第7話 大事なお話

「巫女様!ありがとうございます!!儀式も無事に終わり、こうして恵の雨が降りました!!」

 と神官長さんに礼を言われ、皆も安心しきり口々に涙ぐんでいた。


「巫女様のおかげだわ」

「これで作物も育つわ!」

「他国からの注意や警戒はまだ続くが、勝機は見えた!」


 水…雨の降った国の戦況はこれから有利に働くと言う。


 国の偉い人が朝から何人も訪れて私は縮こまっていたが、充くんが側で代わりに応対してくれた。



 一息した頃、休憩になり、やっと私は解放された。



「…はぁ。雨巫女の存在がこんなに重要なんて…。私はただ祈っただけなのに」

 ことりとお茶を置いた充くん。


「こうしてお茶を淹れられるのも全て茜さんのおかげなんです。ただの祈りなんかじゃありませんよ。皆、救われたんです!」

 とキラキラしている。


「み、充くんも休んでいいよ!!」


「はい、もちろん」

 と充くんは私の座っているソファーの横に座りジッと私を見つめる。


 ひぃっ!?


 そんな風に真剣に見られると照れるし。



 さっと視線を逸らしていると充くんは


「茜さん…」

 と名前を呼び、ドキリとする。


「大事な話があるんですが…」


「は、は、はいい!?」

 急に胸の鼓動が早くなった。ど、どうしよう?まさか、告白?

 そんな!そんなわけない!私なんか!

 それに憧れって言ってたし!!

 私なんか!!


 と1人でぐるぐるとしていたら


「実は…。巫女様はこれからもちろん元の世界に戻っていただくのですが…」


「う、うん?」


 そっか。戻らなきゃだよね。やっぱり…。なんとなく役目は終わったしもう帰っていいよ。みたいな事かとわかってた。ふふ、そうよね。


 しかし日比野くんは少し辛そうな顔をしている。


「どうしたの?」


「神官長様は…本当は…。茜さんを返す気はありません…」


 と言う。


「ええっ!?」


「茜さんがこちらにいると当たり前ですが雨が降りますし、政治的にも有利な立場を保てます…」


 それは確かにそうだと思う。だから国の偉い人はこぞって私なんかに頭を下げてきたのだ。


「それに…。日比野家の役割は巫女様の付き人だけではありません。今まで黙っていました…」


 そう言うと充くんは明らかに様子がおかしくなる。急にそわそわして目線を外したりしている。


「?な、何?」

 一体役割って…。


 ごくりと充くんは意を決して私を見て言う。


「茜さん…。あなたの子供を僕にください!」


 と言われて私は一瞬時が止まった。

 充くんは真っ赤になった。


 え?


 え!?何ですと!?

 今…子供って言った?


「あの、話がよく見えず…」

 と狼狽えた私の手を充くんが掴んだ!!


 ひいいっ!?


「もちろん、今すぐではないですよ?でもいずれのお話です!!これが日比野家の勤めで、雨巫女様の子供を授け、次の巫女を産ませるという…」


「な、な、な!?」

 それじゃ私は子供を産むまで帰れないって事ー!?


「…もちろん。僕は茜さんは今すぐ元の世界に戻る方がいいと思います。貴方はここの世界の方では無いし、縛る事もできません。


 何より茜さんはこの国で1番偉い巫女様ですから、巫女様が帰ると言うと我々は逆らえないのです」


「は、はあ…」


「しかし、神官長様は、何とか巫女様を誘惑してこの世界に留まわせる事を考えています!


 その為に日比野家はあるし、本来ならこの世界の巫女様と僕はお子を成す勤めを担っていました。しかし…」


 ああ、わかってきた。


「この世界の私は殺された…」


「ええ…だから代わりが必要だった。もし茜さんを元の世界に帰しても今度はまた別の世界の茜さんを連れて来るでしょう。そして同じ事を僕に言わせます」


「……」

 そんな…。無理強いはしないけど、私が帰るとなるとまた他の世界の私を連れ出してこちらの世界の巫女にする。子供を成すまで延々と続くの?


「茜さんはやっぱり元の世界に帰りますか?最初は嫌がっていたように見えましたが…」


 確かに。元の世界の日比野くんに雨女と言われたくらいで傷ついてこちらに来た。学校までサボって。


「わ、私は…。


 でも充くんはそれでいいの?私みたいな地味な女の子より綺麗な子の方がいいでしょ?


 それにお役目なんて名目で子供を作っていいの?使命だとしても本人の意思みたいなのもあるじゃない?」


 と言うと充くんは


「確かに。幼い頃からずっと言われてきました。だから僕も反発を覚えることもありました。


 しかし、ある時ね。偶然巫女様とお会いした事がありました。会合の時に」


「会合?」


「小さい頃、まだこちらの世界にも水があった頃でした。11歳頃でしたかね。


 巫女様も小さくて。ちょっとした偉い方々の食事会みたいな物に日比野家も参加することになって僕も顔合わせに入れられました。


 その時にお会いしたのです。しかし巫女様は全く笑わない子供でした。むしろ辛そうと言うか寂しそうな子供でした。


 そうですよね。子供の頃から巫女と言う位置にいて、友達を作ることすら禁止されていたのです。もちろん将来の相手は選べません。


 僕の事も結局最後まで目を合わさなかったのです。僕はとても辛かったです」


 普通に考えたら政治利用だもんね。


「今から思えば…この世界の巫女様は死を望んで生きていたのかもしれません。


 茜さんと初めて会った時も少しそれを感じました。何かあちらの世界でも辛いことがあったのだと…」


「う……」


「だから僕は力になれるならと思ったのです。笑ってほしくて…」

 と充くんは少し辛そうに言う。


「充くんはこの世界の私を幸せにしたかったのかな?だったら私じゃないんじゃ?似ていても違うし」

 と言うと充くんは首を振る。


「いえ、結局同じ事です。世界が違うからと言って全く別人とも言えません。難しいですが、量子学的には同一の部分は必ずいるとされています。同じ人間なのですから…。


 でもそうですね。その日から僕が巫女様を意識し出したのは事実です。きっと茜さんの世界の僕も茜さんが好きなんだと思います」

 と言うから私は驚いて首を振る。


「な、ない!それはないよ!!何言ってるの?」


「は?いや、僕ですし。ズレはあるかもしれませんが意識はしてると思います」

 と充くんはなんかキッパリ言った。

 いやー!?そんなばかなっ!!だったらこっちの世界の私も…。


 あ!


 そうだ、元の世界で私は日比野くんのことは手の届かない太陽だと思ってたから結ばれるとか子供とか考えた事なかったんだ!!むしろ付き合えるとか思ってない!!


 うわーーー!それだとこっちの私も絶対無理だと思ってた??


「…やっぱり戻りたいですよね」


 しゅんとする充くん。

 どうしよう、なにか…何か言わなきゃ!



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