす時間は楽しいです。今日の夜も宝石について教えてください」

「もちろんよ。一緒に宝石を語りあおうね」

 スパイクベアーの魔石を拾ってから、食材探しを開始した。


 その日の夕方頃に大聖女であるメイティリスが家に来て、後ろには護衛であるタイタリッカさんとミリーシャさんもいた。メイティリスは王都ザイリュムと、私たちがいるリガーネッタの街を行き来している。


「アイと話がしたくてきたけれど構わない?」

 夕日にツインテールの金髪がかがやいている、メイティリスが聞いてきた。私と同じくらいの年齢だけれど、私の前では幼い感じで甘えてくる。


「もちろんよ。私もメイティリスと一緒だと楽しいから、ゆっくりしていってね」

 メイティリスたちを家の中へ迎えた。本来なら大聖女であるメイティリスを呼び捨てにして気軽に話すのは、無礼にあたる行為であった。でもいつの間にか仲よくなって、いまでは周囲も納得してくれている。


「今日は神殿ですてきな出来事があったの」

 メイティリスがうれしそうに話し出す。私もスパイクベアーを倒したことや、今日手に入った食材で作る料理などを語った。

 プレシャスはもちろん、タイタリッカさんとミリーシャさんも会話の中に入って話題は欠かせなかった。


「久しぶりにアイの踊りがみたいの。駄目かな?」

 上目づかいにメイティリスが聞いてくる。断る理由は何もなかった。


「最近はあまり踊っていなかったから、ちょうど踊ってみたいと思ったのよ」

「アイ様、この場所で踊りますか」

「部屋の中では少し狭いから庭で踊ろうと思う。外は暗いけれど、輝きかがやきオパールで周囲を明るくすれば問題ないはずよ」


 私たちは庭に出て、踊れそうな場所へ移動した。輝きオパールを唱えると、上空にハートシェイプのルースがいくつか浮いて、周囲を明るくしてくれる。

 踊る準備ができた。


「はやくアイの踊りがみたいの」

「そろそろ始めるね。音色ねいろトルマリン。煌めききらめきトルマリン」


 宝石魔図鑑からトルマリンの基本ルースが出現してから、私の体が青色の光で包まれていく。青色の光が晴れると踊り子の衣装に変わっていて、横にはハープが浮いていた。ハープはリズムよく揺れながら、小さな音符を作っている。

 宝石魔図鑑はハープの近くに配置して、楽譜の雰囲気を出してみた。


「私のお気に入りの歌、~花びら踊る街で~。オン」

 ハープから音色が聞こえてきたので歌い出すと、自然に体も動き出す。髪の毛から光が舞って周囲が青色にかがやくと、まるで本物のアイ様が私を祝福してくれたみたいで、心と体が温かくなっていく。


 心ゆくまで踊って、2曲目以降はメイティリスたちも一緒に踊ってくれて、楽しい時間を過ごした。


 その日の夜にはプレシャスと一緒に寝室へ来ていた。あとは寝るのみだけれど、その前に宝石魔図鑑を出現させた。


「アイ様、最初はオパールの立体映像を見せてください」

「私もオパールのルースを堪能したかったから一緒に見ようね」

 宝石図鑑でオパールの頁を開いて、ブラックオパールの写真から立体映像を浮かばせた。7色に変化するルースは幻想的できれいだった。


 プレシャスは名前の由来になった遊色効果ゆうしょくこうかのあるオパールに興味を示して、私は宝石の中でもオパールが大好きだった。

「いつみてもオパールはきれいです」


「オパールもすてきだけれど、どの宝石も魅力的よ」

「アイ様のおすすめである宝石を見たいです」

 オパールをいろいろな方向から眺めたあとに、プレシャスが私に視線を向けた。


「次はどの宝石にしようかな」

 プレシャスと一緒に宝石魔図鑑を眺めて、思う存分に宝石を語り合った。宝石魔図鑑で作れる宝石魔法は可能性無限大で、繰り出される宝石魔法で異世界スローライフを堪能していきたい。

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