第8話 お別れの時

「あのね、充くん。充くんは同じ私って言うけど、やっぱりどこか違うと思う。充くんの好きな私はここにある私じゃないと思うよ。


 同じであって違うから」


「はい…」

 充くんはもうわかっていると思う。充くんが好きなのはこの世界にいた私だった。もう生き返らないけど。

 例え他の世界の私を連れてきても同じだ。


「私は元の世界に戻るけど、この世界のこと見捨てたくないよ。初めて私の力で喜んでくれた人もいるし、また龍も見たいし」


「龍?」


「あ、ええと、こっちの事!」

 たぶん龍が見えたの私だけだからね。


「だからつまり…この世界の私の代わりにはなれないけど、充くんさえ良ければまたこの世界に来ていい?」


「それはもちろんですが…。神官長は納得しないかもしれません。日比野家も。


 あの人たちは巫女様の能力しか見ていないので」


「それもわかっているよ。だから神様に私、お願いしてくる。巫女がいなくても雨を降らせてくださいって」


「え!?」


 あの龍にお願いしよう!私はそう思った。アニメじゃないけど願いを叶えてくれるかもしれない。


「大丈夫。きっとうまくいくよ。あのね」

 と私は龍の事を充くんに話した。


 *


「龍神様…。昔の文献ではそう記されていましたがまさか本当にいるとは」


「でも見たからいるよ。きっと私が呼べば出てくるよ。だからお願いするの。そうしたらもう充くんや他の人達も巫女様なんて崇めなくてもいいんだよ」


 と言うと充くんは


「わかりました。神官長に話してみます。巫女様の制度はもし龍神様との願いが叶うと必要なくなります」


「うん。もう充くんも私を気にする必要はなくなるね」

 と言うと充くんは辛そうにし、私をガバッと抱きしめた。

 少し震えていた。


「充くん!!?」

 ひいいいいい!!

 イケメンに抱きしめられ脳みそが爆発しそうだ。


 充くんはしばらく何も言わずに抱きしめていたが離れると目を少し赤くしてうなづく。


「わかりました。僕はフラれましたね。茜さんが元の世界に戻るようこれから全力を尽くしますね」

 と充くんはにっこり笑った。


 *

 それから偉い人への説明や、龍神様に会いに行き、私が呼ぶと直ぐに雲の切れ間から黒龍が顔を出して現れた。


 そして目を見つめると私の事は全てわかっていると感じた。


 私の願いは龍神様に聞き届けられたのだ。空に虹がかかり、私は承諾されたと神官長に伝えた。 


 神官長も虹を見て奇跡を信じたようだ。戦争も終結方向に進んでいるらしい。


 それから私はこの世界の私のお墓に行った。充くんも花束を持ち付き合った。


「自分のお墓だ。なんか嫌だけどすごい大きい!」

 そりゃ国1番の巫女様のお墓だしね。

 手を合わせるのも変だけど。


「死なせてしまい申し訳ありません。僕は後悔していたのかもしれません。ごめんなさい」

 と手を合わせて充くんは涙を流した。それから私に向き直りにっこりして


「気持ちの整理もだいぶつきました。巫女様が亡くなったのは悲しいですけど、僕、茜さんのことも好きですよ?」


「えっっ!?」


「ふふ、そう言う反応。巫女様は絶対しないし面白い!」

 と笑う充くんに


「も、もー!!」

 と言うと充くんは


「うーん、もしあちらの世界の僕と上手くいかなかったら僕のところに来てほしいです!!


 いつでも待っていますよ。茜さん!」

 と充くんは揶揄うように笑った。


 そして別れは近づいてきた。

 私の雨巫女としての役目も終わりだし戦争も停戦へと向かっている。この世界も少しは良くなると思う。


 こうして私は別れの朝、神官長や国民、偉い人に挨拶をしてこの国を去ることにした。


 充くんに連れられ元きた白い祭壇のある場所へ一緒に向かう。手を繋ぎ一礼すると充くんは勾玉を放つ。光と共にまた地面がバカっと開いて私達は落ちる。


 ドスンと見覚えのあるボロい社に私と充くんが落ちた。


「ふあっ、成功です!茜さん怪我は?

 」


「大丈夫です」

 と少しお尻をさすった。


「…これで本当にお別れですね…。あ、こっちの僕にフラれたらチャンスありますね!!ごめんなさい、今の無しです!」

 と笑う。


「色々ありがとう。充くん。私はこの世界嫌だったけど頑張ってみるよ!!」


「はい、もちろん。嫌なら直ぐにこちらへ来てくださいね。僕は月に一度はこちらに来ようかと思ってますよ。


 もし僕と添い遂げたいと茜さんが思ってくれたら社に手紙を書いて置いてください。待ってます!」

 とまで言ってくれたのでなんか照れる。


「う、うん。もちろん」

 そもそもこっちの日比野くんと結ばれる保証とかない…。


 すると充くんは


「ん?何でしょうあれ?」

 と何か見つけたかのようにその方向を見たので私も何かあるのかと探したら、急に目の前が暗くなり…


 私は充くんにキスをされていた。


 え、


 ええええええええーーー!!??


 真っ赤になり離れると充くんはにこりとし


「ふふふ、ではまた。茜さん」

 と勾玉を投げ光りの中、消えてしまった。



「えええ…えええ……」

 私はしばらく動けなかったがやっと立ち上がり社から出た。


 雨上がりの空。


 私はバス停へと向かった。


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