ウクレレが届いた
元気モリ子
ウクレレが届いた
ウクレレが届いた。
ある時、仕事のストレスでイー!!!っとなった私は、職場のトイレで泣きながらウクレレを買った。
今すぐお酒が呑みたい。
こんなもん呑まなやってられん。
寝たい。
それか腹いっぱい温かい白飯が食いたい。
んで寝たい。
というか帰りたい…!!!!!
思い付く限りのストレス解消をトイレの個室で並べたけれど、どれも就業中の今は出来ないと気付き、余計にイー!が増して涙が溢れた。
でも泣くだけではこのイー!は何処かへ行ってくれそうにない。
むしゃくしゃする。
社内全部の蛇口を開いて廻って、水浸しになった廊下を欽ちゃん走りで進みたい。
今すぐ何かで少しでもこのイー!を吐き出さないと、本当にやってしまいそうだった。
もうこうなったらお金を使うしかない。
無駄遣いしてやるんだ。
普段絶対に買わないような、要らないものを買ってやるんだ。知らないぞ。
こうして私は通販サイトでウクレレを買った。
ものの3秒だった。
1万円した。
経済は回った。
その日は帰宅後直ぐにお酒を浴びて、泥のような眠りについた。
土曜日の朝、おしっこで目が覚めた。
時計を見ると10時過ぎを指している。
「よく寝たなあ」と思い、「よく寝たなあ」と言いながらおしっこを済ませた。
ひとつ伸びをしてカーテンを開けると、外はとても良いお天気だった。
なんだか凄く気分が良い!
お茶を一杯入れ、今日は何をしようかと考えていると、ふいにチャイムが鳴った。
寝起きの声で「はい!」と言うと、「お荷物でーす!」と元気な声がする。
まだとても人前に出られる見た目をしていなかった私は、玄関先に置いて貰うことにした。
またひとつ元気な返事が聞こえ、足音は素早く離れて行く。
私何か買ったっけ?
玄関を開けると、足元にはそれなりのサイズの段ボールが置いてあった。
しかし持ち上げてみるとさほど重さはない。
リビングに運び込み、さっそくカッターを一筋入れた。
段ボールを観音開きにしたその時、それは突然飛び込んできた。
!!『☆ウクレレ入門 スターターキット☆』!!
ひー!!!
そうだ!ウクレレを買ったんだ!!!
ひー!!!
あの時の様子が一気にリフレインした。
でももうあの荒んだ私はいないのだ。
此処にいるのは、ご機嫌な私とウクレレだけだった。
ひとまず段ボールからウクレレを出してみた。
これまで全く楽器に触れてこなかった私は、微かに高揚していた。
艶々とした小ぶりなそれは室内に異質な輝きをプラスし、寝起きの目をショボつかせた。
4本の弦を徐ろに撫でる。
ポロロンと頼りなく鳴った。
私はおそらくニヤニヤしていた。
寝巻きのままウクレレ片手に洗面所へと向かう。
電気をつけると、ウクレレを提げた寝起きの女が映っていた。
既にかなりのエンタメを感じた私は、素敵な土曜日を確信し、友人に「ウクレレ始めました」と自撮りを送った。
ウクレレはその日から一度も触っていない。
ウクレレが届いた 元気モリ子 @moriko0201
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます