第3話 私だけの宝石魔法

 宝石魔図鑑という名前にふさわしく、右の頁は10分割の大きな枠があって、注釈には最大10種類の魔法が可能と書いてある。

 大きな枠には魔法効果を書くみたいで、下側にも記入欄があった。宝石の色や種類を記入する欄や、魔法の即時発動か任意発動かも記入できるみたい。


「宝石を堪能できるのはうれしい。立体映像はジュエリーではなくて、ルースのみなのも粋な計らいよね。どの方向からも本来の輝きが楽しめる」

 ジュエリーとなった宝石もすてきだけれど、宝石そのものを鑑賞するにはルース状態が1番だと思う。


「気に入ってくれて、うれしいです」

「いつまでも眺めていられるけれど、いまは魔法をどのように使うか知りたい」

「ワタシの世界にある魔法とは異なります。アイからの伝言ですが、右側の頁に魔法の効果と魔法の呪文を日本語で埋めます。どの宝石で魔法を作っても構いません」


「宝石魔図鑑で使える魔法だから、宝石魔法があいそう」

「すてきな名前です」

 イロハ様も魔法の名称に喜んでくれた。宝石を使った魔法で、これほどうれしい本はなかった。視線を送ると、イロハ様が続きを話してくれた。


「魔法の効果を連想できる宝石なら、威力を最大限に発揮できます。呪文を日本語で唱えれば発動できます。これで魔法は完成ですが、詳細は最初の頁にあります」

 頁をめくって表紙の裏を開くと、決まり事が5項目だけ書いてあった。補足は各頁に書いてあるみたいで、書かれている5項目に目を通す。


「ひとつ目は書き方みたい。宝石と枠を指定して効果と呪文を日本語で刻むと、日本語の解釈で魔法が表現されるのね。呪文詠唱後は変更不可みたい」

 きっと一度使った魔法は修正ができない仕組みね。


「次は呪文の詠唱ね。呪文の詠唱で宝石ごとの基本ルースが出現して、基本ルースから各魔法が発動されるのね。魔法の範囲や位置、威力は心の声でも詠唱できて、心の声は記載よりも優先されるみたい。ここまでは私も把握できた」

 視線をイロハ様に向けると、私を見守るような表情だった。このまま続きを読んでも平気みたいだったので、視線を宝石魔図鑑に戻した。


「3つ目は魔法の発動条件ね。即時か任意かを選べて、心の声でも決められる。基本ルースは宝石ごとに1つのみ出現する。4つ目は発動後の基本ルースを使って、同じ宝石の異なる魔法にも使えるのね。いろいろと自由が利きそう」

 なれるまでは大変みたいだけれど、宝石魔図鑑で使える魔法は面白いと思った。残りのひとつも読んでいく。


「次が最後の項目ね。魔法発動後の基本ルースと魔法そのものは、任意で消せるみたい。最長でも丸1日経過すると自動消滅するから、忘れても安心な仕様ね」

 以上が基本の5項目で、細かい部分は記入頁で確認が必要みたい。


「アイの声をたくさん聞けてうれしいです。内容は把握できましたか」

 満足した表情を見せながらイロハ様が聞いてくる。


「概ね分かったから、実際に試すのが楽しみよ。同じオパールでも、ブラックオパールとボルダーオパールで違いがあるのか興味ある。日本語で書いて日本語で唱えるから私しか使えない魔法ね。すごく便利だけれど勝手に唱えても平気?」

 イロハ様に視線を向けた。


「気にせず使ってください。この会話はワタシの世界にある言葉ですが、違和感はないはずです。魔法を唱えるときだけ日本語になります。他の人間には珍しく映るでしょうが、魔法は神秘的な現象です。遠い土地で学んだと言えば平気でしょう」


 私自身は日本語を話していたつもりだったけれど、イロハ様の力で自動変換されるみたい。イロハ様によると文字なども同様に変換されて、私になじみがある名称などに置き換えてくれる。知っている単語で話せるのは安心できてうれしかった。


「世界を知るためにも仕事を探す予定だから、魔法が使えれば有利になりそう」

「好きなだけ魔法も楽しんでください。ワタシからも贈りものがありますので、首にかけてください」


 イロハ様の手元をみるとペンダントがあって、ペンダントを受け取ると中央に取り付けられている宝石の中石に驚いた。


「メインの宝石はブラックオパールよね。私がミネラルショーで購入した勝利品と同じ形で、や色合いも同じ輝きよ」

 理由が知りたくて、視線をイロハ様に向けた。


「周囲の小さな宝石も同様に、運よく消滅せずに残っていました。ペンダントにはワタシの加護を付加しましたので、愛しいアイを守ってくれるでしょう。一度身につければ二度とアイから離れません」

 周囲にある小さいブラックオパールも見覚えがあった。一緒に使われているメレダイヤも、ミネラルショーで購入したルースみたい。


「イロハお姉様からも、贈りものをもらえてうれしい。このペンダントも大事にするね。でもオパールは硬度が低くて薬品に弱いから、ずっと着けていても大丈夫?」

「ワタシの加護があるから平気です。身につけた姿を早くみたいです」


 イロハ様自らペンダントをかけてくれると、吸い付くように私の首回りへペンダントが収まった。やさしい雰囲気に包まれた感じがして、試しに取ろうとしたけれど外れない。まるで体の一部になったみたい。


「似合っています。やはりアイは愛しいです」

 イロハ様にまた抱きしめられた。中身は私だと知っているはずなのに、その上で愛情を注いでくれている。イロハ様の妹に対する溺愛ぶりは凄すぎる。


「アイが作る魔法を早くみたいです」

 私を溺愛しながら耳元でささやく。


「私の大好きなオパールの中でも、とくに希少性が高いブラックオパールで魔法を作ってみるね」

「どのような宝石でしょうか」


「ブラックオパールは多様な色が見られるけれど赤色は希少性が高くて、裏側が黒色ほど高価でレッド・オン・ブラックと呼ばれているのよ。色合いの出方で貴重なのはハーレクインパターンね。せっかくだから眺めて楽しむ魔法を作ってみる」

 イロハ様から開放されてから、宝石魔図鑑にあるオパールの頁を開いた。最初の魔法がオパールなのも、私らしくてよいかもしれない。


「どのような効果を書くつもりですか」

「オパールといえば七色だから、見た目は指定場所を中心に7色に輝く虹とオーロラが舞う。癒しもほしいから、効果はみんなの心が清らかになる。周囲の邪気を払えれば、より清々しくなれそうね」


 考えた内容と呪文を指定された枠の中に書き込む。ペンはオパールで飾られているから、本物のアイ様は私の好みを知っているかもしれない。宝石魔図鑑を閉じて、イロハ様へ視線を向けた。


「早く魔法を唱えてみてください。ワタシの知らない魔法に興味があります」

「さっそく唱えるね。7色なないろオパール」

 宝石魔図鑑が自動で開いて、オパールのルースが飛び出した。これがきっと基本ルースね。基本ルースは6角柱の上下は尖っている形状で、手のひらに乗る大きさだった。基本ルースは私の周囲を回転しながら漂っている。


 基本ルースから7色の光がらせん状に舞い上がって、オーロラと虹が弾けるように7色の光が煌めいた。心が少し温かくなった気がして、胸の部分に手を当てるとペンダントトップにも暖かさを感じた。


「きれいな魔法で心が和みます。ワタシの神聖魔法とは異なりますが、見て楽しめる魔法もすてきです」

「花火に似た感じにできたのもうれしい。花火は空に咲く花のたとえで、元の世界では夜空に打ち上げて色や光を楽しんでいたのよ」


「星空に負けないかがやきで、大きくなれば、さらにすてきでしょう」

「イロハお姉様が喜んでくれて作った甲斐があった。でも初めての魔法だからか疲れたみたいで、急に眠くなってきた」


「もっとずっとアイと話したいですが、この空間はアイに負担が掛かるのかもしれません。そろそろ地上へと送りましょう」

 イロハ様に抱きしめられてから地上へと転送された。

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